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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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ちぇり~ぶろっさむ~桜と克巳と秘密の呪文~

作者: 樹遠零

「・・・世界は狙われているのっ!!」


 暗闇にスポットライト。その中央で一人の女性が声を張り上げる。

 白衣に瓶底メガネ、ぼさぼさ頭に色気の感じさせぬ幼児体型と、もはやこれ以上ないと言うぐらいに『そのまんま』な格好で、その女性はありもせぬカメラに向かってポーズを決め、たった一人の観客にその演説を聞かせている。


「んで、結論は?」


 対する一人の観客。コタツに入り、ぱりぽりと煎餅を齧っている女性が、退屈そうに言葉を返す。こちらの女性は白衣の女性と異なり、スーツに色気抜群のスタイルを押し込み、艶のある黒の長髪がやばいくらいに決まりまくっている。


「安易に結論を得ようとするのが素人の浅はかさね・・・って、その煎餅ってば私のじゃないのよっ!!勝手に食べないでよ美咲お姉ちゃん!!!!!」

「ん~、恵美ってばダイエット中でしょ?だったら間食は禁止禁止ぃ~」


 と、白衣の女性、恵美は、コタツの女性、美咲の口に咥えられた煎餅を実力行使で奪いに走るが、美咲はひらりとそれをかわす。


「ぐむむむむむむむ・・・」

「ぐむむは良いけどさ、さっきの話の続きは?わざわざ遊びに付き合ってあげてんだから、とっとと終わらせなさい。

 スコップの番組まで時間も無いのよ」


 唸る恵美を前に、美咲はもうじき始まる某男性アイドルグループのテレビ番組を気にしながら、恵美の続く行動を促していく。

 もちろん、コタツに置かれた次の煎餅にその手を伸ばしながら、だ。


「こほんっ・・・世界は狙われているのっ!!

 具体的にどう狙われてるかはさておいて、とにかく狙われているのよっ!!」

「ほほー、細かい突っ込みはともかく、それで?」


 恵美は暫し美咲の手元の煎餅を恨めしげに睨み付けていたが、気を取り直し、再びスポットライトの中央に移動すると、先の演説を再開する。


「愚鈍な世間は、政府はそれに気付きはしない。ならば国民がっ、県民がっ、市民がっ、町民がっ、とあるご家庭の正義の科学者がっ、その危機を救わなければならないのよっ!!」

「どんどんスケールダウンする説明に意味があるのかは謎だけど、恵美。あんたは正義の科学者ってよりマッドサイエンティストのがぴったり来るわよ」


 冷静な美咲の突っ込みをスルーしつつ恵美はどんどんとヒートアップしていく。


「そして私は用意したのっ!!正義を守る無敵のヒーローをっ!!

 あぁ、私の才能に私自身が嫉妬しちゃうぅ~」

「・・・で、結論は?」


 自分自身を抱きかかえつつビクンビクンと不吉な痙攣を繰り返す恵美に、美咲は心底あきれた表情で次に来るであろう恵美の『要求』を待つ。ここ最近のいつものパターン、毎日のように繰り返される日課の結論を。


「んでぇ、お姉ちゃぁん・・・お金貸して。買った封印石が偽者ばっかで金欠なの」

「ったく、通販の封印石なんかに本物があるわけないでしょうがっ!!」


 恵美の手によってぶちまけられる石、石、石。

 水晶に石英に真珠にと、明らかに見た目『だけ』のそれらを一瞥すると、美咲は大きく溜息をついて恵美の肩を叩く。


「前に一度成功してるんだもん」

「はいはい、『中身』と一緒に明日手に入れてきてあげるから、今日は寝なさい」


 それでもぶつぶつと口篭もる恵美を尻目に、美咲が部屋の照明を入れに立ち上がると、恵美が何時の間に操作したのか、スポットライトの明かりがピンク色に変わる。


「うふふ・・・このお礼は私の身体でっ!!お姉ちゃんにならいいの。私のはじめてを、あ・げ・る」

「ホントに破るわよ。冗談はそれくらいにして、早く寝なさい。

 ったく、こんなのが学校の教師だなんて、日本の将来が心配だわね」


 と、するすると白衣を脱ぎだす恵美の頭をこつんと叩き、美咲は色々な意味で衝撃的な台詞を紡ぎ、いそいそとテレビのリモコンに手を伸ばす。


「び~だっ!!アイドルマニアでショタな美咲お姉ちゃんに言われたくないよっ!!お姉ちゃんの下僕達が不憫だね、いくら貢いでもお姉ちゃんの身体は手に入らないんだからっ!!」

「はじめてでフィストって貴重な経験かも知れないわね、美咲?」


 可愛らしく舌を出して嫌味を言う恵美に、ごきゅりっと拳を鳴らしながら美咲が返す。


「じょ、冗談じゃない。お、おやすみ~」


 慌てて真っ青に顔色を染め上げた恵美が部屋を飛び出ていくのを見送り、美咲は独りぽつりと呟いた。


「正義のヒーロー、ねえ」



 ***



 運命とは決められたレールの上を歩くようなものだと仮定しよう。

 全ては何者かにあらかじめ決められ、そして人々はその運命に抗いながらも従うほか無く、日々を生きていくと仮定したのならば、彼、御門達也(みかど たつや)に設定された運命は、最も悲惨な部類に入る代物であった。


「おいっ、どうにかならないのかよ、これっ!!」

「まだ生きてるんだぞ、あいつ」

「どうにか助けられないのかよぉ!!」


 燃え上がる世界、街、車。

 それはどれほどの事故なのだろうか、10台以上の車からなる玉突き事故の中にあって、いまだ辛うじて炎に包まれていないその一台のバスの中に、達也の姿はあった。


「消防車は?」

「向かってるって聞いてるが、間に合わんぞ、これ」


 歪んだ車体、ドア、ガソリンに引火し、爆発し炎を上げる車たち。

 そんな世界でただ一人取り残された彼は、呆然と周りで加速する世界を眺めていた。


「・・・失敗、したなあ」


 本当ならば逃げられる筈だった。

 全てを捨てて一目散に逃げ出せば、自分だけは助かるはずだった。

 だが、ほんの少しの躊躇が・・・逃げ送れて倒れた少女を抱き上げた、ただそれだけの行動が、達也をこの地獄の中に置き去りにした。少女は潰れかけた窓枠の隙間から逃がした。が、自分の身体はそこを通らない。故に達也はこの場に残り、襲い掛かる炎たちを冷めた瞳で眺めていた。


「っ!!っ!!!!!」


 外で叫ぶギャラリーたちの声は届かない。

 それ以前に、無尽蔵に上がっていく温度の中で意識を保つのも難しい状況の中で、達也の心は自然と落ち着いていた。もはや何をもってしても助からぬ絶望的な状況。だからこそ達也は全てを受け入れ、そして最後に呟いたその台詞は、最後だからこそ彼にとって切実な願いであった。


「せめて、初体験ぐらいは終わらせたかったなあ」


 同時に、炎が世界を包み込み、全てが闇へと落ちた。

 最後に炎を貫いた一つの台詞を一緒にして・・・


『いいだろう、その願い、叶えようじゃないか』



 ***



「さて、とうとうこの時がやってきたのね・・・にゅふふふふふふ」

「昨日の今日だけどね」


 某研究室。

 あからさまに怪しげで危険なブツたちがひしめき合うその部屋の中央で、更に不気味な笑い声を上げる恵美に、美咲は大きな溜息と共に突っ込みを入れる。


「あぁ、これで私の夢が叶うのねっ!!

