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冤罪でイジメられた少年が加害者達を地獄に送る話

作者: 霜月立冬
掲載日:2026/10/29

 多木間呼希子(タキマ・コキコ)という四十五歳の女性がいた。

 呼希子は、自身の境遇を世界一不幸だと考えていた。尤も、そのように思い込む発端となった出来事は、呼希子が高校生だった頃の自らの所業だ。

 当時、呼希子は気に入らない同級生を仲間達と一緒にイジメていた。その件が露見して、退学させられた。今は実家を離れ、コンビニのアルバイトをしながらアパートで独り暮らしをしている。

 今の呼希子は完全に孤独だった。両親からはイジメの件で勘当された。嘗ての仲間や友達も離れている。


 何故、自分はこんなに不遇なのか?


 十代の頃、全てが思い通りになった。学校では常に中心人物で、誰もが呼希子を特別扱いしていた。

 ところが、イジメの一件を境に全てが反転。その事実を、呼希子は受け入れられない。自業自得とは露ほども思わない。

 今も、自分の不遇を全て周囲のせいにして、世間を呪い続けている。

 尤も、実際に完全に不遇なのかといえば、それは違う。良いことも有った。しかし、それらの出来事は呼希子の記憶には残らない。

 そもそも、呼希子自身が嫌な出来事ばかりに焦点を当て、それに執着している。


 当人が不遇と思えば不遇になる。


 呼希子は現況を恨みに思い、口を開けば愚痴や文句、悪態ばかりを吐いたり、SNSに掻き込んだりしている。

 その瞬間だけは、僅かばかり気分が軽くなった。優越感も覚えた。しかし、その代償は存外に大きい。

 呼希子が不満を口にする度、周りの人々は離れた。その事実もまた、呼希子により以上の不満を覚えさせていた。その想いは、彼女の性格を一層大きく歪めていた。


 私だけが不幸なのは納得がいかない。


 呼希子は、自分の人生が不遇であることを理由に、他人の人生も台無しにしたいと考えるようになっていた。その手段として、無辜(むこ)の人間に冤罪(えんざい)を掛けることを画策した。


 満員電車で痴漢に仕立て上げる。


 誰でも良かった。だからと言って、手強そうな相手は避けたかった。警察に捕まることも避けたい。

 自分の身を守りながら相手を陥れる。その方法として、呼希子は自分の壁になる味方を募ることを画策。SNSを通じて知り合った人間の中から、自分と同じ想いを抱えている人間を選抜した。


 最初は「仮想の話」と言いながら探りを入れて相手の様子を窺った。

 相手が興味を覚え出したところでダイレクトメールやクローズドチャットを使って冤罪計画を持ち掛けた。


 話に乗ってきた者が二人いた。話しに乗らなかった者は直ぐ様ブロックした。呼希子としては証拠隠滅した気になっていた。

 しかし、残念ながら現実は甘くない。その内容はスクリーンショットに保存されていた。後に冤罪の決定的証拠として警察に掲出される羽目になる。まあ、それはそれとして。


 呼希子は自分が被害者を演じ、仲間達には証言を頼んだ。当然、台本を用意して、口裏合わせ自体は万全、完璧だった。尤も、完璧な要素はそ(・)れ(・)だけだ。台本自体が現実に即しているかどうかは別の話。まあ、それはそれとして。

 呼希子達は冤罪計画を実行すべく、彼女なりに際どい格好をして、手下の男達と共に朝の通勤ラッシュでごった返す電車の中に突入した。


 呼希子達は人海でもみくちゃになりながら、手頃な獲物はいないかと物色する。すると、呼希子の目に左手を吊革に掛けた一人の男子高校生が映り込んだ。


 あの制服は――!?


 男子高校生の制服は、嘗て呼希子が通った県内有数の進学校のものであった。その事実を直感するや否や、呼希子は男子生徒に接近した。


 その男子生徒、秋津聖良(アキツ・セラ)は四十代の女性と、二十代、三十代の男性に囲まれた。呼希子達の計画通りの布陣だ。その状態を維持したまま、呼希子は右手を伸ばして聖良の右手を掴み上げた。


「この人、痴漢です」


 その一言で、場が凍り付いた。聖良は目を一杯に開きながら「はあああっ?」と間抜けな声を上げている。その声は、周囲の者に「全く身に覚えがない」という印象を覚えさせた。しかし、呼希子は怯まない。


