第11話
冒険者達に囲まれたマサヒデは冒険者ギルドから何とか逃げ出し、教会へ。
教会は近くで、四半刻もかからなかった。
馬車を止め、馬を繋いで教会を見上げる。
「ううむ、ここは結構でかいですね・・・首都のは小ぢんまりしてましたが」
クレールも教会を見上げる。
「ゾエは教会が強いと聞いていますから・・・でも、魔族受け入れ派だから大丈夫ですよ」
「そう言えば、マイロさんは癖のある人だって言ってましたね。なんて言いましたっけ? 乱暴な人だって言ってましたか」
マイロとは、同じく教会の魔族受け入れ派の牧師。首都では教会の受け入れ派が小さく、苦労していた。排斥派という魔族というだけで暗殺しているような者達を容認している、今の教会の姿勢に疑問を持ち、何とかしたいと考えている。
教会内でも小さな魔族受け入れ派は、大した発言権はないのだ。
「どんな人なんでしょう? 乱暴な牧師って」
「想像が出来ませんが。じゃあ、入りますか」
大きな扉に手を掛けてぐっと押すと、ごとん、と低い音が響き、ゆっくりと扉が開いた・・・
「・・・」「・・・」
まだ朝のはず。
教会の黒い服を着た女と、あれは海上の護衛を頼んだ海賊の一員、ミューラではないか。
2人がこたつで酒を酌み交わしている。
教会のど真ん中にこたつが置かれている・・・
「あれ、お茶ではないですよね」
すん、とイザベルが鼻を鳴らす。
「酒です。間違いなく酒です」
「今はやめた方が良いでしょうか」
マサヒデが扉に手を掛けて閉めようとすると、
「おいっ! 寒いだろ! 早く入って閉めろ!」
女牧師のでかい声が響く。
渋々、マサヒデ達が中に入る。
ぺこりと頭を下げ、ゆっくりと歩いて行く。
ああん? とミューラがグラスを持ったままこちらに顔を向け、ぎょ! と驚き、
「でっ!? 何しに来やがった!?」
「どうも・・・邪魔する気はなかったんですが」
「なんで夜中に教会に来んだよ! ロクな用じゃねえな!」
「とっくに朝ですって」
「あ? あ、朝か・・・呑み明かしちゃった!?」
女牧師がミューラを見て皮肉な顔で笑い、
「あーあ! このガキがトミヤスだな!? んで? こいつの手にボルトぶちこんだ女はどいつ?」
ふっ、とイザベルが笑い、ミューラを見下ろす。
「思い出しくなかろう? 海猫ちゃん」
「ふん!」
イザベルにグラスが飛んで来たが、ふわっと受け取りくるんと腕を回す。
酒がこぼれない!?
「げっ!?」
「おっと・・・奢りか? 大変申し訳ないが、朝から酒はちと遠慮しよう」
イザベルがすたすたと歩いて来て、にやりと笑ってこたつの上にグラスを置く。
「ぎゃはははは!」
女牧師が顔をしかめるミューラを見て、げらげらと笑いながら、
「まあまあ、あんたも入りなよ! な! あんた寒いだろ?」
「いや、私の故郷は酷い気候でな。おかげで寒さには慣れている」
「スーツだけで平気なのかよ」
ぽんぽん、とイザベルが胸を叩く。
「着込みも着ておるゆえ」
「へえー。凄いじゃん。私ゃ駄目ー。こたつないと死んじゃうー」
そう言って、女牧師はべたんとこたつの上に顔を乗せる。
「本日は挨拶に参っただけであるので、すぐに去ろう。マサヒデ様」
「ああ、はい」
マサヒデが懐からマイロ牧師からもらった紹介状を出して、女牧師に渡す。
「ああ・・・?」
女牧師が小さく唸りながら、ぺり、と封を開けて中の書状を出したが、目に手を当てて書状を置く。
「あー駄目! 字見ると酔っちゃう! 後でいい?」
マサヒデが苦笑して、
「はは。構いませんよ。では、折角の席を邪魔して申し訳ありませんでした」
「はーい」
ひらひらと女牧師が手を振ったが、カオルがすっと前に出て、
「エイダ様、出は何処で?」
あ、とマサヒデが思い出した。そうだ。この女牧師の名はエイダだった。
「白露さ」
「白露?」
「・・・何さ」
エイダの目が一瞬鋭くなったが、カオルはにやりと笑い、
「いえ。では失礼致します。皆様、参りましょう」
くるりと向きを変え、カオルが去って行く。
このエイダなる牧師、何かあるのか?