 愛らしさと強さを兼ね備えた美少女タイプ!!あらゆる意味で完璧いっ!!」

「あ・・・ちょっと待って、恵美」


 自分の身体を抱きしめながら悦に浸り始める恵美に、美咲はあからさまに顔色を変えて静止に入る。


「ん、何、お姉ちゃん?」

「いま、美少女って言ったの?」

「・・・うん」


 突然の美咲の静止に、恵美は首をかしげながら問いを返すが、美咲の顔色はあからさまに青くなっていく。


「ってことは、やっぱり女の子よね?」

「少女って言えば普通はそう・・・って、お姉ちゃんまさかっ!!」


 そしてそこまで言われれば美咲の言わんとする言葉の意味にも気付き、恵美までも顔色を真っ青にして美咲を問いただす。


「男の魂拾ってきちゃったのっ!?」

「ヒーローなんて言うからてっきり・・・しまったなぁ」



 ***



「・・・ん」


 彼にとってその目覚めはある意味最悪だった。

 自分が死ぬという特級品の悪夢。それを信じられないほどのリアルさで見せ付けられ、そして目を覚まそうとすればあまりに重い自分の身体。まるで鉛が入っているかのよう、そんな感想を思い浮かべた矢先に、未だ像を結ばぬ彼の視界に、影が差し込んだ。


「あ、目がさめたみたいよ」

「ショックで壊れなきゃいいけどねえ。無茶するわ、あんたも」


 混乱する意識。

 その片隅でその声が聞き覚えのある物だと認識し始めたとき、視界の中の影をようやく認識できた白の白衣を来た女性・・・顔は逆光になってよく見えないが、しかし確かにそれが人であることは認識できた。


「ちゃんと見えてるみたいね、問題なしっと」

「ここは、何処・・・?」


 いいつつ、彼はその小さな手で瞼を擦りながら身体を起こそうとするが上手く行かない。

 そんな彼を支えつつ、恵美はゆっくりと言葉を選びながら言葉をかける。


「何で、こんなに?」

「仕方ないわよ、色々と無理があるからね。

 すぐにバランスの取り方に慣れるから大丈夫よ」


 身体が動かないんだ?と問いかけようとした彼の中で、記憶のパズルが組みあがる。悪夢だと思っていた事故の記憶、それは夢などではなく、確かに自分が遭遇した現実のものである・・・と。


「生きてる?」

「質問が多いわねえ、生きてるわよ、ちゃんと。

 所で君、名前は?」


 確かに自分は死んだはずだ・・・そんな確信からの問いだったが、それを受けた恵美はさも当然とばかりにそれを流して問い掛けるが、その問いに彼が口を開こうとした瞬間、横から言葉が割り込んだ。