「痴漢、痴漢てす!」


 全ての車両に轟くほどの大声で、聖良を必死に痴漢に仕立て上げようとした。その悪意ある努力の甲斐あって、聖良は鉄道警察隊の詰所に連行されてしまった。


 無機質な四角四面の空間に、聖良、呼希子、呼希子の手下達、それから警察官が三人ほど入っている。

 警察官は、呼希子、聖良、呼希子の手下達の話を聞き、それぞれの調書を取っている。その際、それぞれの名前を含めた個人情報も記録していた。

 最初、警察官達は呼希子の話を信用し掛けていた。手下の口裏もバッチリ合っていたからだ。

 しかし、途中から警察官達の首が斜めに傾ぎ出していた。その反応の意味が、取り調べの中心となっていた警官の口から零れ出た。


「これ、違うな」


 警察官達は、これまでの経験から、呼希子達の虚言である可能性を疑っていた。


 人間の嘘というものは、言外の反応から窺い知ることができる。呼希子は食い入るように警官や聖良を睨みながら、口から唾を吐く勢いで喚いている。その様子は最早狂人だ。

 対して聖良は、目を点にして、何が起こっているのかサッパリ理解できていない様子。

 証言した呼希子の手下達に至っては、同じ台詞を繰り返すばかり。彼らに視線を合わせると、直ぐに外された。


 警官達は冤罪の可能性を想像して、質問の内容を変え始めた。その質問が、呼希子達の精神を追い詰めていく。窮した呼希子は癇癪(かんしゃく)を爆発させた。


「警察がこんなに分からず屋だなんてっ!」


 呼希子は耐え切れず、「今回だけは見逃してやる」と言って、詰所から飛び出した。その際、手下達も彼女の後を追って退散している。その様子を見て、警官達は慌てて追い掛けた。

 しかし、呼希子達の脚は存外に速かった。朝の通勤でごった返す人混みに紛れて、まんまと逃げおおせてしまった。尤も、彼女達の身元はデータに保存済み。


「次に問題を起こした際は、絶対に容赦しない」


 警官達は硬く心に決めて、聖良に「災難だったね」と声を掛けた後、聖良の保護者に連絡して事の顛末を説明した。


 聖良の父母、登良(トラ)(大手半導体メーカーの社員)と沙羅(サラ)(専業主婦)は、警察の話を聞いて大いに激高した。刑事が駄目なら民事でと、呼希子達を訴える準備を進めた。

 しかし、一歩間に合わず。先に呼希子側から攻撃を仕掛けられてしまった。


 呼希子はSNSで聖良が痴漢した事実(虚偽)を喧伝した。その悪意満載のねつ造に、自称フェミニスト達が「我が意を得たり」と全力で飛び付いた。聖良を「女性の敵」に仕立て上げ、全力で罵詈雑言を浴びせ掛けた。それらの内容はトレンドに載り、多くの人々の目に晒されている。その中に聖良の学校の生徒達がいた。


「こんな奴が、俺達の学校にいたなんて」


 その日以降、聖良に対する凄惨なイジメが始まった。

 自称フェミニストに感化された生徒達は大義名分の下、聖良を「痴漢」「犯罪者」と呼び、聖良の私物を破壊したり、ゴミ箱に捨てたり、犯罪行為を繰り返した。

 終には、自称フェミニストのリクエストに応えて、全裸土下座、便器を舌で直接舐めさせる、公開自慰など、人としての尊厳を破壊する悪行にまで発展している。

 何故、彼らはここまで狂ったのか? この凶行の根底には、日ごろ抱えているストレスが有った。

 進学校に通う生徒には、それなりに学業に対する重圧が有る。彼らとしては、丁度良いストレス解消法だったのだろう。

 しかし、天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず。自称フェミニストや生徒達の悪行は、実はその殆どが記録されていた。


 イジメが起こった当初から、聖良は両親に相談していた。その内容が余りに悪辣(あくらつ)で、両親の堪忍袋の緒が音を立てて切れた。聖良も、只で済ます気は無い。


「あいつらに地獄を見せてやる」


 幸いにして聖良には動画編集の技術が有った。様々な記録媒体を持っている。その上、両親からも強力なバックアップを得た。

 学校中、至る所にカメラや収音マイクを設置して、イジメの証拠を細大漏らさず収拾。それらを使って動画を作成した。その際、態と英語表記で編集している。


「包囲網は、より大きく、より厚く」


 完成した動画を、聖良は世界中に向けて発信した。その後、有識者が和訳したものが再輸入されている。尤も、日本語版が生徒や学校関係者の目に入った頃には、既に取り返しのつかない事態に発展していた訳だが。しかも、この窮地から逃れる唯一の手段を完全に断たれた状態で。


 唯一の解決策、聖良の許しを得ることは、永遠にできなかった。何故ならば、聖良は自殺していたからだ。尤も、本当に死んだ訳ではない。自作自演だ。


 聖良は動画を発信した後、遺書を二通用意した。一通は学校の机の上に置いた。もう一通は自分の両親宛に。

 二通用意した理由は、前者、学校に置いたものが隠滅された場合の対策だった。幸いにして二通目の出番は無かった。


 聖良は学校の制服を着たまま家を出た。途中、町内の岬によって、学生所入りの上着を投棄している。その際、岬の上には履き古したスニーカーを並べて置いた。投身自殺を装った訳だ。


