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江戸っ子歌い手少女  作者: 水海月
第一章『始まりの音色』
6/6

episode of monster cat Ⅱ『毎日が変わった日』

そこには、大人の女性が立っていた。

活発そうな性格を連想させる整った顔立ちに、

ラピスラズリのように美しい、瑠璃色の瞳がよく似合う。

着ているグレーのパーカーはおそらく部屋着だろう。

被っているフードの中から、ひまわり色のハーフアップに結った

髪が見えた。


「さっきは大丈夫だった?

交差点を通ってた時に、偶然見つけられたよかったよー!」


どうやらこの人が私の事を助けてくれたようだ。

ただ、問題は尻尾の事だが、、


「そう言えばさ、君って尻尾が二本あるよね。

きっとすごい珍しい種類の猫なんだろうなー!」


嬉しかった。人生で初めて自分の事を煙たがらないものに会えたことが

とても嬉しかった。


「あっ、こんなこと話してる場合じゃない!

もうお家に帰らないとだよね?首輪つけてないし、

どうやって探そうかな。」


またあの場所に戻らなくちゃいけない・・・─────────


女性の言葉を聞いた瞬間、そんな考えが頭をよぎった。

その不安感から、上目遣いをしながら女性の足に擦り寄る。


「もしかして、行く当てがないの?」


その言葉にカルマが頭を縦に振る。


「そっか、私ね、お仕事が忙しいから家に居られない時もあるかもしれないけど、

それでいいなら一緒にここに住まない?」


カルマは、ニャンと嬉しそうに返事をする。


「あっ、そうだ!さっきマネージャーさんがね、

キャットフード買ってきてくれたんだ!今持ってきてあげるからね。」


台所にある深めの容器を取りに行きながら、カルマに向かって女性がそう言った。


「あっ、そういえば自己紹介してなかったよね?

あたしの名前は七瀬琴葉(ななせことは)。アイドルやってるんだ!

よろしくね?」


そう言いながら、琴葉がカルマの前に緑やオレンジ、白色などの色の、

キャットフードが入った容器と、ミルクが入った同じくらいの大きさの容器を差し出す。


「丁度今お昼ご飯の時間だから一緒に食べよ!」


カルマのすぐ傍にある、白いテーブルを囲うように置かれた四つの

椅子の内、カルマに一番近い椅子に座り、食事の態勢をとった。


「「頂きます。」」


その言葉を合図に、一人と一匹は目の前の食事を食べ進めた。


(わっ!何これ美味しい!)


今までまともなものを食していなかったカルマにとって、

そのキャットフードは、それまでの食の常識を根本から覆した。

カリカリとした食感に、魚のダシが効いている。

いつも食べていた目玉や腐った魚より、魚本来のうまみがよく感じられた。


「ニャ~ン!」


「美味しいの?よかったよかった!」


そう言いながら、琴葉は満面の笑みで

カルマを見つめる。

その後一人と一匹は黙々と食事を進め、五分ほどですべて食べ終えた。


「ごちそうさまでした。」


(ごちそうさまでした。)


食事を終えた琴葉は、ソファに座り、目の前に置かれた小さい机に

置いてあったリモコンを手に取った。


「さてと、今日は休みだからテレビ見よーっと。あっ、君も一緒に見る?

膝の上おいでよ。」


琴葉の手招きに答えて彼女に近寄り、膝の上にジャンプする。

その様子を見た琴葉は、リモコンを横に置いてから

顔を上へ向け、その顔を両手で抑えて一人でブツブツと何か喋っている。

言っている内容はよく聞こえない。


(あっ、やばい。かわいすぎて昇天しそう。)