「そうじゃないかなあって思ってたけど、やっぱそうか。

 丁度いいっちゃ、いいんだけどねえ」

「何が丁度いいのよ、お姉ちゃん?」

「・・・?」


 先から一歩引いて何やら資料を眺めていた美咲。

 その突然の言葉に、二人は不思議そうに美咲の方へと質問を投げる。


「その子、中身は御門達也君よ。

 恵美の受け持ちの生徒でしょ、彼?」


 と、そんな美咲の説明に、二人は引き寄せられるようにお互いの顔を見つめあい、そして数秒の後、お互いの記憶領域でパズルが合致する。


「タツヤ・・・くん?」

「恵美・・・センセ?」


 二人は互いを名で呼び、ゆっくりと視線が同じ経路を辿りだす。


 最初は突き出された手を。

 次いで、その手が掴む黒の長髪を、小さな胸を。

 そして、小さな掌が、その顔を頬を撫でるのを追いかけ。

 最後に、服のズボンを開き、その中に隠れている「ひ・み・つ」の部分を凝視する。


「よくできてるでしょ?」


 そこまで確認し、恵美が「にへら」という笑みとともに問い掛けたところで、彼の全ての意識が覚醒した。


「な、何ですか、これぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」



 ***



 15分後。


「うん、似合ってる似合ってる。本来の目的とは違うけど、いっか」


 部屋を揺るがすほどの叫び声が収まった後、一人せっせと作業を続けていた美咲が、額の汗をぬぐいながら満足そうに立ち上がる。


「あ~まだ耳がキンキンする・・・って、へぇ~」


 その隣で、頭を軽く叩きながら呟いていた恵美が立ち上がった美咲の傍らにある存在に気付き、心底感心したような表情で、溜息を漏らす。


 そこには、一つの芸術があった。

 丁寧にブラシを入れられた髪を飾る黒のリボン。

 黒のフリルで飾られたゴスロリドレス。

 手と足は、素肌を露出させないように同じく黒の手袋と靴下を履かされ。

 それら全てが、少女の透き通るように白い肌を際立たせる役目を果たしている。

 それは言うなれば計算され尽くした芸術が一つ。

 それが、今確かにここにあった。


「よくこんな服持ってたね、お姉ちゃん」

「昔の恵美のお古よ。昔、よく着せられてたの覚えてないの?」


 と、何となく思いついた質問を美咲に投げる恵美だが、直後に帰ってきた返事に「それ」を身に付けた自分の姿を想像し、あからさまに嫌そうな顔で硬直する。


「あの、とりあえず説明してくれませんか?」


 と、そんな二人のやり取りを呆然と見つめていた芸術品・・・もといタツヤが、恐る恐ると言う感じで、二人へと問い掛ける。


「あ~と、簡単に言うとね、君は死んで今日から正義のヒーローなの」

「それじゃ意味がわからないわよ、ばかちんっ。

 ええと、タツヤ君・・・って呼びにくいわね、恵美っ、この身体の名前は?」

「ったいなあ、桜よ。素体に使ってるサポートOSの名前」


 簡潔といえば究極に簡潔な説明でケリをつけようとした恵美の頭を小突きながら、美咲はやれやれとタツヤ・・・いや、桜へと説明を始めていく。


「と、いう訳でタツヤ君改め桜ちゃん。君は自分が死んだって事は認識してるわね?」

「・・・はい」

「OK。なら説明は簡潔に。私は死に瀕した貴方の魂を救い、恵美がその魂の受け皿を作った・・・それが全て。そしてその身体が用意された目的が『正義の味方』って訳よ」


 -いいだろう。その願い、聞き入れようじゃないか-


 説明と同時に、桜の脳裏に闇の中に響いた最後の声が響き渡る。確実に届いていた死の現実、そこから自分を救い出してくれた存在が美咲だと認識する。


「それはありがとうございます。でも『正義の味方』って?」

「世界は狙われてっ・・・むぐぅ!!」

「恵美は黙ってなさいっ、話が混乱するっ!!・・・まあ、この子の道楽よ。

 その身体での生活は保障してあげるから、適当に付き合ってあげなさい。」


 桜の質問に、嬉々として恵美が声を張り上げるが、その恵美の口を押さえながら、美咲はその説明を終わらせ、そして先から手にもった本を、恵美へと放り投げる。

 『私立舘峰学園クラス名簿』と書かれたその本を。


「編入は恵美のクラスで良いわよね?元から通ってたクラスだから、処理も簡単でしょ」

「うん、正義のヒーローが学校に通うのは基本よねっ!!」

「はぁ・・・って、こ、この身体で?」


 そこまで受身に聞いていた桜だったが、そこが明らかに身近で、しかも色々な意味で危機的な内容になったのを知り、慌てて椅子から立ち上がる。


 -こんな姿になった自分をクラスメイトに見せられる訳が無い-


「当然でしょ、それとも見た目どおり幼稚園にでも通ってみる?別の意味で大変よ」

「園児服?そんな趣味があったんだ、桜ちゃんには」


 しかしそんな桜の前に差し出されたのは、黄色の園児服に帽子。

 断ればそれを着せるとばかりに二人の瞳が語っているのを目の当たりにし、桜は泣く泣く承諾の言葉を返す。幼女となった身で、仲間にその身を晒す承諾を。


「は、い・・・分かりました」



 ***



「みんなおはよーって、暗いわね・・・まるで葬式みたいよ」


 翌日。

 ギリギリまでくずぐずしていた桜を、文字通り「首根っこを捕まえて」学校まで連れてきた恵美は、教室の中の暗い雰囲気に絶句する。


「一体、どしたのよ。克巳君、説明できる?」

「先生。御門君が死んだの、聞いてないんですか?」


 と、当然そんな雰囲気に耐えられるはずも無い恵美が、手近に座る須藤克巳(すどう かつみ)。-学園で最も女装の似合う美少年として悲しくも有名な少年-を捕まえて問えば、部屋の空気が一気にお通夜現場のソレへと落ち込んでいく。


「あ~、御門達也君・・・か」

「車も爆発して、何も残らなかったって。最後に、顔を見ることも」

「馬鹿は死ななきゃ直らないって言っても、死んじゃあ何もならないのにね」


 気まずそうに頬を掻く恵美に、泣き崩れる克巳、肘を付き外を眺めながら呟く女子生徒。

 程度の大小こそあれ、恵美を除き、皆が皆、悲しみに沈んでいた。


「そ、その・・・達也君なんだけどねえ、そのぉなんてゆーか。

 ちょっと入ってきなさい、桜」


 その雰囲気に押され、何をどう説明したら言いかテンパり出した恵美は、どうにでもなれと言う気持ちで、廊下の外に立たせておいた桜へと声をかける。


「し、失礼しま・・・す」

「「「???」」」


 当然廊下の桜にも教室の中の声は聞こえていた。

 故に、自分が今生きているという現実のありがたみを、自分の死を悲しんでくれたクラスメイトの友情に涙しながら、ゆっくりと教室の中へと入っていった。


「この娘は御門桜ちゃん。今日からみんなのクラスメイトってことになるわ」

「あ、御門桜で・・・す。今日からよろしくお願いします」

「「「へ???」」」


 紹介されたのは身の丈1メートルちょっとの少女。

 自分たちと同じ制服を着ているとはいえ、幼稚園から抜け出して来たとしか思えぬ桜の姿に、クラスメイト達の頭の中は疑問符で一杯になる。そして、だからこそ恵美が「ニヤリ」と悪戯を思い浮かんだ表情を見せたことを、誰もが気付けなかった。


「んで、中身は御門達也君っ!!らぶり~になってみんなの前に復活なのよ~」

「恵美先生っ!!それは黙っててくれるって・・・・・・・・・はっ!?」


 突然の爆弾発言に、当の桜すらもその恵美の台詞に意表を突かれたのか、思わずその台詞を全力全開で肯定してしまう。


「と、言うわけなのよ、にゅふふふふふ」

「・・・しまった」


 心底嬉しそうな恵美、そして自分のミスに顔を青くする桜を前にして、ここでようやくクラスメイト全員が再起動し、そして『お約束』ともいえる叫び声が教室を響かせた。


「「「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」



 ***



「ほ、本当に達也君なの?」

「・・・はい」

「な、何でそんな姿に?」

「・・・聞かないでくれ」


 等々。

 再起動を果たしたクラスメイト達から恐る恐る投げられる質問に、桜は一つ一つ返事を返していく。当初、クラスメイト達は、純粋な疑問や興味から質問を投げていたが、対する桜の態度によって、その風向きが変わっていった。


「その服は自分で?」

「美咲先生が・・・その、用意してくれて」


 桜は、こんな姿になった事への羞恥からか、それをクラスメイトに見られている事への羞恥からか、顔を真っ赤にしてまま、俯いたままで一つ一つ質問に答えている。

 そんな、顔を真っ赤にし、モジモジしながら恥ずかしい質問に答えていく幼女の姿はあらゆる意味で危険極まりない羞恥攻めと同意であり、当然、それを目の当たりにしているクラスメイト達は、あっさりとノーマル属性からカミングアウトしてしまったのである。


「トイレとか体育の時の更衣室とかはどうするの?」

「・・・職員用のを使って良いって」

「それなら問題ないわよ。桜ちゃんの面倒は私たちがきっちり面倒見てあげるから」

「ありが・・・え?」


 対して、俯いたままで質問に答えていた桜は、当然のごとくそんなクラスメイト達の変化に気付くのが遅れ、慌てて目を上げたときには全てが手遅れであった。


「み、みんな・・・目が怖いぞ」

「問題ないわ、全てはシナリオ通りよ」


 目を血走らせ、鼻息荒く自分を見つめるクラスメイト達の姿。

 それは完璧に桜の常識の外の世界であり、そんな『異空間』を前に怯える桜の姿は、更にクラスメイト達を刺激しと、もはや救いようの無い無間地獄であった。


「んじゃ、後はみんなで仲良くね・・・HR終わり~」

「せ、せんせぇ!?」


 そして、最後の頼みの綱たる恵美の救いはあっさりと消えてなくなり、後には色々な意味でカミングアウトしたクラスメイト達と、恐怖に震える幼女一人が残された。


「「「うふっ、うふふふふふふふふふふふふふ・・・」」」

「・・・ひぃ」



 ***



「何か美少年を前にした美咲お姉ちゃんみたいな顔してたわね、みんな」

「・・・ま、いっか。私にはアレの準備があるしね。さ、急げ急げ~」



 ***



「・・・こくり」


 響くのは桜が喉を鳴らせた音。

 教師という最後の堤防があっさりと消え去り、教室内は微妙な緊張感の上で静寂が包み込んでいた。何かきっかけがあれば全てが決壊するその状況にあって、誰もが動けない奇妙な沈黙の中、最初に動いたのは普段もっともそのような行動が似つかわしくない人物であった。


