第8話
AIの画像生成にハマってます。
満足いくまで調整してると、1時間とかすぐ経ちますね。
皆さんはAIでどんなことやってますか?
「よいしょ……」
幼なげな掛け声と共に、その少女は姿を現した。棚に嵌め込まれた本と本の隙間を、器用に潜り抜けて。
床に足を付けた彼女はなるほど、50cm足らずの隙間を通れるだけあって小柄な体型だった。140cmあるかないかの身長に、小さな顔。しかし幼児体型ではないメリハリのある体型が、彼女の年齢を不明瞭にしていた。
「君は──」
つい、幼子への語り掛けを口にしそうになり、慌てて引き結ぶ。この世界は異世界。つまりファンタジーだ。
「──いえ、はじめまして。多岐 渉と申します」
「あれ、思ってたより丁寧な対応だ」
「ご不快でしたか?」
「そんなことはないさ。見下されるより何倍もいい」
彼女は顎をあげ、気分良さげに鼻息を吐いていた。
自分の判断を内心で褒める。
この世界、おそらくだが長命の存在がいるのだろう。召喚の際、ユニ王女は公然の場で不老というワードを口にしていた。周囲は馬鹿にするでもなく、当たり前のように聞き流していたし、それだけ馴染みがあるということだ。
だからこそ、見た目で幼いと判断するのは危うさを感じた。
何より彼女の瞳は理性的だ。登場の仕方に遊び心が溢れていても、所作にはどこか品がある。
「寡聞にしてお名前を知らぬ無礼をお許し下さい。失礼ながら、どなた様でしょうか」
椅子からズレて、その場に膝を付く。この1ヶ月で貴族相手への対応は慣れたものだった。とりあえず頭を下げておくのが吉だ。もし彼女がプライドの高い人間なら、座ったままでは叱責が飛び、膝を着けと命じるだろう。
先んじて動いておけば、互いにストレスはない。それに、反応をみれば人となりも計れるというもの。
チラリと顔色を盗み見る。髪も肌も陶磁器のように真っ白で、ただでさえ大きな翡翠の瞳がより強調されている。赤と茶系統の中華服に似た服を纏う人形のような彼女は、関心した様子で何やら頷いていた。
「へぇ……分かってるね君。そうそう、僕は選んだ。賢人は敬わないとね!」
にぱりッ、と。彼女は薄い桃色の唇で大きく弧を描き、快活な笑みを浮かべた。
急激に推定年齢が下降していく。もしかして、普通に子供だったりするのだろうか。だが、こんな時間に図書館にいるのは可笑しい。
どうにも人物像が定まらず、動くに動けなかった。
「ご安心下さいワタル様……この方は怖い方ではありませんよ」
ロッテは後ろから、そっと俺の肩に手を添えた。
白い彼女は呆れたように苦笑する。
「そんな子供をあやすみたいな……バーデンちゃん。君、そんな母性的な人だったけ?」
「ご冗談はおやめ下さいペタゴ様……私はまだ母になる歳ではありません」
何やら和気藹々と冗談が交わされている。やり取りに固さはなく、どうやら顔見知りのようだった。
ロッテからも緊張した様子は感じられない。吊られるように肩の力が抜ける。
「おっとごめんごめん。久しぶりに、ほんとッ久しぶりに、丁寧な対応されたからつい舞い上がっちゃった。ほら立って立って!」
ペタゴと呼ばれた女性はロッテとの会話を打ち切ると、笑みを携えて手を差し出した。
その手を取るか一拍迷って、素直に差し出す。引き上げられるように立ち上がった。
「……どうも」
腕を通して、体格からは信じられない力強さが伝わってきた。彼女は片手で俺を引き上げ、その間に体がブレる様子はなかった。
やっぱり異世界だなと、妙な感心が胸に浮かんぶ。
「そういえば自己紹介はまだだったね」
彼女はコホンと咳払い。空気を切り替える。
腰に左手を、胸元に右手を添え、形の良い胸を張って彼女は微笑んだ。その所作は堂に入っていて、こちらの背筋も自然と伸びる。
「改めてだね、異世界からの迷い人君。僕はリザ・ペタゴ。この図書館の名誉司書さ」
「名誉司書……」
聞いたことのない役職名だ。
鈍い反応を察してか、ロッテが注釈を入れる。
「官職の頭に『名誉』と付くのは……外部から特別に雇用された方の特徴です」
「それだけ能力が高いってことか」
「そうとも!つまり有能な人材という訳さ! でも貴族ではないから気軽に話してくれていいよ」
パチリとウインクを飛ばしてくる。だいぶお茶目というか、光属性といった感じだ。
