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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第15話


 ゾエの都、ウスケシの安宿。


 サカバヤシ本道場で大量に蟹を食べてきたので、マサヒデ達は飯は頼まず、茶だけ。

 クレール達は別のテーブルで大食い勝負をしているが、負けるわけがない。

 マサヒデが改めて店を見回し、


「おかしいおかしいと思ってたんですが・・・ここ、魔族は猫族の方ばかりですね。虫人族とか、犬族の方をほとんど見ませんね」


 カオルがつつー、と静かに茶をすすり、


「ご主人様、ゾエは元々、猫族ばかり。戦乱期前は、人族はほとんどおらなかったと伝えられております」


「え? そうだったんですか?」


「昔は猫族の天国と言われたそうで、魔の国からこっそりと密入国・・・と言うのでしょうか? まだ統一される前でしたので・・・そのような者が多く大陸を渡って来ていたのです。魔の国の猫族と違った、独自の文化も出来ました」


「ほう。サカバヤシ流みたいな?」


 カオルが首を傾げ、


「サカバヤシ流は文化というか・・・元々、開祖が旅の者に刀の剣術を習ったというのが始まりですから、どうでしょう? 刀の国の文化に興味を持ってこの国に来た、という感じでは?」


「ああ、確かに。そう言えば・・・」



----------



 その頃、サカバヤシ流本道場、本宅。

 緊張した空気の中、ラディとジンノジョウが座っている。


「・・・」


 マサヒデ達は夕刻になって帰ったが、ラディだけは残ってサカバヤシ家の刀を見ていた。今日はここに泊まりだ。


 持たせてもらっているのは、父が居ないのを良い事に、刀蔵からジンノジョウが持ち出してきた刀。サカバヤシ流開祖、ジンノスケ=サカバヤシの若き頃の愛刀であったクニノブの作。重要保存刀剣である。


「失礼致します」


 ゆっくりと刃を上にして、曲がりを確認。

 これは鑑賞の礼に反するものだが、ラディは鑑賞だけで済ませる気はない。

 この刀の歴史、持ち主の歴史も舐めるように見てやるのだ。


「なるほど・・・」


「な、何が?」


 ぴりぴりした空気の中、ジンノジョウが小さく声を絞り出す。

 ラディが鑑賞、鑑定する際は、部屋中が張り詰めた空気に包まれる。


「これがジンノスケ=サカバヤシの」


「ああ」


「・・・なるほど・・・」


 ごくりとジンノジョウが喉を鳴らす。


「な、何が、なるほど? なのかな?」


「昔はゾエも物騒だったのですね」


「どゆこと?」


「斬っています・・・ジンノスケ=サカバヤシ程の者が、こうもはっきり分かる曲がりを作るとは思えません。おそらく・・・何人も斬ったのでは・・・いや、熊などの大きな動物を斬ったのでしょうか」


「お、おう・・・かも、ね?」


「・・・」


「・・・」


 しばらく緊張した沈黙が続く。ちりちりと行灯の油皿の芯が燃える音だけが、部屋に響く。堪らない沈黙・・・

 しばらく沈黙が続き、ラディがそっと行灯を引き寄せ、切先に目を近付ける。


「なるほど・・・」


「何が?」


「切先が・・・」


「切先が?」


「もう少し長かったのでしょう。恐らく欠けたのです。研ぎで直してあります」


「え、そうなの?」


 刀を立てて、ぐっとラディが腕を伸ばし、立ち姿を見る。


「これは3尺2寸と・・・と、少し。元は3尺3寸はあったのでは」


「あ、稽古で使うのと同じか」


「刀は物打ちで斬れと言うのは、据物切りの教え。人は切先1寸で斬れば殺せます。人の斬り方を分かっている方の使い方です。やはり人を斬って曲がり、欠けた。動物ではないと見ました」


「そうかもね・・・」


「見事です」


(刀か、人の斬り方か、どっちが見事なんだ?)