「御門君っ!!御門君っっ!!!みかどくぅん~」


 須藤克巳・・・桜の正体が知れてからずっと硬直したままでいた少年。

 それが、目に涙を一杯に浮かべ、一直線に桜の元へと駆け寄り抱きしめる。


「か、克巳っ!?」

「「「・・・っ!?」」」


 普段は異常なほど大人しい『受け』少年。

 そのあまりにもの暴走ぶりに、他のクラスメイト達は動くきっかけを更に失い、二人の行動を見守るしかない状況になったのだが、そんな事はお構いなしと、克巳は桜の胸に顔を埋めると、桜の胸元を涙でぐしゃぐしゃにしながら己が思いをぶちまけていく。


「御門君が死んだって聞いたときの僕の絶望が分かるっ!?生きてても仕方ないとまで思ったんだよ、御門君の下へ追いかけてこうとも思ったんだよっ!!!!でも、でもっ本当に生きてるんだよね、嘘じゃないんだよね?もうどっかに行っちゃったりしないんだよね?」

「あ・・・あぁ」


 桜自身も始めて見る克巳の激情。

 それに気圧されながらも、先まで自分を襲っていた異常なプレッシャーが嘘のように消えていることを意識の片隅で確かに認識し、桜は軽く微笑みながら自分の胸に顔を埋めたままの克巳の頭をだきしめる。


「・・・ちゃんとここにいるよ、俺は」

「うん、うんっ!!」


 そんな二人の光景は、傍から見れば幼女の胸で泣き崩れる美少年(美少女でも可)な光景であり、プレッシャーが消えたなど全て桜の勘違いであることは間違いない。


(((・・・いいっ!!)))


 それを裏付けるがごとく、クラスメイト達の頭の中では、裸の桜と克巳がくんずほぐれつな光景がシミュレートされまくっており、状況は加速度的に悪化しまくっていた。


「二人とも、そろそろ席に戻ってくれるかしら?もうじき先生がくるから」

「あ、うん」


 一見、平常心を取り戻したかのような普段どおりの台詞。

 しかし、その目は完璧に座っており、網にかかった獲物を逃すまいと、桜と克巳を除くクラス全員が無言のうちに協力体制を確立する。


「あ、席も移動させましょう、そこの君と君、あっちに移動して二人を並んで座れるようにしてあげていいかな?(そこならみんなから良く見えるポジションよね)」

「当然ですよっ!!(色々な意味で・・・っすね)」

「桜ちゃんは鞄も持ってないのね、確かアレがあったわよね?(例のブツよっ!!)」

「じゃ、私もってきますね~(赤のランドセルですね、すぐ買ってきますっ!!)」

「お、ちょっと忘れ物だ、すぐ戻ってくるからいいか?(ふっ、写真部へいってくるぜ)」

「すぐ戻ってきなさいよ、先生もそろそろ来るから(一番高いカメラ持ってきなさいよ)」

「しまった、今日は体育があったわね?(すくぅる水着、手に入るかしら?)」

「問題ないですよ、私が妹のお古をお昼休みに借りてきます(胸の名前も用意します)」


 と、まあ不自然なまでに丁寧な言葉回しで淀みなく動くクラスメイト達。

 それを桜と克巳は呆然と眺めながら、振り回されていた。


「では改めて(体育の授業こそ我らのエルドラドよっ!!)」

「「「ようこそ、桜ちゃん(イエスっ、サー!!!)」」」



 ***



「え~御門。それでちゃんと見えてるのか、お前?」


 授業開始後、暫く。

 それまで淀みなく授業を進行していた教師が、非常に言いにくそうに口を開く。


「な、何とかなってますので気にしないで下さい」


 対する桜だが、その姿は教師からでは首しか見えていない。

 明らかにサイズ違いの机と椅子に座っている状態では、辛うじて首が机の上に出るのみで、ノートを取ろうとすれば椅子の上に立ち上がるしかない状況であり、色々な意味で見ている方がハラハラして仕方が無い。


「・・・まあ、お前が大丈夫なら構わないんだが」

「ノートなら僕が後で見せてあげるからさ、無理しないで」

「あ、ありがと」


 そこまで言われれば納得するしかない教師だったが、それ以上に先から妙なプレッシャーが教室内に充満しまくっており、授業の進行が辛くて仕方なかったりしていた。


(((・・・いいっ!!)))


 ちょこちょこと動く桜。

 立ち上がってノートをとったり座ったりするだけでも十分なのに、偶にバランスを崩しかけてよろける姿や、注意が足らないのか、スカートを背もたれに引っ掛けてのチラリズムを見せたりと、もはや狙っているとしか思えないくらいのサービス過剰状態に、クラスメイトの興奮ゲージは素敵に真っ赤であった。


「あ~ちょっと良く見えないか」

「持ち上げてあげるよ、はい」

(((萌え萌え~)))


 更にそうかと思えば、影になって見えない部分を覗き込もうと爪先立ちする桜の脇を掴むようにして、克巳が『たかいたか~い』状態を見せてくれたりと、ネタには事欠かぬありさまで、授業の時間は過ぎていった。


「本当にやりにくいな、なんだ今日のこのクラスは?」



 ***



「あ~とだな、これは何の冗談だ?」


 勉学に疲れた生徒達の憩いの時間、昼休み。

 クラスメイトの「桜ちゃんの昼食は準備済みよっ!!」との勧めに従い、ごちそうになろうとした結果が、桜の試練の始まりだった。


「・・・見てのとおりよ」

「いや、確かにそうだが。これを食えと?」


 桜の前には、トレイに乗せられたランチが一セット。

 小盛りご飯にハンバーグ、スパゲティにフルーツと、名前だけ並べれば問題無いように感じられるが、ご飯の上に旗が立てられていたり、箸ではなく花柄のスプーンとフォークが用意されたりする状況は、どうみても『アレ』としか認識できない代物であった。


「これってお子様ランチだろっ!!いや、それ以前にどうやって手に入れた!?」

「・・・出前ってシステムは便利よね。あ、お金は良いわよ、ちゃんと元は取るから」


 何の元だよっ!!と叫びたい気持ちを必死で堪えて、桜は目の前のお子様ランチを凝視する。

 お子様ランチ、机の隣に置かれた赤のランドセル、頭に付けられた巨大な赤のリボン等、それらを冷静に考えれば、クラスメイト達が自分に何を要求しているかは痛いほどに分かってしまう。分かってしまうが、だからといって逃げられらいのも重々承知な状況にあって、せめてもの抵抗と、みなを喜ばせるような仕草はすまいと決意する。


「食べりゃいいんだろ、分かったよ」

「そうそう、最初からそうすればいいのよ、ねえ克巳君?」

「あはは、似合ってるから良いんじゃないかな、御門君」


 となればと桜はスプーンとフォークを両手に、お子様ランチ制覇に突入するが、既にその時点で自分の行動が萌え状態に突入している事に気付いておらず、更には昔の感覚で食べ始めるものだから、口の周りをソースでべたべたにしてしまったりする光景は、言うまでも無く終わりまくっていた。


