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第1話

新作の執筆開始です。

なんとか今回は一章だけでなく、全話完結を目標に頑張ります。

応援して頂けますと幸いです。



──某大学 図書館


6階層の内の3階。その角にあるテーブルに1人座り、机上の書類に目を通す。

書類を見て、持参したノートパソコンの画面を見て、また書類を見る。偶に、隣にある本を開いてページを捲る。これを繰り返しながら、最後のページの最終行まできっちりと目を通す。

少し喉が渇いてきたな、と自覚し始めた所でやっとひと段落。無事、記載事項に抜けがないのを確認できた。


「……とりあえず、目処はたったかな」


小さな達成感と安心感が、独り言を誘発した。私語厳禁の図書館でこれはいけない。軽く辺りを見渡して、周囲に人気がないことにホッと息を吐く。呼気が熱を体外に放出し、小さく寒気を覚えた。

もう11月も半ば。寒さは鋭さを持ち始め、屋内だろうと空調の通りが悪い場所は自然と人足が遠のく。それを期待してここに来たが、狙い通りに集中することができた。おかげで今日のタスクは完了した。


「さむ……」


流石に長居し過ぎたのか、手先の軋みが少し気になる。隣の椅子にかけていたコートを羽織り、パソコンと書類を鞄に滑り込ませる。校内カフェにでも行ってコーヒーでも飲もう。カップの熱で、手先の冷えも緩和できるだろう。


「その前に」


机に積み上げられた本を片付けなければならない。書類を作成するにあたって参照していた本は、都合5冊。それらを積み上げる。ありがたいことに、返却ボックスに置いておけば係の人が戻してくれる。元あった場所を探す必要がないのは本当に楽だ。


鞄を肩にかけ、本を抱え上げる。

声が掛かったのは、そのタイミングだった。


「──多岐(タキ)先輩じゃん」


軽く、男にしてはトーンの高い声。そして「先輩」と口にしながら敬う気を感じさえない間延びしたイントネーション。

振り返った先にいたのは、予想通りの相手だった。


「……ああ、兼野か」

「何やってんの? もしかして卒論の準備とか?」


明るい茶髪と甘い顔が目立つ男──兼野(ケンノ) (ジン)。同じ4年生で1歳下の彼は、俺を「先輩」と呼ぶがタメ口だ。別にいいが。

俺は一浪してこの大学に入った。年齢差はその為だ。そしてその前歴、小中高では兼野と同じ高校だった。といっても当時は交流どころか認知すらしていなかったが。きっと兼野も俺のことなんて知らなかっただろう。

大学での講義中、ふとした雑談で出身校が同じことが判明した。それから何かと絡まれることが増えていた。


振り返った時に並びがズレたのか、腕の中で傾きかけている本を抱え直す。


「そうだよ。卒論の中期発表はそっちも終わっただろ。だから最終発表に向けて準備してるんだ」

「うわ、まっじめー。って言うか凝り性ってヤツ? プレゼン省略しても、資料さえ提出すればそれでOK出るんだから、無駄に時間使わなくていいでしょ」


半笑いで言われると腹が立つが、兼野の言うことも一理ある。この大学は卒論の認可基準はかなり緩い。最低限、論文としての形を成してさえいれば提出するだけで問題ない。他の大学生に言えば舌打ちが返ってくること間違いなしの甘さだ。

中期発表を無事通り抜ければ、その最低ラインも超えたと言える。わざわざ作り込もうとする者はごく少数だった。


その1人が俺な訳だが。


「学生論文とはいえ、手を出した研究を放り出すのは気持ち悪いんだよ」

「うわカッコつけじゃん。今時真面目アピールはダサくない?」

「うるさい」


誰もそんなアピールはしていない。自分から始めたものを中途半端で辞めるのは嫌なんだよ。


この男、正直、あまり好きなタイプの人間ではない。距離の詰め方が雑なのだ。外向的で有効的だと言えば聞こえは良いが、こちらの反応を軽視されているようで鼻につく。言葉選びが軽すぎる。陽キャ特有の距離感なのだろうか。俺は隠キャ寄りなのだから控えてほしい。これももう死語か?


