声
どうぞ楽しんでください
とある病院の一室、母とその娘は椅子に座り向かいに座っている医師を見つめていた。
『やはり、脳に異常は出ていません。』
医師は親子に対して診断の結果を伝える。
『おそらく真里ちゃんはまだ能力を呼び覚まさていないんだと思います。』
『そうですか…』
能力。その言葉に対して真里と言われる子供はキョトンとした表情を浮かべた。我々がこの世界の能力が何なのかを理解できていないようにこの子供も医師の言う能力が何なのか。全く理解ができていなかった。
『真里ちゃん?一回だけでいいから、頭の中で能力を使いたい!って強く思ってくれる?』
医師が自分に対して不思議なお願いをしてきた。真里と呼ばれる子供はまだ幼いこともあり、医師の言うことに対して少し警戒心をも覚えた。
『真里?大丈夫だからね。つよーく、しっかりと考えてね。』
母親が真里に語りかける。真里は警戒心を説き、頭の中で強く願った。能力を使いたい、能力を使いたい、能力を……
(だめ。)
いきなり頭の中に言葉が響く。鼓膜に音が届いたような感覚がなく、しかし声は聞こえる。不思議な感覚を真里は味わう。
(つかっちゃ、だめ)
声は真里にそう語りかける。真里は警戒心の強い少女だった。しかしなぜかこの声の主に対しては全く警戒心を感じることはなかった。
『…真里ちゃん?』
真里は気づくとずっと天井を見つめていた。様子が変な真里を心配し医師は声をかける。
『大丈夫?能力、使えそう?』
医師は真里を心配しつつももしかしたら能力を使っていたのではと言う可能性も感じ、そう声掛けする。
『…ダメだって。』
『え?』
『つかっちゃ、ダメって。』
『それってどう言う…』
真里は声の主に素直に従い、二人に自分が言われたことを伝える。二人が真里に疑問をぶつけようとした瞬間……
「真里ー!起きろー!!」
「んあ!?…」
教卓の前にいる先生が直接声を掛けて寝ていた真里を起こした。真里は突然起こされた影響からか、変な声が出てしまい、周りの生徒達からは少し笑い声が漏れ出てしまう。
葛木真里、現在16歳の高校一年生。どうやら真里は授業中に寝てしまい、なぜか昔の出来事を夢に見ていたらしい。
「あー寝てたのか私。」
「寝てたのかじゃない!!お前今週に入ってから何回寝てるんだ!!」
真里は周りの笑い声も気にせずマイペースに寝ていたことを理解。そんな真里を見て先生は怒りながらも何度も寝続けている真里に呆れを覚える。
「大体三回くらいですよね?」
「五回だ!俺が確認できるだけでも!」
真里は適当に先生の質問に三回と答えるが先生はくいぎみに五回と訂正する。真里は現在、かなりの問題児となっているようだ。
「全く!何でこんなに…」
「zzz…zzz…」
「………起きろー!!!!」
「んあ!?」
先生が説教を始めようとした瞬間、真里は速攻で二度寝に入った。流石に先生もすぐ気づき、さっきより大きい声で真里を起こす。
「もういい!!お前だけ課題追加だ!」
「はぁ!?」
先生は怒りが頂点に達したのか、真里に対して罰を与えようとする。当然真里は動揺し抗議をしだす。
「ちょっと待ってくださいよ!それはひどいじゃないすか!」
「えぇい!関係ない!貴様が悪いんだぞ!ほらこれッ!!(パスッ!)来週までに終わらせてこい!」
「そんな〜!」
しかし抗議も虚しく先生は真里の机に追加の課題を力強く叩きつける。その時間の真里は不服そうな表情を浮かべながら授業を受けた。
「あーまじ最悪…」
休み時間に入り、真里は積み上げられた課題を横目に机に突っ伏しながら文句を言っていた。
「まさか起こされてすぐ二度寝をかますとは…流石に初めての出来事だよ?」
隣の席に座っていた女子が真里にそう話しかける。
彼女は氷室御幸。真里と同じ年齢の同級生であり、真里とは小学生時代からの親友である。
「マジでやばかったんだよ?私含め周りの奴らみんな笑い堪えるのに必死だったんだよ〜?」
「私の心配をしろー…」
「いやだよ。あんな事した真里のせいなんだから。
ちゃんと反省して苦しみなさーい。」
