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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第9話


 ゾエの都、ウスケシの安宿。


 ここで勇者祭の勝負が始まろうとしている。

 酒呑み勝負で。

 マサヒデがカウンター席から連れて来たシズクを指差し、


「はい。うちの代表です」


「・・・まじで」


「さ、勝負といきましょう。そっちから仕掛けてきたんですから、逃げないで下さいよ。酒代は負けた方持ちです」


 猫族の男はシズクを指差して声を上げる。


「その姉ちゃん、鬼族じゃねえのかよ!? 魔族だろ!?」


「ちゃんと人族側の参加者として登録しましたよ。さ、勝負です」


 勝負をふっかけてきた猫族の男が目を逸らす。


「・・・くそ・・・」


 もう負けを認めてしまったような男を、シズクが笑いながら見下ろし、ぱん! ぱん! と手を叩く。


「あははは! 酒勝負ってかあ! おしおし、やろうぜ! 全員と勝負しよう! 女中さーん!」


「はーい!」


 すいすいと人の間を抜け、女中が歩いて来る。

 シズクがにやりと笑い、


「酒樽と盃持って来て! 今から酒勝負するんだ! 勇者祭の勝負! 酒勝負だから暴れないよ!」


「あははは!」


 女中が声を上げて笑うと、がたん! と猫族の男が立ち上がり、


「樽かよ!?」


 声を上げる男を無視して、シズクは男を指差す。


「酒代はこいつらが持ってくれるって!」


「はーい! 持ってきまーす!」


「持ってくるなよ!」


「駄目ー! 持って来ちゃいまーす! 毎度ありがとうございまあーっす!」


 マサヒデが笑いながら、女中に皿を差し出す。


「ははは! 私には、シチューおかわり下さい」


「はーい!」


 女中は皿を盆に乗せて、にっこり笑って、項垂れる猫族の男に片目を瞑って下がって行った。



----------



 散々に酒で相手方を酔い潰し、酒場もひとしきり盛り上がって、皆が部屋に戻った後の事であった。

 しんと静まった酒場で、人族、猫族の2人の男が額を突き合わせている。


「旦那、連絡が入った。終わったぜ。あの坊主、今夜にゃあ熊か狼の餌だ。獣から生き延びても、凍死確定さ」


 くく、と2人が笑う。


「よしよし。マヌケな野郎だ。荷物はあるな」


「ああ。簡単な封印が掛かってるだけだ。くくく・・・あんな初級の封印、ちょこっと燃やしちまえば開く。ずっしりした金の重さがたまんねえぜ」


「てめえもワルだな。勇者祭で死んだ事にしてってなあ、良い考えだ」


「誰も思いつかねえ方が不思議だぜ」


「くくく」


 ばたん・・・


「む」


 開いたドアから、夜風が吹き込む。

 ばさばさばさ! とドアに立つ男の長羽織がはためく。

 覆面をしているが、このゾエの夜では、口、鼻が寒さでやられるから当たり前だ。


「ち! 早く閉めやがれ!」


「・・・」


 ぱたん・・・と静かにドアが閉められた。


「おい、もう閉店だぜ」


「ああ」


「店の奴、起こして来てやるよ。さ、暖炉の前で温まってろ」


「ああ」


 ぱ、ぱ、と軽く蓑と笠を払い、男が歩いて来た。

 暖炉に向かわず、2人のテーブルにゆっくりと歩いて来る。


「貴様らが騙して殺そうとした者は、既に保護した。今頃はホテルで温まっている」


「!」「てめ!?」


 がた! と音を立てて、2人が立ち上がる。

 覆面の男は静かな声で続ける。


「人族と魔族が結託し、この宿中での斬り合い禁止を良い事に、友と偽り何人殺した。貴様ら悪魔達には勇者祭に参加する権利はない」


「てめえ!? どこで知りやがった!?」


「闇夜にも月あり。雲の上にも太陽あり。そして、悪ある所には正義がある・・・」


 う!? と男2人が狼狽える。この口上は、まさか!?


「貴様は!?」「ゾエからは居なくなったのでは!?」


「天虎参上」


「ちっ!」


 男2人が剣に手をかけた時、か、と小さく音がした。


「うぉ・・・」「馬鹿な・・・」


 一瞬の閃き。2人の目には、その抜き打ちが見えなかった。


「成敗」


 ぴ! と血振るいをすると、2人の男の首が落ちた。2人は血を首から吹き出しながら、ごとん、とテーブルに倒れ込む。テーブルに酒瓶を倒したように、大量の血が流れていく。


「・・・」


 天虎と名乗った男が懐紙を出して刀を拭い、懐紙を見る。血の汚れはない。ばらっと放り投げて、笠の下からちらりと2階に目を向けた。いつの間にか、2階の廊下にカオルが腕を組んで立っている。

