表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/18

第12話


 サカバヤシ流本道場。


 ジンノジョウはマサヒデに負けた罰で、雪かき、雪下ろしの作業中。

 マサヒデ達は許しをもらい、道場に入った。


「おはようございます」


「おっ・・・トミヤス様」


 手前の門弟達がマサヒデ達に目を向ける。

 マサヒデは頭を下げ、


「サカバヤシさんからは、許しを頂きました。こちらで稽古を受けて良いと。皆様が良ければ、立ち会いもしてくれと」


「あ、左様で。少々お待ち下さい」


 マサヒデ達は興味深い顔で道場を見回す。

 撃ち合っている者が1人も居ない。こんな道場があるとは。

 皆、壁にぴたりと張り付き、そこで抜く、納刀、と繰り返している。

 立っている者、座っている者。

 それを横や後ろで見ながら、何やら注意をしている者が高弟、指導員か。

 先程の門弟が、それらに声をかけては何か話している。


 マサヒデとアルマダが険しい顔でそれを見ている。


「・・・撃ち合ってませんね」


「ええ・・・残念ですね」


 サカバヤシ流は抜き打ちで有名だが、それだけではない。

 マサヒデの今日の狙いは抜いた後。

 サカバヤシ流は、刀の最古の流派と言われる鹿神流を使うのだ。


「抜けば一太刀、向かえば鹿神、サカバヤシに敵う者なし・・・向かえば鹿神流」


 アルマダが腕を組み、険しい顔で頷く。


「神誠館では、鹿神流が見られませんでしたね。マサヒデさんもそこですか」(※首都編・45話参照)


「ええ。他流に見せてくれますかね」


「・・・どうでしょう。撃ち合う前に終わらせるが基本。止められた、避けられた時点で参った、もありえますよ」


「ありそうですね、それ」


 マサヒデとアルマダがこそこそ話していると、高弟らしき者が4人歩いて来た。1人が前に出て軽く頭を下げる。


「おはようございます、トミヤス様」


 マサヒデも礼を返し、頭を下げる。


「おはようございます。お邪魔して申し訳ありません。私達も稽古に参加させてもらえますでしょうか」


 高弟が頭を上げて頷き、


「勿論です。立ち会い稽古もしていただけるのですか」


「はい。私の連れにはそこそこの魔術師もおりますので、魔術師相手も。良かったら言って下さい。死霊術師なので、どかんと道場を壊すような事もありませんし、治癒師は一級ですから。斬り落とされた手足も、ぴたりとくっつけられます」