「はぁ〜」
真里は笑みを浮かべながら二度寝した際の状況説明をする御幸に対して同情を求めるが御幸は軽く流して真里を煽る。
こういう煽りをしても別に真里はいやな気分にならないと理解しているからこその対応である。
「はーい、三組次の時間健康診断なので早く着替えてくださーい。」
教卓の上を片付けた後、先生は生徒達に着替えを急かすよう言い教室を出て行った。その言葉を聞いて真里は少し笑みを取り戻した。
「まぁいいか!次健康診断だし!授業潰れて待ち時間で寝れて一石二鳥ってやつだ!ヒャッホォ!」
「待ち時間そんな長くないでしょ…全く、その切り替え速度を授業中にも使えたらねー…」
真里はすぐさま更衣室に向かい、御幸も少し真里に呆れながらもついていくように更衣室に向かった。
「えー次は小田忍さん。」
「はーい。」
「では能力検査をしていきますねー。頭にこれ被って、能力を使ってください。」
「はい。」
健康診断の先生は忍という女子にヘルメットのような被り物を渡し、能力を使うよう指示する。
さて、ここで皆様も気になっているであろう能力について話そう。
能力とは、この世界に生まれる人間達が潜在的に持っている超常的な力である。ひとえに能力と言っても芽生える能力は人それぞれでバラバラであり、全く同じ能力を持つ人間はいないという。そしてこの世界の能力は、特殊な性質を持っている。
(パリンッ!)
突如能力を使用した忍の目の色が変色する。健康診断の先生は特に驚く様子もなく淡々とヘルメットから送られるデータを確認し、忍の問診表に記入を始める。
「はい、特に問題ないです。能力使用はもうやめていいですよ。」
「…(ファン…)ありがとうございます。」
忍は目の色を元に戻し、相槌を打たずにお礼だけを言って別の診断を受けに行った。これがこの世界の能力である。
能力には少しながら意思があり能力発動中、使用者の脳を一時的に乗っ取られ体の主導権を一時的に支配される。
先程、能力を『使う』という表現をしたがそれは少し間違いであり正しくは能力に『使われている。』この世界の能力とはそのようなものなのだ。
「はい次ー葛木真里さん」
「あのーすいません。実は私、無能力者でして…」
「あぁーそうでしたか。すいませんが証明書などはありますか?」
「こちらです。」
真里はそういうと手帳のようなものを健康診断の先生に見せた。普段はあんな様子だが、流石の真里もこういう時などは礼儀はしっかりしているのである
「はい、ありがとうございます。ではそのまま次の診断へ向かってください。」
「はい、わかりました。失礼しました。」
真里は早急に次の診断へと向かう。「無能力者」というと能力を持っていない者への名称にも聞こえるが少し意味が違う。何かしらの理由で能力を使えないものをこの世界では無能力者という。真里の場合は幼少期のあの出来事以降、頭の中の声に従い能力を使わないまま成長していった。現在の真里もあの声に従い、まだ能力を使ってないのだ。
今現在になってもあの声の主が誰なのかわかっていない。
しかし何故か、あの言葉の主は自身の近くにいる。真里はそう感じていた。
「…使っちゃダメねぇ…」
真里はあの言葉に従いつつも何故使ったらダメなのか。それがわかっていなかった。使ったら危険な能力なのか。それともあの声自体が能力なのか。…
「葛木真里さーん。こちらはどうぞー」
「はーい。」
しかし真里は特に気にしていない。能力が使えなくとも親友がおり、家族がおり、ゲームや運動など楽しいことはいくらでもある。健康診断の時にたまーに気になってもすぐに忘れて真里はいつも通りの真里に戻る。今回も真里は気にすることなく健康診断を終わらせて教室に戻りすぐに寝た。
いつも通り、そしてこれからも、能力を使わないまま人生が終わる…そう考えていた……
五月十五日、葛木真里、コンビニにて犯罪集団に身体中を打たれて死亡。
直後、死亡したはずの真里は立ち上がり強盗を殲滅した。
真里の考えは、半分は当たったのかもしれない
続く…
読んでいただきありがとうございました。