迷惑そうに眉を顰めてみる。しかしどう変換されて伝わったのか、兼野は話を続けてしまう。


「てかそもそも、多岐先輩って大学院に行くんだっけ?」

「いや……就職だけど」

「ならやっぱり無駄じゃん。どうせ誰も学生の研究なんて引き継がないし、俺らみたいに参考文献だけペッとまとめて適当に考察書い方が絶対いいでしょ」


俺ら、とは少し離れた後ろで待つ2人の女性のことを言っているのだろう。


「真梨も光里も、内定に影響しない卒論より俺たち3人の時間を優先したいってさ」


山杜(ヤモリ) 真梨(マリ)狩野(カノ) 光里(ヒカリ)。大学内でも有名な美人2人だ。金髪でちっこい山杜は小動物系。黒髪ロングでのんびりとしてる狩野はお嬢様系。別ジャンルの美人として一定数のファンもいる。俺とは知り合い程度の関係だ。あっちからは「こんなのいたな」程度の認識だろう。この前話した時も、名前うろ覚えだったし。


そんな2人は兼野の幼馴染であり片想い中。見てれば誰だって分かる程度にはアピールしている。きっと、「俺たちの時間」も「兼野との時間」のが正確だろう。ファンが哀れだ。


「時間は限られてんだから、自由に使う方が賢いと思うけど」


兼野は後ろを振り返り、それに気がついた2人に対して手を振った。

距離があっても分かるほどに、向こうの2人は幸せそうな笑顔を浮かべている。きっと兼野もそうなのだろう。俺からは顔が見えないが、肩の力が抜けているのは見て取れた。


「……まぁ、そうかもな」


否定はしないし、きっと出来ない。兼野達の判断だって、公式に許された範囲内での自由選択だ。俺がどうこう言うべきものでもないだろう。


「え、無駄なことしてるって認めんの?」

「人によって価値は異なるって認めただけだ」

「いい子ちゃんかよ」


手を下ろし、顔をこちらに戻す兼野の表情は、少しつまらなそうだった。何故そんな顔を向けられないといけないのか。

兼野がこうも突っかかってくる理由、これが分からない。外見はもちろん、学力や身体能力だって俺より上だ。あまり好きな言葉じゃないが、「才能が違う」とはこういうことかと思わされる。器用貧乏が関の山である俺なんかとは比べようもない筈だ。

しかしどうにも、兼野は俺に対してマウンティングしたがる傾向がある。美人2人を侍らせている時点で余裕で勝ち組なのだから、それで満足すればいいのに。


しかし兼野は話題を変えて話を引き延ばす。


「そういえば、多岐先輩って内定もう貰ってんの? あ、ちなみに俺達は貰ってるから、気兼ねなく言ってもらって大丈夫」


それ俺が落ちてた時に大丈夫じゃない発言だろ。気遣いというものを学び直してこい。

ため息をひとつ。とりあえず「多岐先輩なら内定貰ってるでしょ」という信用であると受け取ろう。絶対違うのは、隙を伺うような細めた視線で丸わかりだが、その方が精神に優しい。


そしてその信用に、俺はちゃんと答えている。


「俺も貰ってるよ」

「マジで!? 今日いち驚いたわ」


お前マジで……。

これ天然じゃないよな。いやワザとでもムカつくが、無意識なら社会に出ていつか殺されるぞ。呆れを超えてちょっと心配するんだが。


「で、どこよ」


グイッと詰め寄る兼野は、その整った顔に期待を浮かべている。俺の口から、名前を聞いたこともないような会社が出てくるのが楽しみで仕方がないのだろう。顔に書いてある。これだけ近いと嫌でも読めるというものだ。