「ううむ・・・」


 ラディが唸った後、ぴたりと刀を立てたまま黙り込む。

 動いているのは目だけ。

 張り詰めた空気に耐えきれず、ジンノジョウがもじもじして、


「あ、あのさ、茶でも飲まない?」


「いえ」


「そう? じゃ、俺は・・・」


「鑑賞中に湯気は刀に悪いので、別のお部屋で」


「うん・・・そうね・・・」


 そっとジンノジョウが部屋を出て行って、襖を閉めた後、ふう! と息を吹いた。

 これは堪らん!



----------



 戻って、安宿。

 マサヒデとアルマダが、カオルからゾエの地の話に聞き入っている。


「この地には、現在は所在不明ですが、猫族の・・・魔剣・・・とおぼしき物があると伝えられております」


 アルマダが首を傾げ、


「魔剣? ゾエに魔剣などありましたか? 覚えがありませんが」


「魔剣のような物でしょうか。刀身ではなく、拵えに不思議な力があり、持ち主を保護すると伝えられております」


「ほう? 拵えにですか」


「そうですね・・・魔剣と言うより、呪物に近い物です。これは一般的な刀ではなく、曲刀というか、土着した猫族が作り出した、所謂ゾエ刀ですね。反りの深い脇差のような物です。ゾエは人族が侵略をしてくるまでは、大きな争いというものが無かったので、長い刃物は内陸にはほとんどありませんでした」


「ゾエ刀の魔剣・・・で、その魔剣というのは、どんな?」


 カオルがにやりと笑い、


「なんと、人食刀と言います」


 マサヒデが嫌な顔をして、


「うわあ・・・呪物って感じですね」


「と言っても、握ると持ち主がやたらと人を斬りたくなるとかいう物ではありません。先程言いましたが、保護してくれるという物です」


「例えばどんな逸話があるんですか?」


「猫族と言えば、やはり泥棒が多いもので・・・ある時、この人食刀を持つ集落の長の家に忍び込んだ泥棒がおりまして」


「ふむ」


「泥棒が金を盗んで家から出た所で、勝手に人食刀が飛んできて、背中をぶすりと。そして、光り出したのです」


「へえ! 光ったんですか!」


「光に気付いた長が開きっぱなしの玄関の外に出ると、倒れた泥棒の背中に突き刺さった人食刀が眩しく輝いており、集落の者達もそれに気付いて集まって来たのですが・・・光が収まると、そこには長の財布と、服と骨だけになった死体が」


「ほう。それは恐ろしい力ですね」


「長も驚いて、次の日、山中深くにその刀を捨ててしまいます。が・・・家に戻ると、刀架に何事もなく人食刀が。間違えて他の刀を捨てたかと、改めて人食刀を取り、今度は川に投げ捨てますが、家に戻ると、また何事もなく刀架に掛かっている」


「おお、呪物っぽいですね」


「長は頭を抱えましたが、よくよく考えてみれば、長年この刀を持っていたが、特に害は無かった。むしろ、泥棒を殺して守ってくれた。これは宝剣では、と祀る事に」


「では、何処かの神社とかに?」


「いえ。自分の家に置いておき、普通に使っていたそうですが、毎朝仏壇に供えるような、小さな椀に何か盛って置いておくようにしたのです。が・・・目を離すと、その椀が綺麗になっているのです」


「へえ! 面白いですね!」


 カオルが一拍置いて茶をすすり、湯呑を置いて、


「ですが、この刀、普通に使っていたので、折れてしまいました。ここで拵えに何らかの力があるのだと分かるのです」


「ほう? つまり、新しく別の刀身を入れてみたら?」


「その通りです。宝剣が折れたと知れ、また泥棒が来るのですが・・・やはり出た所で背中にぶすり。光を放ち、後に残ったのは財布と服と骨だけ。そう、刀身ではなく、拵えの方に力があった、というわけですね」


