2章9話「あぁ……♪ 最高よ♪」
巨大蟹へ向かって行くと、マイアッハ達が攻めてくる。
向かってくるマイアッハめがけて、僕、レンラ・バルトレンジは水の球を発射する。
発車された水の球は、マイアッハ達を怯ませる。そこに間髪入れずにアトアグニさんは弓矢を発射した。相変わらずの無表情で。
「良くそこまで無表情に弓矢を発射できるな。別に悪くは無いけど」
「……エルフは狩人ですから。……表情を読まれない訓練……受けた」
なるほど、ね。だから、か。
「だから、動揺してないのか。”あの爆発”は自分で仕掛けた物なのに」
「……! ……どうして」
信じられない者でも見る目つきで彼女は僕を睨み付ける。無表情だから分かりにくいが。
「顔から判断したんじゃないさ。状況から判断した。
どう考えてもあの爆弾は可笑しな事が多すぎる」
アサセノスの仕掛けただろう爆弾。けど、考えてみれば可笑しな事がある。
「あの黒い煙を上げている爆弾は知らないよ。何の目的でやったのかは分からないが、ただの面白みがない普通の爆弾だろう。
そして一番重要視されていたのは、あの白い煙」
そして僕は、走りながらあの白い煙、マイアッハの何倍もありそうな大きな蟹に目を向ける。
「君はマクウエに居る敵、今でいうとウラヌトリ・アテセ・ヤをどうにかして倒したかった。でも、僕達と一緒だとなかなか1人で探しに行けない。君はどうにかして速く敵を発見して、それを全員で倒しに行く算段を付けたかった。
だからこそのあの白い煙。あれならば、すぐに異変に気付く。異変に気づいて、僕達は倒しに行く事になったのだろう。
別にあのアサセノスは敵じゃない。アスクムから聞いたが、『どんぐりの会』は大金と頼みさえあれば、どんな人間の頼みでも受けるのだろ? それは勿論、任務の前の敵の敵の任務だろうと」
つまりはこう言った事だろう。
ウラヌトリ・アテセ・ヤがアサセノスに何かを頼んで、その後にアトアグニさんがウラヌトリ・アテセ・ヤが白い煙でウラヌトリを探すように爆弾に設置する。それアトアグニさんの任務だったのだろう。 今日の朝、アサセノスが会ったのはその任務の帰りだったのだろう。
「……凄い。……こんなに早くバレるなんて」
アトアグニさんはそう言って、ぺこりと頭を下げる。
「……ごめん。本当ならば……説明するべきだった。……でも」
「マクウエを救いたかったんだろ? まぁ、それは後で良いさ」
僕達の目の前には大きな蟹が居る。相変わらず、この大きな『ウラヌトリ命!』の文字は圧巻だな。
「さぁ、登るぜ。アトアグニさん」
「……了解」
そして、僕達はそのまま大きな蟹の甲羅を登って行く。
蟹の甲羅から赤い触手のような物が生まれて、僕達を襲う。
「……ちっ!」
僕は2の太刀、ウナ・コレンテの魔装で瞳を青くして、水の刃を構える。そして、触手をやっつけって行く。
そして触手をやっつけながら、上に行くと露出度高めのボンテージ服を着たサキュバスが居た。
肩より少し長いだけの黒髪と大人な色っぽい日焼けしたような黒い顔、黒の露出度高めのボンテージ服にHカップはありそうな巨乳。腕には子供っぽいピンクのスカーフを巻いており、頭に乗せた自己顕示欲丸出しの銀の王冠を載せている。
ウラヌトリ・アテセ・ヤ。このマクウエを襲撃しているサキュバス。
「むむ……。『どんぐりの会』や『焼け野原の鍛冶グループ』、『魔物牧場』に仕事を頼んだのにね♪ あなた方は誰ですか?」
「僕の名前はレンラ・バルトレンジ。学生業でお前を捕らえに来た」
「……フォルセピア・アトアグニ。……エルフの森……救いに来た」
「そう、面白い相手ね♪ 私はウラヌトリ・アテセ・ヤ。ここでちょっとした美肌をしようとしている、ただのサキュバスよ♪」
「「美肌?」」
まぁ、色気や美しさを求めるのは、夢魔であるサキュバスは美しさを求めるのも当然だけど。
「そう♪ このマクウエの木は焼ける時に発するお香が、美容効果があるのよ♪ だから、私はその美しさのために、この木をもっと、もっと、燃やさないといけないのよ♪」
そう言いながら、ウラヌトリはえい、と指示を出す。
大きな蟹はハンマーを森の一部を押しつぶす。押しつぶすと共に、黒い煙が上がる。
「あぁ……♪ 肌に馴染むーーーーー! 肌に馴染むわね、本当に♪
もっと、もっと! 煙を発生させましょう♪」
どんどんと、大きな蟹のハンマーで煙を発生させる。
「あぁ……♪ 最高よ♪ 本当に最高のお香よ♪」
煙を浴びて笑顔になるウラヌトリに、明らかに不機嫌そうな顔になるアトアグニさん。
「そんな事で……マクウエを……! 許しません!」
アトアグニさんは弓矢を放つ。それを、ウラヌトリさんは”弓矢で撃ち落とす”。
「うふん……♪ 私の美への向上は、この程度では終わりはしないわよ♪」
彼女はハート形の弓を構え、そう言って先端がハート型の弓を放った。