「口が汚れてるよ、御門君」

「・・・あ、悪い。ちょっと感覚がズレてて」



 ***



「あれ?克巳君、桜ちゃん置いてどっか行くの?」

「うん、ちょっと美咲先生に呼ばれてるから」


 食事も終わって一呼吸。

 お腹一杯になった桜は、あっさりと眠り姫になってしまい、それならばと何処からか用意された布団に寝かせられ、撮影モデルにさせられてしまっている横で、克巳は教室を後にする。


「次の授業は体育だからね、男女別とはいえ、遅れちゃ駄目よ」

「分かってるよ、それじゃ」



 ***



「・・・おきなさいよ、桜ちゃん」

「うぁ?」


 夢の世界にあった桜は、身体を揺さぶられ、掛けられる声に現実世界へと帰還した。


「あ~やっぱ夢だったか・・・って」


 夢の世界での桜は達也の身体で、裸の女性に囲まれてのハーレムな夢だったのだが、起きてみれば視界に飛び込んでくる小さな自分の掌に、大きく溜息をついて・・・そして固まった。


「ななな、何やってんだ、お前らっ!!!」

「何って、水泳の授業の準備じゃない、何言ってるの?」


 桜の目の前には、先の夢の光景と同じ、裸の女、女、女。

 みながみな、あられもない格好で桜の目の前にいる。


「そ、そうじゃなくて俺は男だぞっ!!素っ裸で恥ずかしくないのか!?」

「今は女の子じゃない。それに今から桜ちゃんも脱ぐのよ、問題ないわ」


 至極真っ当な桜の指摘を、その女生徒はさくっとスルーし、そして危険な笑みと共に桜の目の前へで仁王立ちになる。


「おお、俺も?」

「当っ然!!ちゃんと水着も用意してあるし、着替えも手伝ってあげるから安心しなさい。

・・・もちろんみんなでね」


 そんな女生徒へと桜が視線を上げれば、その視界一杯に素敵領域が展開しまくっているのだが、当の女生徒の持つ名札に『さくら』と書かれたスクール水着、そしてかなり逝っちゃってる瞳でにじり寄って来る裸の女の群れの前に、桜の表情は加速度的に真っ青になっていく。


「に、逃げっ・・・」

「られませ~ん。さってさって、桜ちゃんのアソコはピンクかなあ?かっわいいミニチュアちゃんとご対面~」


 くるりと振り返り、戦略的転進を図ろうとする桜だが、次の瞬間には軽々と持ち上げられ、その持ち上げられたまま、服を剥ぎ取られてゆく。


「ちょっと止め、あぅ・・・やーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 後には、色々な意味で悲痛な桜の叫び声が、延々と響いていた。



 ***



「それで、覚悟は出来たのかしら、克巳君?」


 美術準備室。その窓際に背を預けるようにしながら、美咲が克巳に問いかける。


「・・・何故、御門君なんですか?」


 対する克巳は、先までのクラスでの姿からは想像できないほど暗い表情で、美咲に問い返す。

 そう、まるで達也が死んだと落ち込んでいた朝のように。


「恵美が必要とし、御門君が死に瀕していたから選んだだけ。全くの偶然よ」

「でも、納得できない。御門君が何で」


 お手上げのポーズで軽く返す美咲だが、次の瞬間にはその表情が硬くなる。


「気付いてるわよね?既に集まっているわよ」

「はい」


 二人が見るは、何の変哲も無い青い空。

 その何も無い筈の空を見、二人は苦々しく表情をゆがめていく。


「御門君・・・桜を繋ぎとめる魂の鎖は童貞であったこと。

 桜となった今は、処女であることって訳だけど、もう気付いてるみたいね奴等」

「どうなるんですか?」


 美咲が呟き、克巳が問い掛ける。

 その問いに、美咲は大きく溜息をつき、そして開く。


「『容器』に潜りこむには、既に入っている『中身』と『鍵』が邪魔になる。となれば、鍵を、鎖を解き放ち、中の魂を食らい尽くせばいい・・・分かるわよね?犯されるわよ、桜は」

「あんな小さな身体なのに!?」


 目を見開く克巳に、美咲は大きく首を振る。


「サイズは関係ないわ。

 奴等は桜が抵抗出来ないのを良いことに無理矢理に陵辱するでしょうね。泣こうが喚こうが関係ない、もし受精が可能な素体ならば孕ませて子にも宿ろうって連中よ」

「それで、僕はどうすれば良いんです!?」


 美咲の言う光景を想像したのか、目をそらして吐き捨てるように言う克巳に、美咲は目を閉じて静かに口を開く。


「一つは、桜を見捨て、現出した魔を滅すること。

 一つは、魔よりも先に桜の器を破壊すること。

 最後に、魔に貴方の魔力を持って器を用意し、それを滅ぼすこと」

「選択の余地は無いって事ですか?」


 克巳の問いに、美咲は小さく頷く。


「言うまでも無いけど、それを選択すれば終わりは無いわ。

 奴等は常に存在する。桜ある限り終わることの無い戦いに、君は耐えられるかしら?」

「・・・」


 無言のままの克巳に、しかし美咲は微笑みを返す。


「でもまあ、恵美のばかちんが余計なことをしたからね。

 あの桜は物理的な存在にはかなりの戦闘力を持ってるはずよ。

 となれば、君は魔の器を作るだけで良い。ずっと繰り返すことも決して不可能ではないわ」


 美咲の言葉に、少しだけ表情を緩めた克巳を確認し、美咲はそこでまた問い返す。

 最初に投げられた、全ての結論たる問い掛けを。


「ならば再び聞くわよ。覚悟は出来たのかしら、克巳君?」



 ***



「うっ、うっ、汚されちゃったよぉ」


 プールサイドで足を抱えて座り込む幼女。

 伏せた顔は見えぬが、間違いなく泣いているであろうその姿は、憐れみや憤りを越えて、周りの嗜虐心を刺激しまくっていた。


「ちょっと見られたくらいで落ち込んでたら、これから辛いわよ」

「・・・っ!?」


 そんな桜に背後からの声。

 その女生徒は「びびくぅっ!!」と過剰に反応する桜の様子に笑みを浮かべると、その隣に座り込んでゆっくりと語り始める。


「みんな、死んだと思ってた御門君が生きてて嬉しいのよ。

 ちょっと度が過ぎるかと思うけど、それも友情だと思って受け入れたら?」

「その台詞を言っている当人が率先して暴走している気がするんだが」


 シリアスな台詞に似合わずニヤケまくってるその顔を見ることなく桜は突っ込みを入れ、しかしそれでも何か吹っ切れたのか、おもむろに立ち上がると高く跳躍してプールに飛び込んでいく。


「飛び込むのは良いけど、桜ちゃんには深すぎるわよ、うちのプールは・・・って、やっぱ沈んだか」


 そんな桜に女生徒は冷静に忠告を入れ・・・たのはいいのだが、既に時遅く、桜はもがく間もなくプールの底へと沈んでいく。それを確認し、その女生徒は大きく溜息をつくと、桜の救出作戦に乗り出した。


「筋力も何もかもが違うってのに昔の調子で動くからよ。

 あ、あなた、浮き輪って準備してあったわよね?」

「当然ですよ~萌え萌え~」



 ***



「・・・不服そうよね?」

「不服だ」


 溺れかけた所を助けられ、礼を言おうとした瞬間に突きつけられた浮き輪。それが無言の強制となって、桜は浮き輪に捕まりながらプールの中央に浮かんでいる。


「泳げないどころか浮かべないんだから仕方無いでしょ」

「む~」


 何を言おうと溺れた自分が悪い以上、何を言っても無駄だと分かっているのか、黙って頬を膨らませたまま、ゆらりゆらりと水面を漂っていると、影が差す。


『にょ~ほっほっほっほっほっ!!』

「ん?」

「・・・何?」


 同時に響く高笑い。

 何事かと声の主を探す皆の前で、プール管理棟の上に人影が踊る。


「ドジっ娘、かなづち、浮き輪っ娘。すくみじゅフェチには堪らぬ至宝。

 ならばさくっと回収転売御免。覚悟しなさい萌え萌え桜っ!!

