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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第18話


 ウスケシの安宿。


 マサヒデにいざ立ち会いをと意気込んで来たナガタニが、消沈してテーブルに座っていると、女中が2階から下りて来た。


「トミヤス様、すぐ来られますよ。部屋の中で稽古してて、驚いちゃった!」


「は?」


 ナガタニを案内してきた冒険者とナガタニが顔を上げる。


「部屋の中で稽古? 腕立てでもしてたのかい?」


「いいええ! お弟子さんと真剣持って! 失礼しまーすってドア開けたら、トミヤス様の刀がお弟子さんの首に! ひぇー!」


 女中が首に手刀を当て、冒険者が驚き、


「うへえ! 部屋の中でそんな事してんのか!?」


「びっくりしちゃいましたよ! 暴れるなって言っておいたのに、もう!」


「いや、暴れてる音はしなかったぞ」


「そうだけどさ! 壊したら弁償よ! 全く・・・着替えたら来ますって」


「ほい。じゃあ、俺には酒持ってきてくれる?」


 女中が腰に手を当て、


「昼間っから仕方ないね!」


「今日はもう仕事も請けてねえからな。ナガタニ先生、どうする?」


「私は茶を」


「はあーい」


 女中が下がって行き、ふー、と冒険者が鼻で息をついて、


「あ、ナガタニ先生。あれあれ、暖炉の前の」


 と、暖炉の方を指差す。ナガタニもそちらに目を向け、少し眉を寄せる。


「む? ・・・あ、もしや?」


 暖炉を向いていて顔は見えないが、銀色に輝く髪。


「あれ、多分レイシクラン」


「うむ・・・確かに、話に聞く通りの銀色の髪だ。目も赤いのか・・・」


「ええ。本当に真っ赤でしたよ」


「ほう・・・レイシクランは凄い魔術を使うと聞くが」


「ああ、あの消えちまうとか」


「うむ。実際、どうなのだろうか? 本当に消えるのであろうか?」


 冒険者が肘でナガタニを突付き、口に手を当てて、


「本人がいるんだから、聞いてみちゃどうです」


 ナガタニも小さな声で、


「いや、相手はとんでもない大貴族だぞ。軽々しく声は掛けられん」


「でさあな」


 とん、とん、とん・・・

 階段を下りてくる音がして、あっと2人が顔を階段に向けた。

 冒険者がにっこり笑って手を挙げ、


「や、トミヤスさん! お稽古中、すいません!」


「いえいえ。今朝はどうも」


 マサヒデが笑顔を返し、軽く会釈して下りてくる。

 階段を下り、2人のテーブルまで来て、


「座っても」


「そりゃあ勿論。どうぞどうぞ」


 マサヒデがナガタニの前に座る。

 ナガタニは意を決したような顔でマサヒデを見て、ぐっと頭を下げ、


「お初にお目にかかります。一剣流ゾエ派のナタノスケ=ナガタニと申します」


「はじめまして。トミヤス流、マサヒデ=トミヤスです。で、今朝のあれですか。立ち会いがしたいと」


 すっとナガタニが目を逸らし、


「は・・・いや・・・その、ううむ、何と言いましょうか・・・」


 ばん! と冒険者がナガタニの肩を叩き、


「ははは! ナガタニ先生、サカバヤシ道場ばっかに行ってるから、うちにも来てほしいってお願いに来たんですよ! 出稽古のお願いって事で、ま、立ち会いっちゃ立ち会いでさあな!」


