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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第8話


 ウスケシ港。


 居合の頂点、サカバヤシ流夢想派の8代目宗家、ジンゴロウ=サカバヤシが馬車を降りて港に立つ。


「ぬうっ!?」


 達人ジンゴロウも、さすがに声を上げてしまった。小さな丘くらいもありそうな高く長い船が、もう沈みかけの夕日を浴び、きらきらと輝いている。首を上げないと上が見えない。舳先には金色に輝くレイシクランの紋章がでかでかと光っている。


 クレールが恐縮した顔で冷や汗を垂らすジンゴロウを見上げ、


「大変申し訳もございません。ささやかな船ですけど、ご辛抱頂けますか?」


「・・・」


 シルバー・プリンセス号は900人乗りの豪華客船である。

 運賃、1日に金貨19枚。

 尚、金貨1枚は平民であれば節約すれば1ヶ月暮らせる額である。

 ささやかな・・・とは、間違っても口に出せるものではない。


「参りましょう。船長に確認を取りませんと。港の予約状況なんかもあるかもしれませんし・・・足はそこそこありますから、特急船ほどではないですけど、普通の船よりは早く着くと思います」


 ジンゴロウがちらりと後ろを見ると、マサヒデ達が手をすり合わせ、ラディが真剣な顔で魔術で小さな火の玉を出している。この者達は、このような船で旅をしているのか・・・


「では・・・失礼をば」



----------



 ジンゴロウとクレールがタラップを登っていく後ろで、マサヒデ達が相談中。


「宿、どうしましょう? 空いてますかね」


 アルマダが顔を町の方に向ける。


「まあ、この様子なら大丈夫でしょう。問題は宿の中です。勇者祭の者達が引きこもっているはずですよ。町中でも目付けの帯がずっと反応していました。高いホテルでなければ、まあぞろぞろ居ますよ」


 マサヒデが笑顔になり、


「では、折角の機会です。適当な安宿に泊まりましょう。あまり大きな宿で、闇討ちが大量に居ると大変です」


「そうですね」


「・・・」


 ふ、とラディの手の上の火の玉が消えた。


「あ」


「ああ、疲れてしまいましたか。火の魔術は魔力を使うと聞きました。ありがとうございました」


「ホルニコヴァさんは治癒以外は苦手ですからね。無理をさせてしまいましたか」


 マサヒデとアルマダがラディに小さく頭を下げる。


(違います)