 おお、と高弟が驚き、


「それはそれは。安心して厳しい稽古も出来ますな。ううむ、しかし、死霊術ですか! 珍しいですね」


「虎でも熊でも呼び出せますので・・・数秒なら竜も呼べるかも。クレールさん!」


「はい!」


 ちょこちょことクレールが出てくる。寒くて床が冷たいのだろう。

 む、と高弟が怪訝な顔をしてクレールを見る。

 小さい・・・


「こちらの方?」


 マサヒデがクレールの肩に手を置き、


「クレールさんは、レイシクランです」


 ぎょ、と高弟達が驚いてクレールを見る。

 魔の国1、2の金持ち貴族で、恐ろしい魔術師も多いと高名だ。

 姿を消すような特殊な力があり、中にはこれを使う忍もいるとかいないとか。


「これは・・・レイシクランのお方でしたか・・・大変失礼を」


 クレールがぎゅっと拳を握り、


「構いません! 私、いくつかの道場で稽古してきました! お任せ下さい!」


「ほう。純粋魔術師で、死霊術師・・・珍しいですな。やはりトミヤス道場?」


 クレールがちょっと考えて、指を繰りながら、


「あと、シュウサン道場、神誠館、打剣館と、オリネオの冒険者ギルドと」


 有名所ばかりだが、高弟が怪訝な顔で首を傾げる。


「シュウサン道場? アブソルート流の?」


「はい!」


「あそこは20年くらい前に畳んだ・・・ああ、レイシクランの方は長命でしたな。しばらく首都におられたのですか」


 確かに、今のシュウサン道場を知る者はここには居まい。


「あ、いえ。コヒョウエ様のご子息がオリネオから少し離れた所で道場を」


「なんと!? ううむ、それは存じませんでした。アブソルート流といえば、お父上の剣聖カゲミツ様がおられた所」


 ちらりと高弟がマサヒデを見る。

 マサヒデが頷き、


「まあ、純粋なものではないです。使えるというか、そこそこといった程度です」


「ふむ・・・少々お待ち下さい。贅沢過ぎて、迷ってしまいます」


 高弟が頷いて、後ろの3人とこそこそ相談する。


「あ、そうでした。外でシズクさん、鬼族の。サカバヤシさんと雪かきしてますから、呼んで来ましょうか」


「えっ? あ、いや。本日は・・・どうする?」

「どっちも怖いぞ」

「手足斬れてもって、そういう稽古って事だな」

「言うなよ。なまら怖いって」


 丸聞こえなので、アルマダが思わずくすっと笑う。

 高弟の1人がマサヒデに気不味い笑顔を向けて、


「ううむ、それでは、トミヤス流の稽古法など教えてもらえませんか?」


「トミヤス流の稽古ですか」


 マサヒデとアルマダが顔を見合わせる。

 アルマダが高弟の方を向き、


「基本の基本や握り方くらいは教えてもらいますが、あとは撃ち合いをしながら、こんなのはどうだと。それを、カゲミツ様にご注意を頂くとか、こんなのを試してみろという感じなので・・・決まった型のようなものがないんですよ」


「ううむ! それは大変な指導ですね・・・流石は剣聖」


 マサヒデが腕を組み、少し考えて、おっと顔を上げ、


「ああ、ならアブソルート流の基本など如何でしょう。所謂、基本にして奥義というやつです」


「おっ! 奥義ですか!?」


 高弟達が目を丸くする。

 マサヒデは苦笑して肩をすくめ、


「よくあるやつです。実は基本が奥義だったというあれです」


「確かに、確かに、そういうのはよく聞きますが・・・」


「抜いた後、間違いなく強くなれますよ。稽古法は実に簡単ですが、突き詰めると中々。突き詰めた所は、私も10回に1回出来れば良い所、という感じで。アルマダさん、どうします?」


 ふ、とアルマダが笑い、


「では、私はオノダ一剣流の基本にして奥義にしましょう。出来たら首都のオノダ一剣流の道場に行けば、免許皆伝が頂けます。刀でも使える技術ですから。どちらを先にしますか?」


 高弟達が顔を見合わせる。


「・・・どうする?」



----------



 道場にずらりと門弟が並んで座る。

 皆の前に立つマサヒデの前に、高弟が1人、三尺刀を持って立っている。


「三尺刀で宜しいので?」


「ええ。その方が分かりやすいです。では、正眼に構えて下さい。古い構え方ではなく、真っ直ぐ相手に伸ばす感じの方。あ、そうそう。皆さんに見えやすいように、横を向いて下さい」


「はい」


 高弟が横を向いて構える。流石に綺麗に構える。この構えだけで、尋常ではないと分かる。


(やはりサカバヤシ流、抜き打ちだけではない)


 感心しながら、マサヒデが門弟達の方を向き、


「これから見せるのは、アブソルート流の基本であり、奥義です。アブソルート流を学ぶ者の強弱は、これで決まります。昔、首都にあったシュウサン道場では、1ヶ月以内に自分でこれを見つけねば入門出来ない決まりでした」