 カオルが口に指を当て、くい、とドアの方に顎をしゃくると、男は刀を納め、カオルに会釈して、『天虎』と書かれた封を置き、静かに出て行った。



----------



 翌早朝。


 ざわざわと騒ぐ声で、マサヒデ達が部屋から出てくる。

 2階から下の酒場を見て、


「ああ。昨晩の」


「おやおや・・・」


 アルマダもマサヒデの隣に立って、階下を見下ろす。


「昨夜、ここに入った時は斬り合いするなと言われましたが、誰ですかね」


「さあ。私達ではないですから、掃除代は払わなくて良いでしょう」


 この2人は気付いていたのだ。

 む? とアルマダが怪訝な顔で目を細める。


「マサヒデさん。人族と猫族ですね。相打ち?」


「いや・・・アルマダさん、剣が抜かれていません。物騒だから納めたのかな」


「さあて。事件現場は勝手に触っちゃいけないって、常識ですよ。これは穏やかではなさそうです」


「行ってみますか」


 マサヒデとアルマダが階段を降りていく。

 カオルとイザベルが2階廊下で階下を見下ろしていた。



----------



 階段を下りた所で、ひそひそ話している3人を見て、マサヒデとアルマダが歩いて行く。


「勇者祭ですか」


「いや。天虎が出たんだ」


「てんこ?」


 客が胡乱な顔をしてマサヒデを見る。


「知らねえのか? ああ、あんた外から来た人か」


「はい。首都から。昨日、船で来ました」


 うんうん、と客が頷き、


「天虎ってのは、まあ、悪党を斬ってる奴らだ。『奴ら』か『奴』か分からねえが」


「暗殺者ですか」


 む、と客が顔をしかめる。


「まあ、そりゃそうだがよ。斬った奴の所に、悪事の証拠置いてくんだ。よっぽどの事した奴じゃねえと斬られねえぜ。悪党ったって、スリしてるガキなんかも見境なく斬るってわけじゃねえ」


「ふむ」


 どうやらこの客は天虎の肩を持つ者らしい。

 暗殺者、という言葉の響きが、良くは聞こえなかったのだろう。

 客は腕を組んで、斬られた者を見る。


「やってる事は、そりゃあ良くはねえがな。人知れず色々とやってる奴らも随分斬られたぜ。そういや・・・何年か前に、野盗の集団、10人以上斬ったって話もあったな。そん時は1人だったって分かってる。斬り口が全部同じだったそうだ」


 マサヒデもアルマダも驚いた。

 1人で10人以上をとなると、相当の使い手だ。


「ほう。1人で10人以上の野盗を相手にですか」


「ああ。1人1人じゃなく、住処に乗り込んでまとめて全員な。恐ろしい腕だぜ。だから、1人じゃねえか、いやいや、情報集めとか実際に斬る奴とかは別だとか、色々と話が出てるな」


「へえ・・・」


「しばらく出なかったから、ゾエから出てったって話だったが、まだ居たんだな」


 マサヒデが首を傾げて、


「それ、単に斬る程の悪人が減ったってだけでは?」


 ぱちん! と客が手を叩き、渋くしていた顔を明るくする。


「おっ! そりゃそうかもな! 兄ちゃん、頭良いな」


(だがなあ)


 マサヒデが眉をひそめて階段を登って戻り、上から首を落とされた2つの死体を見下ろす。


 勇者祭ではない殺人。

 例え極悪人であろうと、殺すのはどうか。

 これは武術家同士の立ち会いでもないのだ。


(俺も勇者祭以外で斬ったから、文句は言えないか)


「兄ちゃん」


 下から先程の客がマサヒデを呼んだ。

 階段を登る足を止め、客に目を戻す。


「はい?」


「まさか、あんたじゃねえよな?」


「は? ははは! まさか! 何年か前って、私、いくつだと思うんです」


「そりゃそうか! ははは!」


 笑って手を振り、2階廊下のカオルとイザベルの所に歩いて行く。

 イザベルが険しい顔をマサヒデに向け、


「マサヒデ様。あれは」


「夜中ですよ。気付かなかったんですか?」


「・・・」


 マサヒデの後ろのアルマダがにやっと笑う。

 隣のカオルがにやりと笑う。

 この3人は気付いていたのか・・・


「このゾエには『天虎』という暗殺者がいるようです」


「暗殺者ですか」


「まあ、同じ殺し屋でも、教会の排斥派の暗殺者よりは随分とましですよ。極悪人が見つかると、その天虎なる暗殺者に斬られ、斬られた後には悪事の証拠が残されるとか・・・」


 マサヒデが下を見下ろすと、同心が何やら読みながら眉間に皺を寄せている。

 同心の前のテーブルには『天虎』と大きく書かれた封筒。


「あの同心さんが読んでるのが、おそらく証拠ですね」


「ううむ・・・」


 イザベルが唸って首を傾げる。


「疑問です。何故、証拠を集める事が出来て斬るのか・・・それを奉行所に提出すれば済む話。極悪人しか斬らぬ。極悪人ならば、捕まれば極刑は免れぬはず。自ら手を汚す必要を感じません」


「そう言えばそうですね。何故でしょう。顔を知られたくないのでしょうか」


 アルマダが首を振り、


「顔を知られたくなければ、夜中に奉行所に矢文でも撃ち込めば良い。正義の味方と見ている者も多いようですが、辻斬りとさして変わりないですね。罪人なら斬っても構わないという考えの危険人物に見えます」


「確かに」


 証拠集めまでしておいて、何故斬る。

 マサヒデが頷く。

 アルマダが顔をしかめ、


「また厄介事にならなければ良いんですがね。マサヒデさんは厄介事を呼びますから」


 む、とマサヒデが横を向き、1階の酒場の窓の外を見る。


「・・・今日は霧も出ていません。冒険者ギルドを探しましょう。到着の報せをオリネオに送らないと。ここの冒険者ギルドはまともですかね」


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