 全ての偽装工作を終えた後、聖良は遠く離れた親戚の老父母の家に向かった。そこで、聖良は生来の名前を捨てた。

 聖良は老父母の養子、「秋津雪兎(セツ)」となった。勿論、この偽装は両親も承知している。


 聖良が老父母の家に着いたところで、聖良の両親は警察に聖良の捜索を頼んだ。その頃には、学校で聖良(雪兎)の遺書が見付かっていた。

 その後、町内の岬から聖良のスニーカーが発見された。続いて浜辺に流れ着いた聖良の制服(上着)が発見されている。

 それらの物的証拠から、聖良の自殺が確定した。


 葬儀の後、父の登良は「聖良の想いでは残る日本には居辛い」と言って、務めていた会社に頼んで海外(台湾)支社に転勤した。その際、沙羅も一緒に付いていっている。

 二人は現地で一軒家を購入。そこが終(つい)の棲家となった。後に、名前を変えた聖良を迎えて、再び家族で暮らしている。


 因みに、家を購入した資金の出所は、聖良が編集した動画だ。世界中に拡散した挙句、社会現象になるまでバズっている。当然ながら影響力も多大だ。その威力の程は、冤罪やイジメにかかわった全ての者が思い知る羽目になった。


「冤罪でここまでイジメて、挙句に自殺させて――絶対に許さん」


 イジメ動画に憤った視聴者は全世界に多数いる。彼らはあらゆる手段を駆使して呼希子達も、自称フェミニスト達も、聖良のクラスメイト達も――全員徹底的に追い詰めていた。


 呼希子達は、嘗て冤罪計画を持ち掛けたログが晒された。呼希子達の中からも裏切り者が出て、童謡の内容を告発されている。この出来事によって、呼希子達に執行猶予付きの実刑が申し渡された。尤も、これは更なる地獄(自業自得)の始まりに過ぎない。


 自称フェミニスト達はアカウントが晒され、解析されて住所が特定された。そこに連日嫌がらせを受けた。引っ越しても直ぐに特定されて嫌がらせを受け続ける。その果てに、全員精神が病んでしまった。尤も、彼(彼女)達は尤もマシな境遇だろう。


 聖良の学校の生徒達は、イジメにかかわった者はもとより、見て見ないふりをしていた者達も、自分の所業の万倍の報いを受けている。

 最初は、最上級学年の推薦枠の取り消し。しかし、一応彼らは一般枠で大学に入学することができた。しかし、助かった者は彼らだけだ。

 聖良の学年は、全員、漏れなく、一人も進学できなかった。進学者0人。県下有数の進学校に有るまじき由々しき事態。しかも、これで終わりではない。

 当該学年の生徒達は、翌年も、翌々年も入学が叶わなかった。どれだけ高得点を取ろうとも、どれだけ学校のレベルを下げようとも、誰一人入学できない。その事実を目の当たりにして、彼らも理解した。


「自分達は、永久に大学生になれない」


 勉強一筋に生きて来た進学校の生徒としては、受け入れ難い最悪の現実だ。実際、全員受け入れなかった。「自殺」という最悪の手段で拒否している。この事実は、彼らの保護者にも、学校にも、多大な衝撃と損害を与えていた。


 生徒達の家庭は、漏れなく全て崩壊した。学校も廃校になった。関係者は漏れなく全員路頭に迷う羽目になった。その境遇に対して「恨みに思うな」という方が無理な話だ。彼らの恨みの矛先は、冤罪を仕掛けた呼希子達と、イジメ動画を発信した秋津家に向けられた。

 尤も、後者の秋津家の人間に危害を加えることは難しい。彼らは既に日本を離れている。その為、全ての恨みは呼希子達が引き受ける羽目になった。


 恨みに狂った大人達は、呼希子達を拉致した。廃村の家に押し込めて、執拗にリンチし続けた。

 その過程で、呼希子達は死んだ。その後も、隣地は執拗に続いている。気が済むまで痛めつけたところで解散、遺体はそのまま放置されている。当然ながら、荼毘(だび)に付されていない。

 呼希子達の魂は、その地に祟る地縛霊となった。


 呼希子達は、その場から動けずに、自分達の体が朽ち果てるまでの過程を見続ける羽目になった。

 遺体が塵芥と化した後も、成仏することは許されなかった。


 呼希子達の魂が解き放たれたのは、凡そ五〇億年後のこと。地球が赤色巨星化した太陽に飲み込まれて、そこで漸く解放された。

 尤も、その頃には他の人間の魂はより高次元に昇華していた為、誰とも合流できなかった。

 呼希子達は、浮遊霊となって、宛も無く永遠に宇宙を漂う羽目になった。

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