 マサヒデが高弟の構えた三尺刀の切先に指を置き、


「この切先から目を離さないで下さい。至極単純な事ですが、ここに気付けるか気付けないかです。身に付いたら、目に見えて振りが速くなります」


 高弟に向き直り、


「身体中の力を抜いてしまって下さい。刀を落とさないぎりぎりくらいまで」


「はい」


「もっともっと。ふわあっと。その刀を落とさない、ぎりぎりまで。指紋で引っ掛けるくらいの感じまで。そのくらいで抜いた所が、丁度です」


 脱力とはだらんと力を抜くのではなく、緊張と弛緩の丁度真ん中。

 マサヒデの感覚では、刀を持っている時は、このくらいが丁度良い所だ。


「すうー・・・ふううう・・・」


 お、とマサヒデもアルマダもカオルも驚いた。

 見事に身体の力が抜けたが、刀はぴたりと動いていない。

 ぴたりと緊張と弛緩の間に置いたのが、目に見えて分かった。


「む、む・・・見事です。驚きました。では、皆さん。切先から目を離さず。まず、軽く握って下さい。手の内だけで」


 く、と高弟が握ると、切先が上がる。

 すっとマサヒデが腕を伸ばし、上がった切先の下に指を置いて落ちないようにして、切先を指差し、すすっと元の高さまで持って来る。


「分かりましたか? 腕の力はいりません。握るだけで、刀はこれだけ上がります。即ち、手の内の動きのみ。それも、緩む、握る、これだけ」


「むうっ!?」


 高弟には分かったようで、声を上げた。

 長いので、1尺以上も上がっている。つまり・・・


「つまりですね。握るだけで、こんなに上がる。振り被る時に、これに合わせる事が出来たら・・・分かりますよね。凄い速さで振り被れるわけです。縦横、切り上げ。全部これで振り被って、振る事が出来たら、です」


「な、なるほど!」


「これがアブソルート流の基本であり、奥義。そして、この奥義にはまだ先があります。そこに辿り着くと、日に1000回どころか2000回も楽に振れます。勿論、真剣で。時間があれば3000、4000。1万だって。当然、この三尺以上ある刀でも簡単です」


「2000・・・人族でも?」


 む、とマサヒデが頷く。


「勿論。で、ここは入口です。まだ戸を開けただけの所です。この先という所に気付けるでしょうか。それがアブソルート流です。では皆さん、立って抜いて下さい」


「「「はい!」」」


 皆が立ち上がり、すぱぱん! と三尺刀を抜く。

 この光景は凄い・・・


「最初は正眼で真っ直ぐ振り上げる、振り下ろす。これだけで良いです。三尺刀だと、振り被る時に多少は力がいるはず。ですが、出来た時、何と言いますか、全然力を入れてないのに、凄い勢いで、すんっと上がりますから、違いがはっきり分かります。あとは、身体がその感覚を掴めるかどうかだけ。この感覚は個人で違いますから、ここだと決まって言えませんが、ただ握って上がる、そこに合わせるだけです。猫族の方が多いですが、力を抜く、入れるというだけなので、簡単に覚えられます」


 マサヒデが後ろのアルマダ、カオル、イザベルを手で招く。

 そして、イザベルの肩に手を置き、


「このイザベルさんは狼族。猫族の方よりも、更に覚えるのが遅いですが、ある程度はもう出来るようになっていますから、皆さんも簡単に覚えられるはずです」


 イザベルが小さく頭を下げる。

 そして、アルマダ、カオルを見て、


「さ、皆さんも一緒にやりましょうよ。アルマダさん、カオルさんも三尺刀で。イザベルさんは自前ので良いですが、真剣なので気を付けて下さい」


「は!」


 アルマダも昨日の稽古で三尺刀を抜けるようになった。

 カオルもゆっくりと抜き、イザベルも背中の剣を抜く。


「手を握るだけ。腕や肩の力なんて必要ありません。では構えて下さい。1で振り被る。2で下ろす。いきますよ・・・はい、1!」


「「「1!」」」


「2!」


「「「2!」」」


 1! 2! 1! 2! と声を上げながら、マサヒデが門弟の間を歩いて行く。

 皆、見事なものだ。

 3尺もある刀をぴたりと構えて、綺麗に振り被り、振り下ろす。


(これがサカバヤシ流か!)


 内心の驚きを隠しながら、声を上げながらゆっくりと歩いて行く。


「1!」

「ああっ!?」


 門弟の1人が大きな声を上げた。

 お、とマサヒデが驚いた顔のまま振り被っている門弟の方を向く。


「もう出来ましたか?」


「で、出来ました・・・多分ですが、すっと。こう、感じが、軽く・・・」


 マサヒデが笑って頷く。


「その感覚を忘れないうちに、身体に染み込ませて下さい。続けます! 2!」


「「「2!」」」


 マサヒデがゆっくり歩いて行く。

 これは教えたらまずかったか、などと思わず考えてしまう程に、皆が見事だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