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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第4話


 ゾエの都、ウスケシ。

 名物の大時計の前にマサヒデ達が着いたが、ひどい霧で人は居なかった。


 が、しばらく歩き回ると、駅馬車の駅の前で、2人の男がいがみあいをしていたので、アルマダが様子を見に来たのだ。遅いのでマサヒデ達も来たのだが・・・


「フジイ君。この人は何? 偉い人?」


 ば! とフジイが癖っ毛の男に振り向き、


「コイズミ君、知らないの!?」


 コイズミは口を尖らせ、ちょっと考える振りをしたが、


「うーん・・・知らない」


 そう言って、小さく首を振る。

 ふ、とアルマダが笑って、隣に並んだマサヒデを見る。


「ほら、マサヒデさん。私達を知らない人だって沢山いるんです」


「ええ? そりゃあ、居るでしょう。当たり前ですよ」


 マサヒデが困惑気味な顔で答えると、フジイが大声を上げ、


「ええーっ! マサヒデ!? もしかして、マサヒデ=トミヤスさん!?」


「あ。馬上から失礼します。はじめまして。私がマサヒデ=トミヤスです」


 マサヒデが笠を取って頭を下げる。


「はっ!」


 コイズミが驚いた顔で、ぽん! と手を叩き、


「あれだ! 聞いた事もない剣術の、なまら強い人!?」


「馬鹿!」


 ぱしん! とフジイがコイズミの頭をはたく。


「いた! 君は今、手を上げたか!? 暴力に訴えるのか!?」


「お前、このトミヤスさんは剣聖のご子息だぞ!」


「ええっ!? まあじで!?」


 コイズミが驚いてマサヒデを見たが、は! と失笑して、


「まあたまた。お得意のドッキリじゃねえのかあ? フジイ君。僕だってそう何度も騙されないぞ。全然、剣豪って感じしないぞ? あのなんたらって人の鎧も衣装だろ? 珍しく金使った衣装だなあ。んん?」


 ざす、ざす、ざす。

 眉間に皺を寄せ、絵に描いたような『不機嫌』の顔のイザベルの馬が前に出て来て、


「貴様」


 ぱちん、と留め具を外し、ゆっくりと背中の長い剣を抜き、コイズミの肩に置く。

 マサヒデが慌てて声を上げる。


「イザベルさん!?」


「え? 何? 何々?」

「許して下さい!」


 ぺち、ぺち、とイザベルの剣がコイズミの頬を叩き、さー、とコイズミの顔が白くなった。


「・・・」「・・・」


「こちらはトミヤス流開祖、剣聖カゲミツ=トミヤス様ご子息、マサヒデ=トミヤス様である。偽物かどうか、試してみるか? 試したければこの剣を貸してやる。ついでに、この剣が本物かどうか試してみるか? よく出来た偽物であろう? んん?」


「・・・」「・・・」


「頭が高い!」


「すみませんでした!」「ははーっ!」


 ばば! と2人が頭を下げる。

 マサヒデがあわあわとイザベルに手を出して、


「や、やめて下さい! 一般の方ですよ! 剣を引いて!」


「は!」


 イザベルがぐるっと背に剣を回して納めると、マサヒデが慌てて馬から下り、雪を蹴って白い顔の2人に駆け寄って、


「脅かして申し訳ありませんでした!」


 勢い良く頭を下げる。

 2人も真っ青な顔で、何度も頭を下げる。


「すみません、すみません!」


「あ、いいですから、いいですから! 謝るの、こちらですから!」


 マサヒデが振り向いて、イザベルに大声を上げる。


「イザベルさん! いきなり一般人に剣を向けるなんて、何を考えているんです! 謝りなさい!」


「は!」


 ざす! とイザベルも馬から下りて、ずんずんと2人の前に歩いて来て、ゆっくりと頭を下げる。


「大変な失礼をお許し下さい」


「いやっ! いやいや! こちらが失礼な態度をしたので!」


 頭を下げる4人を見て、後ろでアルマダとカオルがくすくす笑っている。

 アルマダがにやにやしながら、


「マサヒデさん。折角の機会です。ゾエの役者の芝居、見せてもらいましょうよ」


 マサヒデがへこっと頭を下げる。


「ああ・・・ええと、すみません。良いですか? 見てても」


「はい!」「勿論!」


 こんな状態で芝居が出来るのか?

 周りを見ても、2人の後ろにうっすらと駅馬車の駅が見えるだけだ。

 舞台もないのか? 大道芸人なのだろうか?


