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久米宏さんの話。

作者: エンゲブラ

久米宏さんが亡くなられた。

享年81歳。これを長いとみるか、短いとみるかは、ひとそれぞれか。


筆者にとっては、ごく少数の「手放しで気持ちのいい大人」という印象が、彼にはあった。静の筑紫哲也と動の久米宏。このふたりが連なる時間に並び、報道番組を展開していた時代は、今にして思えば、奇跡的であったともいえる。


彼らには、権力にはおもねらず、絶対に屈しないという気骨があった。「報道」というものの意味と真摯に向き合い、社会の闇(病み)に常にメスを入れた。数え切れぬほどの政治的な圧力が、彼らにはかけられた。実際に際どい場面も何度もあったとされる。しかし、彼らは最後までスマートに、紳士に戦い続けた。


筑紫哲也も、久米宏も、テレビからいなくなってからのこと。この国の報道が音を立てて崩れ始めたのは、現首相が総務大臣として大暴れした、2016年の頃からだ。「偏向報道」という言葉をさかんに口にし、「電波停止」と「放送免許の剥奪」まで公言し、総務大臣として言論封殺を始めた。NHKには外部から親・安倍の社長を押し付け、クローズアップ現代の国谷裕子さんがキャスターから引きずり降ろされたのも、この年のことである。


「報道の中立性」という言葉の下、政権に阿るコメンテーターをどの番組でも必ず一名以上は入れるというルールが生まれたのも、2016年。不快指数の高い、腹話術人形たちの登場が、多くの視聴者をテレビから遠ざけることとなった。「忖度」という言葉が、当然の配慮のように語られるようになったのも、ここからだ。


―― いかん、大きく脱線した。

久米さんの話に戻そう。


世間一般の久米宏のイメージといえば、『ニュースステーション』で止まっているひとが、ほとんどだろう。しかし、筆者はラジオに移ってからの久米宏こそが、最高に好きだった。


TBSラジオ『久米宏 ラジオなんですけど』


毎週多彩なゲストが登場する2時間番組。2006年から2020年まで放送され、好評を博した。聴取率は年を追うごとに高まり、絶頂期であった2020年に突如打ち切られる。表向きには、久米さんの体調面を考慮してとされているが、「百以上の理由がある」と言っていたのも、久米さん本人。奇しくも、久米さんが最後まで開催を反対していた、東京五輪開幕予定の前月にあたる6月のことである。


(実際の五輪開幕は翌年にズレ込んだが、番組の打ち切りが決定したのは、前年度末の、五輪の正確な開催日が未確定な段階とされる)


ラジオでの久米さんの舌鋒は凄まじかった。

ニコニコと笑うように語りながら、しかし鋭い指摘の数々が、お気に召さない政治家も数多くいたことだろう。しかし、テレビの報道が死んでしまったことにストレスを感じていた人たちにとっては、唯一のガス抜きとなる痛快なラジオであった。―― それが番組人気の絶頂期に唐突に打ち切り。勘ぐるなという方が無理な話だ。


田中眞紀子さん(田中角栄の娘。久米宏とは早稲田で同じ演劇サークルにいた同窓生)が、ゲストの回でバラした爆弾の数々=安倍氏の祖父・岸信介のA級戦犯回避の裏取引に始まり、政権と電通との癒着の詳細の暴露が、安倍政権と電通の逆鱗に触れた、とする週刊誌の記事もあった。


ラジオが無くなってからは、わずかな期間、自身の配信メディアを開設し、動画のアップロードも行っていたが、そのサイトもすぐに閉鎖。2020年以降は、思い出すたびに久米さんの近況を検索にかけるという日々が、近年続いた。


たしか一昨年、映画のプレミア上映に姿を見せたという記事を見つけ、「健在で何より!」と思っていたのだが、非常に残念だ。


終戦の一年前に生まれ、「昭和百年」でもあった2025年の大晦日を超えてから、元旦に息を引き取る。何やらひとつの物語の完結のようだが、やはり死による終わりというものは、ビターエンドにしかならないのだろうか。


何とも惜しいひとが亡くなった。

感情が巧くまとまらないので、何を書いているのか分からない文章になったが、とにかく惜しい気持ちばかりが残る。


ご冥福をというのは、お別れのような気がして、あまり言いたくない言葉なので、とりあえずは「お疲れさまでした」と「ありがとうございました」とだけ、今日は記す。


久米宏と筑紫哲也。

このふたりは、筆者にしては珍しく、尊敬しているということを躊躇なく公言することの出来る人物だ。大人とは、紳士とはこう振る舞うものだ、と生き様で見せてくれたふたり。彼らを嫌うような人間からは、好まれるよりも、むしろ嫌われた方が誇らしい。そんな気持ちにさえなれる、自分の中での大人の指標でもあった。


なんとも残念な話だが、これも時の流れというやつか。

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