 言葉をぐっと飲み込む。

 わざわざ危険な場所を探すと聞いて驚いただけだ。

 この2人は敵地に敢えて乗り込むのが好きなのだ・・・

 カオルが小さく手を挙げ、


「ご主人様。私とイザベル様で、程よい宿を探して参りましょう。闇討ちならずとも、相手が居れば勝負は出来ますし」


 ん、とマサヒデが笑って頷く。


「そうですね。イザベルさんも頼めますか」


「は! お任せ下さい!」


 さ! さ! と2人が馬に乗り、港を去って行く。

 その2人を、恨めしげな目でラディが見送る。


「どこか、風の当たらない所ないですかね・・・」


 マサヒデが白い息を吐きながら、のんびりと港を見回す。



----------



 マサヒデ達一行が小さな宿の前に立つ。


「ここですか・・・」


 イザベルが少し心配そうな顔で、


「ご不満でしょうか」


 ああ、とマサヒデが慌てて手を振る。

 小さな宿だから不満というわけではない。


「いや、逆です。やっと旅らしい旅になったなあと思って。あんな豪華な船で寝泊まりしてたんですから・・・」


 む、とクレールが出て来て、


「ご不満でしょうかっ!」


「いいえ。旨い料理に豪華なベッド、揺れなくて船酔いもしないし、馬たちも中で休める。全然不満はないです」


「では、どっちが良いんですか?」


 マサヒデが困った顔で腕を組む。


「ううん・・・甲乙つけがたいですね。では入りますか。もう暗いし寒いです」


 がちゃり。

 わやわやと酒場で皆が飯を食いながら呑んでいる。


「おお・・・」


 奥に暖炉があり、中が暖かい。ふう、と思わず息を吐く。


「いらっしゃーい!」


 空のグラスを盆に乗せた女が歩いて来る。


「マサヒデさん、早く中に入って下さい」


 後ろでアルマダが少し震えた声をかけ、お、とマサヒデが少し前に出ると、ぞろぞろと皆が入ってくる。


「あらあら、たくさん! ありがとうございまーす! 何名様?」


「12人です」


「12人!」


 女が後ろを向いて、店を見渡し、テーブルを見る。


「ううん、カウンター出ちゃうけど、宜しいですか?」


「構いません。部屋はありますか?」


「ちょっと待ってて下さいね。確認してきます」


 すたすたと女が歩いて行き、受付に盆を置いて宿帳を見て戻って来る。


「4人部屋2つ、2人部屋2つで大丈夫?」


「助かります」


 入口に並ぶ皆を見て、店員の女が少し首を傾げ、


「お客さん達、勇者祭の人?」


「そうです」


「あまりお店の中で暴れないで下さいね。壊したらちゃんと弁償!」


「勿論です」


「じゃ! 空いてる席にどおぞー!」


 マサヒデが頷いてクレールを見て、


「さっき食べたんですから、控えて下さいよ」


「えっ!」


 マサヒデは厳しい顔になって、クレールを見据える。


「サカバヤシさんが好きなだけと言ったからって、あなた達は門弟さん達の分まで食べてしまったんですよ。それは良くないでしょう」


 確かにその通り。クレールがしゅんとして俯く。


「はい・・・」


 勿論、この2人も同じ。


「シズクさん、イザベルさんもです」


「えーっ!?」

「ははっ!」



----------



 マサヒデ、アルマダ、カオル、トモヤの4人がテーブルに座り、シチューを食べて身体を温めていると、頭の禿げた酔っ払いが徳利とお猪口を持ったまま、ふらふらと歩いて来て、にこにこしながらマサヒデを指差し、


「あっ、あっ、あんた、あれだ・・・ト・・・ト・・・トモダチ!」


 ぶっ! とトモヤがシチューを吹き出して、げらげら笑い、


「ぎゃーははは! おっちゃん、こいつはトミヤスじゃ!」


「そう! それ、それだな! トモヤス!」


「ははは! トミヤスじゃ!」


 くくく、とアルマダが口を押さえて笑いを堪えている。

 カオルも肩を震わせている。


「あれ! あれだあ、サカバヤシの若に、勝った! 凄い・・・う、うぇっ」


「おいおいおいおい!」


 慌ててトモヤが立ち上がり、懐から手拭いを出して、酔っ払いの肩を持ち、


「おっちゃん、厠、厠! もうちょいと! おーい! お女中!」


「はいはいはい!」


「うぇっ・・・ぬは、ぬははは!」


 何がおかしいのか、酔っ払いがげらげら笑い出す。


「ああもう! カトウさん、早く早く!」


「さあ、おっちゃん、厠に行くぞ」


「かっ、厠? 出ねえなあ・・・この年になるとなあ、中々・・・厠で・・・出ないっ! で・・・でもよ、寝てると出そうになんだ! な! で、でも、厠に行くと、出ねえ! 寝不足だよ・・・だから、昼間寝んだよ・・・眠くねえなあ」


「はいはい、分かった分かった。お女中、厠はどこじゃ」


「こっちこっち!」


「トモダチに乾杯! う、うぇ・・・」


「そこで呑むな! トミヤスじゃと言うておろうが」


「うんうん」


 面白い酔っぱらいを、トモヤと女中が引っ張っていく。

 離れたところで、アルマダがげらげら笑い出した。釣られてカオルも笑う。


「ははは! 何ですか、あの人は!」


「くくく・・・」


 マサヒデも口の周りを懐紙で拭いて、


「ふふ。まあ、こういうのも良いですよね。でも油断せずに。魔族の方々も多いですよ。ふふふ」


 アルマダとカオルが笑いながらマサヒデの方に向く。


「油断って誰に言ってるんです」

「油断はしておりません」


 ほいほい、とカオルがスプーンを後ろのテーブルとの仕切りに向け、首を傾げる。


「やる気はないのでしょうか」


 すぐ後ろの席の者達は、勇者祭の参加者だ。

 マサヒデが肩をすくめ、


「さっき、店員さんに注意されましたからね。皆さん、注意されてるんじゃないですか。もし壁でも壊れたら、夜中に寒くてたまりませんよ。自分達も困りますし」


「おう」


 仕切りから顔を覗かせ、隣のテーブルの者が顔を出した。


「勇者祭のトミヤス!」


「おっ」


 にやっと猫族の男が笑う。


「俺はやる気あるぞお~。勝負といくかい?」


「良いでしょう。では」


 外に出ようとマサヒデとカオルが立ち上がると、男がマサヒデを抑えるように手を出して、


「ああ、ああ、ここで良いよ、ここで」


 ほいと男が徳利を上げ、


「これで勝負だ!」


「ははあ、酒ですか。分かりました。では、うちは1人で結構」


 にやりと笑うマサヒデに、猫族の男もにやりと笑う。


「おおっ! 言うねえ!」


「酒代は負けた方が持つ、で良いですね」


「勿論!」


「ではうちの代表を呼んできますよ」


 マサヒデ達が顔を見合わせてにやりと笑い、カウンターに歩いて行く。

 シズクがつまらんな、と頬杖をついてグラスの酒を揺らしている。


「シズクさん。来て下さい」


「何さ」


「こっちに来たら、酒、たくさん呑めますよ」


 いっぺんにシズクの顔が明るく変わった。


「行く!」


 がたん! とシズクが立ち上がり、スツールを倒し、慌てて戻して、


「どこどこ?」


「ついてきて下さい」


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