声は明るいのに所作は静か。だからか派手さは感じない。陽キャとも違う、これまで接したことのないタイプだった。
「なら、ペタゴさんは──」
「リザと呼んでくれたまえワタル君!」
デジャブだ。この世界の人達はグイグイ距離を詰めてくる。いや、貴族や教会人はむしろ距離を取っていたから、人によりけりか。
ロッテ達との交流で学んだのだ。こういう要望には素直に従った方が話が早いのだと。
「ではリザさん。本棚から顔を出していた理由をお聞かせ願っても?」
「それはズバリ、君を観察しようと思ってね」
「観察ですか」
つまり監視、だろうか。本棚に頭を突っ込んでやる事ではないだろうに。
「どうも最近、棚の本の位置が妙なズレ方をしていることに気づいてね」
リザさんは机の上に積み重なった本に目をやった。
「しかも戦闘関連の書物ばかりと来た……何か企んでる奴でもいるんじゃないかと、有能な僕は勘繰っていた訳だ」
言葉選びこそお茶らけているが、背筋が凍る思いだった。
この図書館を利用する上で、本の片付け方は自由だ。俺以外にも利用者はいるから、本の位置なんてすぐグチャグチャになる。なのに、リザさんはそこに法則性を見出していた。
その勘違いとも言える変化を疑い、見事俺を探り当てた。証拠品は、今も机の上に、彼女の視線の先にある。
一際大きく、胸が脈を打つ。
「ワタル様は……悪意を持って此処におられる訳ではございません」
「ロッテ……」
ロッテが俺の前に立ち、静かに弁護した。普段から穏やかな彼女が矢面に立つのは意外で、その背をつい眺めてしまう。情けないことに、女性に庇われてホッとしてしまった。
俺が何かを言おうとする前に、リザさんはムッとした顔でロッテを見上げる。
「分かってるさ! 彼の本の扱いは丁寧だからね。他の奴らにも見習わせたい程だ。まぁ、そうやって積み重ねるのは減点だけど」
本ってあんまり重ねない方が良いのか。知らなかった。今度からは気を付けよう。
いやそうではなく。本の扱い方まで知られているということは、だ。
「結構前から見られてた、ってことですか」
「ふふふ。この小さな体は隠密に最適なのさ」
実際に声を掛けられるまで見落としていたくらいだ。しかし──
「その綺麗な白髪を見つけられなかった俺の目は、間違いなく節穴ですね」
陽が落ちて暗い図書館の中、リザさんの髪は眩しいほどによく映えていた。
本当に呆れてしまう。久しぶりに自己嫌悪だった。
今、俺は恵まれている。この状況はロッテ達の好意によるもので、上層部の思惑からは外れている行いの筈だ。読書にかまけ、さも賢くなったように錯覚して、周囲の警戒を怠っていた。何の為に秘密の通路まで使っているのか。
バレた時、困るのは俺よりも彼女達なのに。そんなことすら頭からこぼれ落ちていた。
落ち込む俺とは別に、リザさんは嬉しそうに笑みを深めている。
「恥ずかしげもなく素直に褒めるじゃないか……なかなか気分がいいよ!」
「……俺の世界じゃ白は神聖な色ですから。美しいと思うのは自然なことですよ」
声に覇気はないが、口にしたのは本音だった。
「乗せるのが上手い口だ。気に入ったよワタル君!」
まっすぐ受け取ってくれたのか、近寄ってきたリザさんからバンバンと腕を叩かれた。彼女的には肩を叩く親愛の証なのかもしれない。だが、身長差のせいで腕に拳が当たる。力も強いから、ちょっと肘が痛い。あんまり嬉しくない。
想定外に気に入れらている様子に、乾いた笑みが溢れ出た。
「そいつはどうも。ならどうか俺のことは見逃してくれませんかね。もしダメなら、せめてロッテは居なかったことにして下さい」
「ワタル様!」
「……ロッテって、そんな大声出せるんだな」
「私とて怒ることくらいありますッ」
詰め寄るロッテを宥めるも、彼女が睨みを弱める気配はなかった。失言だったのだろう。だがこれくらいしか出来ることがない。
本当に、情けない。無力感がそうさせるのか、目前に迫るロッテから顔を逸らしてしまう。
「分かっております……気遣いであることは」
彼女は追撃せず、一度息を吐くと適切な距離感に戻ってくれた。その振る舞いは冷静で、対しては俺は罪悪感やら劣等感やらで一杯一杯だ。これではどちらが年下か分かったものではない。
だがいくら情けなくとも、恩人に責が及ぶようなことは回避しなくてはならない。