「なるほど・・・で、今は誰が?」


「所在は不明です。この人食刀の話はゾエの各地に伝わっておりますので、色々な者の手を渡り歩いて来たのでしょう。伝えが本当であれば、捨てても持ち主の所に戻って来るのですから、紛失は絶対にしないはず。今も誰かが持っているはずです」


「ううむ!」


「刀身ではなく拵えの方なので、魔剣登録はされませんが、恐ろしい刀である事には変わりありません。しかし、折れても砕かれても新しい刀身をその拵えに納めれば良いのですから、むしろこちらの方が怖いかもしれません」


 アルマダが頷き、


「確かにそうですね。拵えが壊れなければ、何度でも使える」


 マサヒデも頷いて、


「そうか。拵えの方に何かの力があるっていう物もあるんですよね」


「そのような物を探してみるのも面白いかと。刀身に目が行きがちですが、拵えに何らかの力が籠められている物もあるのです」



----------



 夜も更けて、サカバヤシ流本道場、本宅。


「こ、これは・・・っ」


 大きさからして脇差かと思って桐箱を開けたラディが、ぎくりと身を固めた。

 明らかに空気が違う。一見して年代物と分かる拵え。

 名刀? 魔剣? それとも称号刀?


「・・・」


 形が脇差とは違う。反りが深く、曲刀に近い。これは『ゾエ刀』と呼ばれる、古のゾエの猫族が作った刃物だ。

 ゾエ刀に魔剣や称号刀は無かったはず・・・人知れず埋もれていたのだろうか。

 クレールの持つ魔剣の例もある。埋もれた魔剣はあるのだ。


 恐る恐る手を伸ばした時、す、と小さく襖が開いて、ぎく! と手を止めた。


「っ!」


「あー、あのさ・・・」


 襖の隙間から、ジンノジョウが気不味い顔を覗かせている。


「は、はい」


「布団、客間に用意しといたからよ・・・良い所で・・・」


「あ、あの!」


「何?」


 ごく、とラディが喉を鳴らし、桐箱を指差して、


「これは・・・魔剣などの類?」


「魔剣?」


 すー、と襖を開けて、ジンノジョウが入って来て、桐箱を挟んでラディの向かいに座り、桐箱を覗いて腕を組む。


「ああ、これなあ。どう見てもおかしいんだけど、分からねえんだ」


「と言いますと」


「いや、振っても投げても普通のゾエ刀。もしかして魔術関連かなって、魔術師とか陰陽師とか神主さんとか教会とか、色々見てもらったけど、何もねえんだ。でも、明らかに違うよな? おかしいよな?」


「はい。空気が尋常ではありません」


「でも、何もねえんだ」


 ジンノジョウが箱のゾエ刀を取って、すらりと抜き、懐紙を出してしゅーっと斬る。


「な? 斬れるっちゃ斬れるけど、すげえ斬れるとかでもねえし、どう見ても業物って刀身じゃあねえ、いたって普通のゾエ刀。呪いもねえ。変なのが宿ってるってんでもねえ。何なんだろな?」


「何か、力を使う為に呪文のようなものが必要な物でしょうか?」


 お! とジンノジョウが顔を上げ、


「あー! かもしれねえな! それには気付かなかったぜ・・・でも、親父もこれはさっぱり分からねえってんだ。どんな力があるんだろうな? 雪とか溶かしてくれねえかな」


 ジンノジョウがゾエ刀を天井に向けて、


「雪、溶けろー!」


「・・・」


 しばらく待ったが、何もない。


「何もねえな」


「はい」


 すらりと謎のゾエ刀を納めて桐箱に戻す。


「流石にあんたの目でも分かんねえか」


 ラディが頭を下げ、


「申し訳ありません。しかし、ゾエ刀自体が今は貴重です。大事になさって下さい」


「勿論。でも、絶対、何かあるはずなんだよなあ・・・おっかしいよなあ」


「ううん・・・」


 2人が腕を組み、首を傾げる。


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