しかし残念。


「……〇〇株式会社」


俺が答えた社名は、有名な外資系だった。

途端、兼野の顔が不快げに歪む。


「はぁ? それ俺たちと同じ所じゃん。なんで先輩が入ってんの? 面接の時居なかったじゃん」

「別日だったんんだろ。俺の担当官の人、確か2回目だって言ってたし」


内情なんて俺は知らない。というか不満を隠さなくなってきたな。場所的に会話を他に聞かれることはないだろうが、もうちょっと他人の耳を気にしろよ。その露骨な態度は普通に腹立つぞ。


「なるほど。つまり補欠合格みたいなもんか。なら安心したわ」

「どういう意味だよ」

「いやいや、こっちの話。気にしないでいいから」


気にするわ。バカにしてんのが丸わかりだバカが。

とにかくマウンティングには折り合いがついたのか、兼野は悩みが解決したみたいな笑顔を向けてくる。こいつ、面の皮厚すぎないか。


もうお開きとしよう。舌を打ちたくなってきた。それは品がないし、そもそも図書館内で呑気に会話したのが間違いだった。マナー違反だ。

これ見よがしに、腕に抱えた本を揺さぶる。


「……もういいか? 俺、本の返却して資料まとめたいから」

「おけおけ。俺らもさっさと良さげな資料見つけて卒論終わらせるわ。多岐先輩は細かい実験大変だと思うけど頑張って〜」

「どうも。そっちもな」


心のこもっていないエールに、こちらも素っ気なく返す。これで会話は終わりだ。淡白だが、返事を返すだけマシだろう。


返却ボックスを探すと、すぐ側の壁際に設置されていた。日によって場所が変わるのだが、目の届くところにあったのは幸運だ。さっそく足を運ぶ。

俺が離れるのを待っていたのか、山杜と狩野がこちらに近づいて来る。俺は一歩横にずれ、そのまますれ違う。挨拶はもちろん、会釈もなし。友人ではないのだから、そんなものだ。


「もう仁!遅いって」

「私たちを放っておくのはどうかと思うわよ?」

「ごめんって!」


背中で戯れ合う声が聞こえる。なんとなく、独りだなと感じた。

今日のコーヒーはちょっといいやつにしよう。本の重みで腕は痺れてきたし、指先は冷たいままだ。温もりと癒しがいる。よし、そうしよう。

ほんの数百円程度の違いだが、ちょっとした贅沢だと思えばそれだけで気分がいい。知らず力んでいたのか、肩から腕にかけての硬さが抜けていくのを感じた。


「これでよし」


本を返却ボックスに置き、鞄を肩にかけ直す。体が軽くなったようだ。まぁ文字通りだが。

さてと、と出口に向かおうとした時だ。その光が視界を刺したのは。


「きゃッ」

「はぁ!? なんだこれ!?」

「ちょっ、仁! 体、動かないんだけどッ」

「俺もだよッくそッ!」


反射的に目の前に手を翳して振り返る。3人が立っていた場所で、光が弾けていた。風が吹き荒れるように、眩い光が渦を巻いている。その中から、兼野達の動揺した声だけが響いていた。

3人の姿は影すら見えない。図書館は元々暗めのライティングだ。突拍子のない高出力の発光は、暗闇に慣れていた俺の目を焼いた。


「ぐッ!?」


チクリと、焼けるような痛みが目の奥を刺す。


正直、この時の俺はどうかしていたと思う。前もろくに見えないのに、光に向かって声と右手を伸ばしていたのだから。肩から鞄がずり落ち、ガチャリと硬い音が鳴る。落下角が悪かったのか、もしかしなくてもパソコンが逝ったらしい。そんなことより、とにかく引っ張り出さないとと、そう思った。


「ッおい! 手ェ伸ばせ!」

「動けないんだよッ」


返ってきたのは、兼野の焦りと苛立ちに塗れた声だけ。光は強まり視界は白く染まっている。それだけに留まらず、光に向かって風が吹き始めていた。物理法則はどうした。いったい何がどうなっているのか。