重ねてお願いしようとリザさんを見る。一歩離れていたリザさんは、何やらブツブツと呟いている。
「熱々だねぇ……羨ましい妬ましい。どうせ本の虫な僕は相手に恵まれませんよ本が恋人ですよ、くそぅ……」
「いやそういうのじゃないので」
「そうですよ……私ではとても釣り合えませんから」
「なんでちょっと気があるみたいな言い方した?」
「なんで見せつけるみたいなことするの今?」
ちょっとキツめの視線で睨まれてしまった。小柄な彼女では迫力に欠けるが、この空気を変えたいのは同意だ。
「それじゃあ、お返事をくれませんか。俺これでも結構焦ってるんです」
「交渉する相手に焦りをバラす奴があるかい、まったく……」
「普段はもっと冷静な方なのですが……ご自身以外の窮地には弱いのでしょうか」
「なんだいそれ」
「可愛げがあって……いいではありませんか」
「もしかして狙ってるのかな。あざといねぇ」
今度は俺を放って2人だけで話を始めてしまう。
「勝手に俺のキャラ付けをしないで下さい」
なんで意気投合しているのだろうか。それと早く返事をくれ。
じっと見つめていると、リザさんはため息を挟んで回答した。
「君の心配は杞憂だよ」
「すみません、ちゃんと言葉にして貰えますか。俺はバカなので、含みを持たせた言い方だと理解しきれないんです」
「おいおい、嘘はいけないよ君」
ふふふ、と。リザさんは口元を掌で隠すようにして含み笑う。
見透かすような目で、いじらしそうにこちらを見た。
「自分を落としてでも言質を取ろうとする姿勢は好みだよ。強かだからね。でも、バカの振りはこんな場所でするもんじゃないよ……知識を尊ぶ賢しさが君にあることくらい、それこそバカでも分かる」
彼女は目前まで距離を詰めて見上げてくる。腕を持ち上げ、俺の胸元に人差し指を突きつけた。
そしてまた笑うのだ。今度はどこか荒っぽい、好奇心に満ちた表情で。
「言っただろう? 僕は君のことを観察していたんだ。そしてこうも言った……気に入ったと」
言って、胸元をトンと押される。その手は重く、後ろに数歩よろけてしまう。
再び腰に手を添えたリザさんは笑みを引っ込めると、今度はブスリと口元を尖らせた。
「バラす訳ないだろう。僕をそこらの性悪と一緒にしないで貰えるかい。その偏見は不快だよ」
『偏見』と言葉にされて、ハッとする。無能だなんだと、勇者の称号の有無で評価されていたように、今度は俺が、リザさんのことを異世界人として見ていた。こちらに否定的だと勝手に決め付けていたのだ。
これでは口にした通りだった。自分がされて嫌なことをしていた。そのことに気がついていなかった。
バカだ。本当に愚かだ。
自然と、深く頭を下げていた。
「すみませんでした」
「──許す! ただし、今回だけだからね。僕は腐った貴族達やら目先の利益に釣られる自称有能達が大嫌いなんだ。同じ扱いはゴメンだよ」
軽くなった声音で、リザさんは許しをくれた。それに、同じミスをしないように分かりやすい忠告まで添えて。
まだこの人のことを理解は出来ない。でも、器の大きさは、この短いやり取りでも感じられた。
「はい。本当にすいません。それと、ありがとうございます」
「ここでお礼を言えるのが、君の良いところだねワタル君。やはり僕の目に狂いは無かったか」
フンフンと楽しげに頷く彼女は、やはり幼さが強調されて見える。だが人への印象とは不思議なものだ。一度ボジティブに感じると、その振る舞いも親しみやすく思えてくる。現金なものだ。
隣に立つロッテを見ると、彼女は苦笑していた。きっと釣られるように、俺も同じ表情をしているのだろう。
リザさんの急な登場に心は乱されっぱなしだったが、今となって悪い気はしない。彼女が味方かは分からない。でもひとまず、敵ではなさそうだ。それが分かっただけでも大きな収穫だった。
心の整理を付けたちょうどそのタイミングで、リザさんがポンと手を鳴らす。
「やはり決めた。今決定したよ!」
「何をですかね」
短い問いに、リザさんは大きく手を広げる。
「君、僕に師事するつもりはないかい?」
にぱりッ、と浮かぶ笑み。
心はまだまだ、乱されることになりそうだった。
お読み頂きありがとうございます。
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滝登 鯉