 魔法少女マジカル・カッツェ、お呼びでないのに参上よっ!!」

「あ~」

「・・・えーと」


 露出過多なボンテージファッションに高笑い、意味不明な口上に自身を魔法少女と称する少女を前に、それを見つめる桜たちの時が凍りつく。


「にゅふふふふ、恐怖で動くこともままならないようね。

 そうっ、それでこそ生贄にふさわしいのっ!!あぁ、弱者をいたぶる、か・い・か・んっ。逝っちゃいそうよ~!!」

「・・・春は終わったわよねえ」

「えーと、黄色い救急車って来てないかな?」


 硬直した桜たちにその少女-カッツェ-は気を良くしたのか、自身を抱きしめながら素敵に悦に浸るが、直後に飛んでくる桜たちの痛烈な突っ込みに「ビシィッ!!」と大きな音を立てて石化する。


「あ・・・固まった」

「視線合わせちゃ駄目だぞ、襲い掛かってくる」

「ふっ、ふふふふふふふふふふふふ・・・にゃ~はっはっはっはっはっ!!。

 こぉのカッツェ様に暴言とは良い覚悟ねっ!!ちょっと痛い目を見てもらおうかしら?

 かっもぉ~ん、マジカル・モンスターっ!!!」


 その(本人にとっては)予想外の桜たちの反応に、相当ショックを受けたのか、カッツェはちょっち逝っちゃった表情で叫ぶと、おもむろに空に手を突き出して、何かを掴む。先までは何も無かったはずのその空間、しかしそこには一本の鎖が垂れ下がっており、その先は空にぽかりと黒い口を開けた穴が繋がっている。そして、カッツェがそのままその鎖を力一杯引けば、黒の穴はその径を見る間に広げ、その口から一体の『何か』を吐き出して消える。


「な、何よ・・・あれ」

「す、すらいむ?」


 身の丈5メートル、歪な球体の半透明の身体に無数の触手を伸ばし、何処にあるのか謎な口から不気味な呻き声を上げるその『何か』。その形容しがたいそれに名をつけるならば、確かに桜が呟くようにスライムとしか表現できないそれは、その巨体をプールへと沈ませていく。


「ん~びゅーてぃほー、流石は魔界のモンスター、美しくて力強いわね。

 ではでは、しょうた~いむっ!!」


 そしてカッツェの言葉に従い、スライムの持つ触手たちが乱れ飛んだ。

 プールという檻に捕われた、桜を始めとする少女達へ向かって。



 ***



「・・・始まったわね。

 どうでるのかしら、恵美と桜ちゃんは?」

「やっと始まったのね。

 何処の誰だか知らないけど、絶好のチャンスよ・・・にゅふふふふふふふ」



 ***



 触手プレイ、そんな想像の世界だけの特殊な性行為がある。

 無数の触手に囲まれ、拘束され、陵辱される。嫌悪と屈辱と、そして快楽に包まれる女性達。その姿こそがその行為の最終到達点であろうが、今、その行為が、確かにここで行われていた。


「にょ~ほっほっほっ!!

 突っ込むも掻き回すも流し込むも全ておーるおっけー、抵抗する気力がなくなるまで徹底的に責めて責めて責めまくるのよっ!!」


 スライムの背中には高笑いを上げるカッツェ。

 触手に拘束され、その水着の中に潜り込んで行く触手たちに陵辱される女生徒達の姿を楽しそうに眺めている。


「だ・け・ど、そのぷりちぃ幼女だけはちょっと注意の子。

 膜を破ると価値が落ちるから、それ以外で楽しめばのーぷろぶれむっ!!」


 そして当然、プール中央にて浮き輪に掴まり浮いている桜にとっても、それは例外ではない。身体を締め上げられ、持ち上げられ、水着の中を這い回る触手に嫌悪と苦痛の表情を浮かべながら、無駄とは知りつつも、必死で触手から逃れようと身体に力を込める。

 と、しかし、そんな桜の姿こそが、同じく拘束される女生徒達の心の支えとなっていた。そう、色々と間違った方向で。


(((・・・いいっ!!)))


 触手は半透明、そしてそれが水着の中を這い回っている。

 それによって見えそうで見えないという絶妙なチラリズム攻撃が間断なく繰り返され、その光景に神経を集中させている女生徒たちは、もはや当然の事とばかりに、自分の置かれた状態など思考の片隅にも残っては居なかった。


「にょ~ほっほっほっほっほっ」

「くぅぅ~」

(((モエモエ~)))


 カッツェの高笑い、そして触手に拘束される自分とクラスメイト達。

 逃げようにもあまりに非力な桜の身体では、それもままならない中であって、桜はとある理由によりかなりの窮地に陥っていた。


「くっ、うっ・・・あぅ」


 プールで冷えた身体、股間の微妙な所を刺激してくる触手、そして慣れぬ女体。

 それらから導き出される結論は一つであり、桜は額に油汗を浮かべ足をもじもじさせながら、必死にそんな欲求に耐えていた。


「にょほほっ?これは聖水回収イベント開始の合図?

 ここに用意した空の牛乳瓶を有効利用で、オークションで一攫千金!!」

「いや、普通に規約違反だから、それ」


 牛乳瓶を手に、理解できない、いや理解したくない台詞を叫ぶカッツェに、ダム決壊時には直撃位置に居るにも関わらず冷静に突っ込みを入れる女生徒。そんな会話を租借することも出来ない桜の表情は、次第次第に真っ青に変わっていく。


(だ、め・・・だ、漏れっ)