「くそ! おい無事か!」


ここが図書館だということも忘れ、大声で呼びかけながら一歩踏み出す。伸ばしたままの手に、一瞬、抵抗があった。3人の誰かに触れたのか、そう思ったのは間違いだった。


指先に、光の帯が触れていた。その帯は蛇のような動きで、腕を伝って纏わりついてくる。軽く素早く、しかし振り解ける気はしなかった。掴もうとしてもすり抜けたからだ。意味不明な現象を前に、捕食されるような恐怖を覚えて、寒さとは別の鳥肌が腕を覆った。


腕を伝い、肩まで達した光の帯が光を強める。爆発する予兆のような、そんな輝き。


「はぁ!? ふざけッ、なんだこのファンタジー!」


瞼を貫く光に飲まれて、俺の意識は消失した。





冷たい。

逃げるように身を捩っても、体から熱を奪われる感覚は消えなかった。その不快感を自覚して初めて、自分が寝ていたことに気がつく。

顔の横に手をついて、体を起こす。厚手の毛布を被ったかのように、体が重い。


「……あ?……なんだ今の。まだ目がチカつく……」


視界も鮮明とは言えなかった。全体的にボヤけていて、あちらこちらが瞬いている。


「さっきまで、確か……」


記憶が途切れている。光が、目の前を覆ったような?

いや、そもそも俺は図書館にいた筈で。まさか寝落ちしたのか。しかしこの、手から伝わる冷たさは、


「金属……いや石、か?」


確かめるように手で撫でる。基本ツルツルしていて、所々で指が引っかかる荒さがあった。少なくとも繊維質ではない。図書館全体に敷かれていた筈のカーペットとは、似ても似つかない質感だった。

手の甲で目頭を揉むも、改善は見られなかった。瞼を閉じても開いても視界は白い。目の調子は戻らない。


床か地面か不明だが、とにかく座り込んだままだった所に、声が降ってきた。


「よくおいで下さいました。勇者様方」

「だ、誰だアンタ! 今どうなってる!」

「仁! ここ!? ここね!?」

「お二人とも、良かった。そこにいるのですね!」


この声、兼野だ。続いたのはあの2人か。場所は離れているのか少し小さく聞こえる。察するに、どうやら俺と同じ状況らしい。女性2人はきっと兼野の側にいるのだろう。兼野に触れることでもできたのか、声に安堵が滲んでいる。

かくいう俺も、1人でないと分かって思わず安心してしまった。しかし目が見えないのは変わらない。


「王女様。どうやら目が……」


その通り。どうやら察してくれたらしい。正直、こんな状態で急に話しかけられて混乱している。身動きもろくに取れない状態だ。普通に怖い。


「なるほど、以前の記録にもありましたね。では神聖魔法を」

「はい」


若い女性の声と、落ち着いた男性の声。他にも人がいるのか、吐息や布切れの擦れる音。人の気配が多数感じられた。

それにしても、勇者に、魔法。演劇か何かかと鼻で笑いたくなってしまう。が、直前の超常現象を思い出す。いやまさか、と冷や汗が背中を伝うのを感じる。


「──セイクリッド・ヒール」


そう、唱えられた。

それだけで、俺の視界は回復した。


「どうでしょうか。これで体調は改善されたかと思いますが、如何ですか」

「……」

「目は見えて……はいるようですね。少々混乱されている、という所でしょうか」


王女、と呼ばれていたのだろう女性が、兼野の前に立って首を傾げている。声を掛けられた兼野はポカリと口を開けて呆けていた。ちょっと間抜けだが、あれは咄嗟に反応を返せなくても仕方ないと同情する。


絶世の、と言われても納得しかない女性だった。透き通った青銀色の髪は丁寧に縫い上げられ、その服装は映画に出てくるような凝ったドレス姿だ。首元や指先には、多種多様な宝石が飾り付けられていた。その身に纏うオーラとでもいうのか。本物だと、感じずにはいられない。俺たちのような学生には馴染みのない気配だ。


「改めて、ようこそおいで下さいました。異界より舞い降りし勇者様方。我々一同、心より歓迎します」


整った顔を無表情で固め、彼女は歓迎の意を示した。

こっちの反応を無視して話を進める所に、苦手だな、と俺は思った。










お読み頂きありがとうございます。

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