「カオルさん。馬車の皆、呼んで下さい」


「は」


 カオルがにやにやしながら、馬を回して霧の中に消えて行った。



----------



 その頃、駅の裏手では、別の2人がこそこそ話していた。


「聞こえたよね?」


「うん、聞こえた。トミヤス流のハワードってあれだよね? ハワード公爵家の人でしょ?」


「まずくない? これ。企画中止にする? コイズミ君、喋れるか不安だよ」


「いやあ・・・ここまで来てやめらんないでしょ・・・明日にする?」


「社長、スケジュール大丈夫? もう企画始まっちゃってるよ?」


「ううん・・・」



----------



 ぱん、ぱん、とフジイが手を叩き、


「じゃあ・・・ね? コイズミ君」


「じゃあって言われてもさあ・・・台本もなしに?」


 ずらりと並ぶマサヒデ達一行を、コイズミが見る。

 如何にも貴族です! という雪に輝く鎧を着た5人。

 普通の格好のマサヒデと女。

 もこもこした服を着た、大小の女2人の横には、金属の棒を持った覆面の者。


「フジイ君、君さあ」


「やりなさいよ」


「いやね、僕だって役者だよ。巷では芸人と間違われる事も多いけれどもだ。ちゃんと舞台に立ってるんだ。でえもさあ」


「ごちゃごちゃ言ってないで何かやりなさいよ! 早く!」


 コイズミとフジイの2人が喋っている後ろから、ゆっくりと別の者が出て来た。

 2人はマサヒデ達を見て、しー、と口に指を当て、にやにやしながら静かに歩いて来る。


「じゃあ・・・あ、そういや君、さっき企画始まってるって」


「わあ!」


 びく! とコイズミが肩をすくませて振り返り、


「うぉっ!? 何!?」


「はい! コイズミ君、おっはようございまーす!」


「社長? お・・・おはよう、ございます?」


「あはははは!」


 驚くコイズミを見て、フジイが声を上げて笑うと、マサヒデ達からも笑いが上がった。


「何? 何なの? ああ、びっくりしたあ・・・心臓がちょっと痛いよ」


「はい。じゃあ企画の方、説明させて頂きますね。今回の企画なんですけども」


「待て待て待て! 何もなかったように進めるな!」


「じゃ、フジイ君。ボードの方を」


「はいはい! どうぞ社長!」


 社長と呼ばれた男が、大きな板紙をマサヒデ達に見えるように立てる。

 あれはゾエの地図か?


「コイズミ君。これどこか分かる?」


「いや、分かるよ。ゾエだろ」


「あ! すごい! 正解!」


 ぱちぱちと社長が小さく手を叩くが、コイズミは呆れ顔。


「いや当たり前でしょ」


「でもゾエだって分かっても、知らない所が多いんじゃないかなー」


 社長が中程を指差す。

 町の名前の所には、紙が貼り付けてあって、町名が分からない。


「この辺とかどう? 何ていう町か分かる?」


 はて? とコイズミが小さく首を傾げる。


「ええ? 分かんない・・・」


 そして、すぐ隣の大きな町を指差して、


「ここがフラーノだよね?」


「そうそう。じゃここは?」


「ええ? ええと・・・あ、サガワの町?」


「や、残念! コイズミ君、ゾエに住んでてゾエの町を知らないって、ゾエ民の皆さんに失礼じゃない?」


 ふん! とコイズミが横を向く。


「知らないよ。そんな所」


 拗ねているコイズミを尻目に、社長はつつがなく進めて行く。


「じゃ、フジイ君。早速『あれ』を」


 フジイが袋をごそごそやって、分厚い札の束を出す。コイズミが怪訝な顔で札の束を見て、


「何、それ?」


「これはねえ、札」


「札?」


「ゾエの駅馬車に繋がってる市町村全部が、この札に書いてあるの」


 まさか・・・マサヒデ達が顔を見合わせる。

 コイズミも目を丸くして札の束を見つめ、指差して、


「もしかして? 引いた所に行く?」


「さすがコイズミさん! よく分かった!」


「おいおいおい! ちょっと待て! 嘘だろ!?」


 社長がにこにこしながら頭を下げる。


「さあ、コイズミ君。早速札の方を引いて参りましょう!」


 ええ!? とコイズミが驚いて、大きな声を上げる。


「まじ!? ちょっと待って、この辺とか出たらどうすんの!? 何日かかると思ってんの!?」


 コイズミがゾエの地図の北の端を指差す。このウスケシは南の海沿い。

 ゾエを縦断するとなると、大変な距離だ。しかも、雪。


「まあまあまあ、頑張って行きましょう」


「頑張って行こうじゃねえよ! 良いのか? お前らも一緒に来るんだぞ?」


「当然じゃないかあ! 行こうじゃないか! さあ引いてくれ!」


 ち、とコイズミが舌打ちする。社長がコイズミを睨み、


「お前、見てる人いるんだぞ! 舌打ちをするんじゃないよ!」


「うるさいよ! じゃあこれっ」


 ぴ、と適当に引いた札を、フジイに見せる。

 フジイが啞然として、


「・・・嘘でしょ。コイズミ君」


「何。どうしたの」


「サルハライの村・・・」


「サルハライ? どこ?」


「ノシャブの隣」


「は!?」


 フジイが恐る恐る地図の北端の少し東を指差し、


「ここ」


「端っこじゃねえかよ!? 嘘だろ!? 行くの? まぁじで? ここに?」


「じゃあ・・・行きましょうか!」


「嘘!?」


「だって引いちゃったんだもん。言っておくが、引いたのは君だぞ」


 がらがらがら・・・

 駅から馬車が出て来た。

 は! とコイズミが駅馬車を見る。


「今日はフダホロに着けるかな? 着けないかな? さあ! 乗ろう!」


「嘘でしょ!?」


「そういう企画だから」


「嫌だ嫌だ! 行きたくない!」


「はいはいはい。分かった分かった。さあ行きましょう」


 嫌がるコイズミを他の3人がなだめたりすかしたりしながら押し込み、馬車が出て行った。

 マサヒデ達が口を開けて、遠ざかる馬車を見送る。


「クレールさん」


「はい・・・」


「このゾエって、北から南ってどのくらいあるか分かります?」


「150里(約600km)以上ありますけど・・・」


「ええっ!? トミヤス村から首都までより遠いじゃないですか!?」


「はい・・・何日かかるんでしょう・・・駅馬車だなんて・・・」


 カオルが首を振り、


「正気の沙汰ではありません・・・次にどこに行くか、向こうでまた札を引くのでしょうか? この近辺の札を引いたら、南北の往復ですが・・・」


 助けてくれー、と、コイズミの叫び声が小さく聞こえた。


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