 カッツェから触手に手渡された牛乳瓶を視界に納めながら、もはや限界と全身の力を抜きかけたその時、近くて遠くから桜へ救いの声が届けられた。


『ねえ、僕と・・・して、・・・になってよ』



 ***


『助けに来たよ、桜』


 声は光の中から桜に語りかけていた。

 桜の中の遠くて近い所。白く美しい鳥はその手を広げ、優しげに桜を見つめていた。


「助け?」

『そう、僕は桜を助けるために作られたんだ。

 だから桜、僕と合体して、正義の魔法少女になってよ!!』


 声がはっきりと響くと共に白鳥がその全貌を晒す。

 触手に囲まれる桜の目の前、羽の生えた白磁の鳥は、神々しく光り輝く姿で持って桜の目の前に浮かんでいた。


「・・・質問いいか?」

『どうしたんだい?』


 が、それを目にした瞬間、桜は襲い掛かる生理的欲求を忘れ思わず白鳥に問いかけていた。


「何で頭の左右に取っ手があるんだ?」

『桜が僕の背に乗っても安全に掴まれるようにさ』


 言われるとおり、白鳥の頭の左右には握りこむには丁度良い取っ手がついていた。


「背中に俺が乗るのは百歩譲って良いとしよう。

 だが、座り込むにはその背は窪みすぎじゃないのか?」

『いやだなあ、これ位深さがないと受け止められないじゃないか』


 よくよく見れば、桜の言うとおり白鳥の背には洗面器ほどの大きなくぼみがあった。


「合体って具体的に何をするんだ?」

『そりゃあ僕の背にまたがって、我慢しているものを解放するんだ。

 それで桜と僕は一つになり、正義の魔法少女に変身できるんだ!!』


 もはや疑う余地もない。

 女生徒達が、カッツェが、スライムが見守る中で、桜は大きく息を吸い込むと、これ以上無い大声で叫びをあげた。


「おまるじゃねえか!!」

『失礼だなあ、ポティって呼んでおくれよ。

 魔法少女に必須なマスコットじゃないか』


 魔法少女に憧れる女児にとって、考えうる最悪のマスコットの一つとも言える白鳥のポティは意味があるのか無いのか謎な小さな羽根をパタパタと振りながら、桜を覗き込んでくる。


『それはそうと、もう限界じゃないのかい?

 さあ、僕と合体して、正義の魔法少女になってよ!!』


 そこで忘れていた欲求が桜の下半身を直撃する。

 身動ぎするだけでも決壊しそうな程のギリギリの状況。触手が手にする牛乳瓶よりも、ちょうど自分の真下に居るクラスメイトに向けてのそれよりも、ずっとマシだろうとポティを見つめ、ようやく桜の羞恥心がポティを受け入れた。


「わかった、わかったあ、魔法少女でも何でもなるから助けてくれ!!

 もう、漏れちまうっ!!」

『うん、分かったよ。さぁ正義の魔法少女に合体だ!!』



 ***



 何処からか流れる陽気なミュージック。

 同時に羽を大きく広げ桜の周りを飛び回るポティ。そのポティの羽は易々とスライムの触手を切り裂き、自由になった桜がポティの背に跨って天に昇る。


『ここであえて語らせて頂こうっ!!』


 光に包まれる桜とポティ。

 その光の中でポティが先までのマスコット然とした声から一転、無茶苦茶渋いおっさん声で高らかと解説を開始する。


『正義の魔法少女・桜は人工生命体である』


 桜のスクール水着が光の中ではじけ飛ぶ。

 同時に、桜が身体を震わせ何故か恍惚とした表情で身体を弛緩させる。


『その正義の心が白鳥のポティと一つになったとき、桜の真の姿が解放されるのだ!!』


 ポティが桜から離れ、桜は宙に投げ出される。

 しかし、桜は落下することなく光のなか全裸でその四肢を真っ直ぐに伸ばす。


『さぁ、刮目せよ桜の勇姿を!!

 さぁ、刮目せよ桜の英姿を!!』


 桜の両手首、両足首に光が収束し、ブレスレットを構成する。

 ブレスレットから白き光が桜の身体を包み込み、純白のインナーへと変化する。


『悪を滅し弱者を救う、まさに正義の化身』


 そして桜が腰を振れば光がミニのスカートに。

 胸を逸らせば光が花をあしらったジャケットに。

 頭を振れば髪留めが現出し、桜の髪をツインテールに結わえていく。


『そう、彼女こそ、この世に残った最後の希望、最後の正義』


 最後に光が収まると同時に桜が目をあけ、重力に従い危なげなく地面に着地する。

 同時に、雷が桜の背後に落ち、轟音と共にポティが叫んで締める。


『魔法少女チェリィィィィィィ・ブロッサムッ、ここに降臨っ!!』



 ***



『なお、この変身シーンはわずか1ナノ秒で行われる。

 残念ながら、肉眼ではそのプロセスを追うことは不可能である』

「嘘だろっ!!思いっきり30秒位かかってたぞ!!!!」


 静かに繋いだポティに桜、いやチェリーブロッサムが掴みかかる。


『そ、そんなこと無いよ?

 そうだっ、みんなに聞いてみてよ』


 渋い声からマスコット声に戻ったポティが明後日の方向を見ながら提案する。


「そうね、全然見えなかったわ」

「流石は1ナノ秒。目に焼き付ける暇もなかったわね!!」

「なんてこと、桜ちゃんが居なくなってチェリーブロッサムが現れたわ!!」

「・・・嘘だな。

 しかしお前ら、スライムに捕まってんじゃなかったのかよ!!」


 チェリーが視線を送ればデジカメや携帯を背に隠し、同じく明後日の方向に視線を泳がせながらクラスメイトが語っている。しかも、なぜか全員プールから退避した状態でだ。


『気にしちゃ駄目だよ、魔法少女モノのお約束ってものなんだ!!』

「にょ~ほっほっほっほっほっ

 やはり現れたわね、魔法少女チェリーブロッサム!!」


 と、先から無言で状況を見守っていたカッツェがスライムの上で高笑いを開始する。


「悪の魔法少女の前に現れる、正義の魔法少女。

 だけど、全裸ストリップで掴みはおーる・おっけーとはいかないのが現実の厳しいところっ!!

 スジの一個や二個で信者は増えないって事を、貴女にてぃーちんぐ、なうっ」

「丸見えだったんじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 カッツェの言葉に絶大なるダメージを受け、地面に両手をつくチェリー。

 この場に男子生徒が居なかったのが不幸中の幸いではあるのだが、女子とはいえクラスメイトに変身開始時の欲求解放の瞬間まで見られていたであろう事実にチェリーはさめざめと涙する。


「ダメージ受けてるチェリーには悪いけど、悪の魔法少女はノンストップのことよ。

 さぁ、やっておしまいっ!!」

『ヴオォォォォォォォ!!』


 崩れ落ちたままのチェリーに、しかしカッツェは待ってくれない。

 何処に発声器官があるのかは謎だが、スライムはここで初めて咆哮を挙げながら無数の触手を錐のように尖らせて一斉にチェリーに向かって射出する。


『チェリー危ないっ!!』

「うぇ?・・・にゅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 まさに間一髪。

 ポティの指摘に顔を上げた瞬間に視界一杯に広がる触手の山に、チェリーはあわてて後ろに飛び跳ねるが、その軽い跳躍一つでチェリーは10メートルもの距離を移動してしまう。