マサヒデ達も、先程までのにやついた顔と正反対の険しい顔のエイダをちらりと見て、教会を出て行った。
ミューラも怪訝な顔で去って行くマサヒデ達を見た後、エイダに顔を向ける。
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教会の外に出て、マサヒデがカオルを止め、
「あの方、何かあるんですか? ミューラさんのお仲間の海賊?」
「いえ。あれは灰蘭から来た者です」
「灰蘭?」
マサヒデは怪訝な顔をしたが、クレールとイザベルが顔を引き締める。
灰蘭とは、米衆連合の海外諜報機関本部が置いてある地域の名。
米衆の海外に潜伏している忍は、通称『灰蘭』と呼ばれる。
イザベルが声を小さくして、
「ミューラ殿と仲良くしているようですが・・・つまり、潜入工作員ですか」
ふ、とカオルが鼻で笑って頷き、
「そうです。しかし、忍としては大した者ではありませんね。まあ、元々期待はしておりませんでしたが。ふふ。口止め料に出掛けに一筆頂いておきましょう。教会だけでなく灰蘭にも」
「ははは! カオル殿、流石です」
イザベルが笑い、クレールもくすっと笑った。
何の事やら分からないマサヒデは、首を傾げる。
「さ、ご主人様。サカバヤシ様の所に参りましょう」
カオルが颯爽と馬に跨がり、にっこり笑った。
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サカバヤシ道場。
マサヒデ達が着くと、ジンノジョウが顔を上げて手を振った。
「ははは! 本当に来たのかよ!」
どさ! と馬車からシズクが跳び下りて、
「来た来たーっ! 今日も食べてくぞ!」
そう言って、シズクが満面の笑みを浮かべる。
ジンノジョウもにかっと笑って、
「おうおう、今日はちゃんと用意しといたからな! でも、食えそうだと思っても、少しは皆の分も残して食ってくれよ」
「分かってるよ。昨日は悪かった! ごめんなさい!」
ぱちん! と手を合わせて、シズクが頭を下げると、ジンノジョウが笑う。
「ははは! じゃあよ、あんたはちょっと雪かき手伝ってくんねえか? 凍って固まっちまったんだよ」
「凍った?」
ざすざすと雪を踏んでシズクがジンノジョウの所に歩いて行く。
「ほら、これこれ」
ジンノジョウが雪をばさっと放り投げ、かんかん、と地面を叩く。
「固いだろ? 大変なんだよ、これ」
「ふうん・・・ちょっと待ってて」
シズクが馬車に戻り、鉄棒を持って戻って来る。
「おいおい」
がつーん! ばぎっ!
「ほら! 割ってきゃ簡単! 私が割ってくから、片付けなよ」
ぼす! とシズクが鉄棒を引き抜くと、泥と氷が飛び散る。うわ、とジンノジョウが顔を背け、驚き半分、呆れ半分で地面を見つめる。
「まじかよ・・・」
「貸したげてもいいよ、これ」
「いやいや、いくら鉄張りっても、歪んじまうぞ」
「鉄張りじゃないよ」
ジンノジョウがシズクの鉄棒を指差す。
「それ・・・中も鉄?」
「そゆこと」
自分に使えるわけがない。
「あそう・・・借りるのはまた今度にするぜ」
さくさくと雪を踏んでマサヒデ達も歩いて来る。
「おう!」
ジンノジョウが明るい顔で手を挙げる。
「おはようございます」
スコップを雪に立てて、ジンノジョウが肘を乗せ、困った顔で笑みを向ける。
「いや、悪いなあ。今日は雪かきしねえと、道が完全に凍っちまって危ねえからよ。今年は俺1人でやらなきゃいけねえからさ。中入って、高弟連中に教えてもらってくれるか? 逆に皆の相手してくれても構わねえぜ。昼過ぎには俺も行くから」
道場を見て、マサヒデが頷く。
「分かりました。相手するかは高弟の皆さんと相談します」
ジンノジョウがにやりと笑い、
「試しに絞ってみてくれよ。昨日はトミヤス流の格好良い所、何も見せれなかったろ? ははは!」
高笑いするジンノジョウに、マサヒデは首を振って、
「いやあ・・・ここが凄すぎるんですよ。たった1回三尺の刀を抜いただけなのに、急に抜きが良くなりました。驚きましたよ」
「だろ? あれに慣れれば、その腰のコウアンも小刀みたいに抜けるぜ」
「いやあ、そこまで稽古が積めるかどうか。そうのんびりもしてられませんから」
「つれない事言うなよ。今日はあんたらの刀見せてくれよ。俺のも見せるから」
「分かりました。ではサカバヤシさん、失礼します」
「楽しんでけよ!」
マサヒデがシズクに軽く頷いて、
「シズクさん、頼みますよ」
むん! とシズクが力こぶを作る。
「任せてよ! ジンノジョウ、ぱぱっと終わらせちゃおう!」
「もう呼び捨てかい」
「はいはいよー! さあやっちゃおう!」
ぼごん! ばりばりばり! ばきーん!
「うおおっ!?」
ジンノジョウの叫び声を聞きながら、マサヒデ達は道場に入って行った。