「いや、まあ・・・はい。そのような事で」


「あ、そうでしたか」


 はあ、とマサヒデが溜め息をついて、


「今朝の手紙があったもので、何としても立ち会いをって来たのかと」


「ははは! そんなんじゃありませんよ! ナガタニ先生も分かってますって」


「は・・・」


 冒険者が上手く誤魔化してくれた。ナガタニがちらりと隣の冒険者を見ると、冒険者はにやにやしたまま、


「こんなお願い、何かサカバヤシさん所に妬んでるみたいで、しづらいなあっつって、さっきまで外で、うろうろ、うろうろ! ははは!」


 マサヒデが柔らかく笑う。


「ふふ。私も似たような事をして、アルマダさんに腹をどつかれた事があります」


 あっ、とナガタニが顔を上げ、


「アルマダ、アルマダ=ハワード? 一緒におられると聞きましたが」


「ええ。そこに」


 マサヒデがひょいと暖炉の前で本を読んでいる男を指差す。


「・・・」


 すぐそこに居たのか。

 もしかして、外で話していた事も聞こえていたのだろうか・・・

 うぐ、とナガタニがアルマダの背中から目を逸らす。


「何か?」


 は! とナガタニが顔を上げ、


「あ、いや! 何でも。トミヤス道場の2大高弟が居ると驚いただけで」


「2大高弟なんて、恥ずかしい」


「はーい、おまたせしましたー」


 丁度良い所で、女中が酒と茶を持って来て、冒険者とナガタニの前に置く。


「やあ、こう寒くちゃ酒でもなってね! トミヤスさん、昼間っからなんて無粋な事ぁ言わないで下さいよ」


 マサヒデが苦笑して、


「言いませんよ。すみません。私も茶を下さい」


「はーい! でもトミヤス様! もう部屋の中で刀振り回さないで下さい!」


 マサヒデは慌てて手を振り、


「いや、いやいや! あれは居合の稽古ですよ。狭い所でするものですし、振り回したりなんてしませんから」


「何か壊したら弁償ですよ!」


「それは勿論」


「分かってるなら良し! じゃあ、お待ち下さいねー」


 仕方ないなあ、という顔で、ふん! と女中が下がっていく。

 今度はマサヒデが気不味い顔で目を逸らし、


「あの、変な勘違いしないで下さい。本当に、居合の稽古してただけなんです。相手をつけてやらないとって思って・・・」


「あいや、そのような。部屋でも休まず稽古とは、恐れ入りました」


「いやあ・・・」


 ふう、とマサヒデが息をつき、逸らした目を戻してナガタニを見て、


「あの、大変な失礼を承知でお尋ねしますが、一剣流ゾエ派は、オノダ一剣流とどのような違いが?」


 剣の話題。

 ほ、とナガタニは心中で安堵の息をつき、顎に手を当て、


「ああ、ううむ、どこからお話しましょう・・・まあ、一剣流の分派なのですが、開祖のアキタダ=オノダはご存知で」


「それは勿論!」


「開祖アキタダの直弟子の者が、開祖が閉門になった際にウキョウを離れ、こちらに来たそうで。マサナリ=コーロという者らしいのですが、そう伝えられているだけで、名ははっきり残っていません。これがゾエに一剣流を伝えた者なのですが、何があったのか分かりませんが、弟子に皆伝する前にゾエを出て行ってしまったそうで」


「ええ? 死んだとかではなく?」


 ナガタニが苦笑して、


「はい。何も言わずに勝手に出て行ったとか。直弟子なので、性格もアキタダ譲りだったという所でしょうか」


「はは。なるほど。では、何と言うか、途中で止まってしまったような? 後で首都に渡って一剣流を学び直したとか?」


「いえ。2代目、まあ、ゾエ派はこの2代目が開祖と言うのでしょうか? 複雑な感じですが、タカミチ=コウノイケという者が色々と工夫を重ねて出来上がったと」


「なるほど。一剣流を練り直したと」


「はい。大事な一本目の擦り落とし。擦り落としに始まり、擦り落としに終わるという所はオノダ一剣流と同じですが、足運びにオノダ一剣流にないものがあります」


「む、足運びですか」


 足運びであれば、刀でも使える可能性が高い。


「槍術、杖術、柔術も出来ましたが、槍術は失伝してしまいました」


「ううむ・・・」


 マサヒデが唸って腕を組む。

 俄然、一剣流ゾエ派に興味が湧いてきた。

 オノダ一剣流にない足運びとは、どんなものだろう?

 ヤダはどちらかというとどっしり構え、相手に合わせる感じだったが・・・


「トミヤス殿、私もヤダ先生に手ほどきを受けた事がありますが」


 は、とマサヒデがナガタニに目を戻す。


「え? や、これは失礼しました。一剣流にない足運びと聞いて、思わず。私もヤダ先生には首都でお世話になりました」


「つかぬ事をお聞きしますが、そのヤダ先生から免許云々という話を聞いたのです」


 マサヒデが苦笑して手を振る。


「ああ。あれはヤダ先生がびっくりしてしまっただけです。一時の気の迷いですよ。免許だなんてとんでもない」


 ナガタニが怪訝な顔を向ける。

 あのヤダがびっくりとは?


「何があったのでしょう?」


「擦り落としが出来なかっただけです。あれが真剣の立ち会いだったら、間違いなく私は死んでいましたよ」


「・・・」「・・・」


 ナガタニが隣の冒険者を見ると、冒険者もお猪口を止めたまま、ナガタニに目を向けた。


「し、失礼。ヤダ先生が、擦り落としが出来なかったとは? 何が? 何をしたのでしょう? 何があったのですか?」


 ナガタニが前のめりに勢い良く来たので、マサヒデが少しのけぞり、


「何がって・・・別に、普通に振ったというか・・・普通にというのもおかしいですが。ほら、トミヤス流、父上は、元々はアブソルート流というのはご存知ですか?」


「それは勿論です。剣聖を生んだ流派なのですから」


「まあ、アブソルート流の振り方というものです。普通・・・まあ、ううん・・・普通・・・ではないですかね。ジロウさんも禁じ手にしてましたし」


「禁じ手? 奥義のようなものですか? ジロウさんとは?」


 ぐいぐいとナガタニが前に出てくる。


「ああ、ジロウさんというのは、アブソルート流のコヒョウエ=シュウサン先生のご子息です。何度か手合わせをしまして」


 う! とナガタニが驚き、後ろに下がる。


「コヒョウエ=シュウサン!? と言うと、剣聖カゲミツの師匠!?」


 マサヒデがナガタニを見て、おかしそうに笑う。


「はは。まあ、皆、驚きますよね。ご子息がおられます。で、アブソルート流のちょっと独特の振り方があるんですよ。勿論、私も父から習っています。奥義と言えば奥義ですか」


 奥義と言えば奥義!? 禁じ手にする程の!?

 また、ぐぐっとナガタニが前に出てくる。


「その振りで!?」


 マサヒデはナガタニに驚くこともなく、軽く頷いて、


「ええ。私が持っている手では、擦り落とし相手ならこれかな、と、思い切って試してみたんです。確かにヤダ先生も驚いて擦り落としを失敗しましたが、驚いただけで、普通にすぱんと弾かれて、まあ完全に一本です。あれで免許をもらってしまうだなんて、傲慢も畏れ多いもとんでもない、みたいな話ですよ。ははは」


「その、その独特の振りとは!? 剣でも使えますか!?」


 マサヒデがにやりと笑い、テーブルに肘を乗せる。


「では、そのオノダ一剣流にない足運びを教えてくれたら、という事で如何です?」


「ははは!」


 奥の暖炉の前で本を読んでいたアルマダが、声を上げて笑った。


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