「・・・うぇ?」

『魔法少女への変身は肉体の強化も行われるんだ。

 大丈夫、このスライムは大きいだけでそんなに強くは無い!!』


 そんな自分の規格外の動きに呆然とするチェリーに、ポティが誇らしげに宣言する。


『スライムの倒し方はコアを露出させ、それを破壊する事。

 さぁ、尺も残っていないし、一気に終わらせようっ』

「あ、あぁ・・・うん」


 まだ状況の良くわかっていないチェリーだが、しかしこの状況が終わるなら良しとポティの指示に従うことを決意する。


「ん~逃げ足だけは速いのね。

 しかぁし、触手による全方位攻撃からは、えすけ~ぷ不可能なのね!!」

『時間が無い。叫んで!!リリカル・クラッカー!!』

「り、リリカル・クラッカー!!」


 カッツェの出した指示に余裕が無いと判断したポティの声に従い、チェリーが叫ぶ。

 同時に何処から現れたのか、チェリーには一抱えもあるパーティグッズのクラッカーがその手の中に現れる。


『続いていくよ、リリカル・シュート!!』

「リリカル・シュート!!」


 次いで叫んだチェリーの言葉に従い、クラッカーからスライムに向かって光の束が放出される。その光の奔流はスライムをあっさりと飲み込み、プールのフェンスを蒸発させつつ青い空へと消えていった。


「ななななっ、なんて威力よ?」

『これがチェリーブロッサムの力さっ!!

 電子を粒子加速し放出する・・・悪の魔法少女には出来ない正義の魔法さ!!』

「荷電粒子砲じゃねえか!!」


 スライムが消し飛び、空中に浮かぶ球体の上にヘタりこむカッツェ。

 どうみてもサイズ違いのパーティグッズにしか見えないリリカル・クラッカーの正体に叫ぶチェリーを無視し、ポティはその羽を球体へ向けて最後のトドメを宣言する。


『さぁ、スライムのコアへ最後のトドメだよ!!

 あれへ拳を叩き付けながら叫ぶんだ、マジカル・スマッシュって!!』

「聞いてねえ・・・が、仕方ない、やるしかないんだよな」


 チェリーは不満はあるものの、残されたコアを見つめ力を入れる。

 チェリーとなった瞬間からおぼろげに感じていた万能感。小さく幼い身体に駆け巡る無限とも言えるエネルギーに心を、身体を押されながらチェリーは獲物に向けて跳躍する。


「ちょ、ちょっと待っ」


 カッツェが叫ぶがチェリーには届かない。

 チェリーは音を超えた白き光の矢となって拳を振りかぶり、そして叫んだ。


「マジカル・スマッシュっ!!」


 声と同時に変化するチェリーの右手。

 それはチェリー10人分ものサイズを誇る巨大なドリルとなって、カッツェを巻き込みながらスライムのコアを粉砕した。


 そう、破壊の化身とも言える絶対的な暴力でもって。



 ***



『マジカル・スマッシュは地盤掘削用にも使える特別性のドリルなんだ。

 この魔法なら、地球上の物質で破壊できないものは存在しないよ!!』

「こ、これも魔法じゃねえ」


 何故か爆発したスライムのコア。

 それを前にし自慢げに言うポティに、チェリーはバランスを崩して落ちたプールの中で小さく突っ込みを入れる。


「なあ、あの魔法少女を巻き込んだ手ごたえがあったんだが、まさか・・・」

『いや、残念だけど大丈夫みたいだよ。ほら、そろそろ落ちてくる』

「にょ、にょ~ほっほっほっほ」


 見上げればボロボロの服で落下してくるカッツェ。


「こ、今回は負けたけど次回はこうは行かないわよ。

 あ、あいる・びー・ばっ・・・ぐぶぇ!?」


 そしてそのまま頭から遠くに見える林に落下する。

 ゴキリと嫌な音がチェリーの元まで届いたのを確認すると、ポティがその羽をはためかせ空に浮かぶ。


『じゃあ、僕はカッツェにトドメがさせないか確認してくるよ。

 魔法少女の変身は僕が離れれば解除されるから安心して!!』


 羽を手のように振りながら飛んでいくポティを見送り、チェリーは頬を弛緩させる。

 馬鹿みたいだが面白かった、そう正直な感想を浮かべた桜は光に変わりつつある自らの魔法少女服を見つめながら、ふと気付く。


「変身が解除って・・・服は!?」


 着ていたスクール水着が弾けとんだのは桜も覚えている。

 このパターンの場合、変身が解除されればどうなるかと考えたところで、先まで感じていなかったプールの水の感触が全身を包み込んだことに戦慄する。


「「「大丈夫だった、桜ちゃん!?」」」


 クラスメイトの女子がプールの中を覗き込んでくる。


「「「こっちに落ちてくる人影が見えたけど、桜ちゃんは大丈夫か!?」」」


 グラウンドでマラソンをしていたクラスメイトの男子が、一斉に突撃してくる。


「「「凄い音がしたが、事故でもあったのか!!」」」


 騒ぎを聞きつけた教師達が一斉に駆け寄ってくる。


「新聞部ですが、さっきの異常な発光現象は一体!?」


 最後に、何故か部活動を行っていた新聞部が高性能カメラを構えながら飛び込んできた。


「・・・に」

「「「「「「に?」」」」」」


 その視線の中心となった桜は、既に全裸となった小さな身体をプールの中で必死に隠しながら、ここまで最高の大音量でもって学園を振るわせた。


「にゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・!!」



 ***



 美術準備室。


 そこには誇らしげにプールを見下ろす恵美の姿があった。


「さすがは私が作った正義のヒーロー。

 悪の魔法少女を圧倒的な力でねじ伏せる、かんっぺきな初戦ね!!」

「荷電粒子砲なんてぶっそうなもの使うんじゃないの。

 人に当たったらどうすんのよ?」


 ぱこんっと、景気の良い音を立てて恵美の頭が鳴る。

 その隣には、美咲がバインダー片手に立ち、今まさにプールの真ん中で叫び声を上げ続ける桜の姿を微笑みながら見つめている。


「大丈夫よ、経路上に生命反応あったら発射できないようにしてあるから」

「そういう問題じゃないんだけどな」


 頭を抑えながら見当違いな事を言う恵美に、しかし美咲は微笑みを崩さない。


「まあでも、桜も楽しそうで良いわね。

 命をかけて少女を救ったヒーローには幸せになる権利があるからね」

「あぁ、タツヤくんが助けたって女の子の事?

 転んだ彼女を踏みつけて逃げ出していった大人たちの中で、タツヤくんだけが手を差し伸べたんだってね」


 美咲は泣きながら感謝の言葉をくりかえす少女の顔を思い出す。


『お兄ちゃん・・・死んじゃうの?』

『大丈夫よ、私が助けてあげる』


 あの涙で一杯だった少女の顔が美咲の一言で笑顔に花開いた。

 それは、どこか自縛霊でも捕まえようかと思っていた美咲に、貴重で高価な封印石を使ってまでも『生きた人間』を封印させるだけのものだった。


「桜の身体にさ、彼の魂が定着するまでどれくらいかしら?」

「2年って所かな?それだけ桜の中に居れば封印石なしで定着できるわよ」


 恵美の言葉に、美咲は青い大空を見上げ小さく呟いた。


「そう、か。

 がんばれよ、御門君に克巳君」

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