その後我に返った彼女は、


「あっ、そうだテレビテレビ!」


慌ててリモコンを手に取り、

テレビの電源を付けた。


「次のニュースです。本日午前二時、某有名アイドルグループ所属の

花園南(はなぞのみなみ)氏が、自宅で倒れた状態で見つかりました。

発見された際、被害者はすでに亡くなっていたそうです。

警察の調べによりますと、現場周辺から血の付いたロープが見つかったことや、

被害者が以前からSNSで誹謗中傷の被害を受けていたことから、

自殺したという考えで調査を進めているそうです。」


「えっ、南ちゃん?」


琴葉の手からリモコンが落ちた。


「うそ、南ちゃん死んじゃったの?・・・」


彼女は唖然とした顔でソファに崩れ落ちる。


「うあああぁぁぁぁん!」


その後、自分の顔を両手で抑えて沢山の涙を流しながら大声で泣いていた。

今ニュースでやっていた人物は、おそらく琴葉の知り合いだったのだろう。

しかも、こんなに泣いているということはきっと余程仲が良かったに違いない。

その事は、琴葉の両手からあふれる涙を見ればすぐに分かった。


広い部屋中に彼女の泣き声だけが響いていた。

それでも外に見える街は、何事もなかったかのように沢山の車が走り、

人々が歩いているいつも通りの景色を見せてきた。

この世界はきっと、どれだけの人がこの世からいなくなったとしても、

何事もなかったかのように回り続けるのだろう。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


あれから半年の月日が流れた。あれから沢山のアイドルが自殺した。

そのニュースを見るたびに琴葉は、沢山の涙を流しながらも、

そのたびに「大丈夫だよ!」と強がって私に心配をかけないようにしていた。

その言葉通り、それ以外の時はいつも通りにふるまっていたので、

何も言わなかった。けれど、きっと本当はとてもつらかったのだろう。

どうして自分はその時に彼女に寄り添ってあげなかったのだろうか?

私でも出来たことがあったはずなのに・・・・

目の前に広がる光景を見ると、そんなことが頭の中に流れてくる。


「琴葉、なんで私を置いて逝ったの?」


そこには、天井から吊るされたロープに首を掛けたまま動かなくなった

琴葉の姿があった。


「うああああぁぁぁん!」


泣いた、ただひたすらに泣いた。

自分の居場所を失ったカルマに残されたものは、

沢山の悲しみという感情だけだった。


「なんで、なんで私置いてくの?

一緒に暮らそうって言ったじゃん!私の尻尾の事何も言わなかったじゃん!」


自分の事を理解してくれるたった一人の相手が居なくなってしまった。

これからまた以前のように虐げられる日々が戻ってくるのだろう。

以前の生活に戻ってしまう恐ろしさ、琴葉が死んでしまったこの悲しさ。

この二つの感情がカルマの心を蝕み続けていた(むしばみつづけていた)


「あれ、これ何だろう?」


泣いている途中で、ソファの前にある机の上に一枚の紙が置かれていることに気が付いた。

丁寧に畳まれたその紙を、気になって開いてみると、

そこにはこのようなことが書かれていた。


『お母さん、お父さん、それか警察の人。

とにかくこの手紙を最初に見つけた人、いきなりいなくなってしまってごめんなさい。

最近沢山の仲の良かったアイドルが死んでしまって、もう限界でした。

当の私も同じく、SNSで誹謗中傷をされていて、

その二つの事が重なってもう限界になりました。

それと、私が飼っている猫の事はよろしくお願いします。

あの子は初めて会った時から、不思議に思っていました。

尻尾が二本あったからです。尻尾が二本ある猫について調べてみると、

あの子がもしかしたら妖怪の猫又かもしれないという可能性が出てきました。

猫又は、尻尾が二本あるのが特徴の猫の妖怪で、人間になれたり、

人間の言葉がわかったり、過去に行くこともできるそうです。

でも、あの子はそれが出来なかったからきっと大丈夫だろう。

そう思いながら一緒に暮らしていました。

なので、あの子の事は怖がらずにお世話してほしいです。

今までありがとうございました。

いつかアイドル達が、前のようにキラキラ輝ける。

そんな世の中に戻ることを祈っています。


                 七瀬琴葉』


「琴葉、私が普通じゃないってこと分かってたんだね。・・」


口ではそういったものの、内心何が何だか訳が分からなかった。

琴葉が自分の前からいきなり居なくなった事、

自分が猫又という妖怪だったこと。

沢山の事が重なって、カルマの心はボロボロだった。

またカルマの頬から大粒の涙がこぼれ落ちていく。


「うあああああああ!」


その泣き声と同時に床に青い大きな魔方陣が浮かび上がってきた。

円の中に五芒星が描かれている。

魔方陣から放たれた光が、カルマの司会を覆っていった。

そして、周りの景色が次々と、まるで何回も紙芝居の絵を引き抜いたように、

次々といろんな景色が流れていく。

段々と、先程まで見ていたビル達よりも、少しずつ古めかしい建物に変わっていった。

当のカルマは、泣いてばかりで周りの事など目についていなかった。

カルマが次に顔をあげたときには、そこには現代の高層ビルなどとは比べ物にならない

質素な家々が立ち並んでいた・・・・






















この後カルマは、名を北条凪と名乗り、琴葉が夢に見たアイドルの復活を叶えるため、

紅葉へと近づくのであった・・・・

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