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江戸っ子歌い手少女  作者: 水海月
第一章『始まりの音色』
5/5

episode of monster cat  Ⅰ『仲間外れの猫又』

『ゴミ山に埋もれたゴミ』自分の立場は、

まさにそんな言葉で表したようなものだった。

他の猫に嚙まれ、引っかかれたとしても、必死に耐えて

ゴミ箱を漁り、既に食べられた後である、

身がない魚の目玉やひれの部分を食べたり、

川の水を飲んだりして何とか食い繋いでいた。



「なんであなたは生まれてきたの?・・・・」



川の水鏡に映るその猫の頬には、一筋の涙が流れていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


猫の名は『カルマ』。他の猫達から孤立した、いわゆる村八分状態の猫だ。

カルマが仲間外れにされていたのには理由がある。

それは、尻尾が二本あったからだ。

周りの猫や人間たちに、『化け物』、『化け物』と言われ

虐げられ(しいたげられ)、蹴られ殴られ、引っかかれ、噛まれ、

ゴミを大量に投げられ、中身がパンパンになったゴミ箱に

閉じ込められたなんてこともあった。

それもこれも全部尻尾が二本あったから。周りと少し違ったから。

ただそれだけの理由でひどい扱いを受けてきた。



「か、帰りたくない、怖い、、でも帰んないと。私には、

どこも行く当てがないから・・・」



カルマは全身をブルブル震わせながら、住処への帰路を進んだ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「んだてめぇ、なんで居やがんだよ!」



ゴミ箱が足で蹴飛ばされ、中に入っていたゴミがそこら中に散らばる。



「ひっ!」


「お前さぁ、化け物はもうここに居んなつったよな?」



ここら一帯の猫達を仕切っているペルシャの『レグノ』が、

鬼の形相でカルマを睨んだ。



「なぁ、なんとか言えよ!この化け物!」



その瞬間にカルマがレグノの前足で蹴飛ばされ、

その場に転がり込む。



「レグノ様、あなたがわざわざ手を下す必要はありませんわよ。

この化け物野郎が居るせいでレグノ様もお疲れでしょう?

そこからさらにこいつを痛めつけることで

レグノ様がさらに疲れてしまいますわ。

ここはわたくしたちに任せてくださいまし。」



レグノに向かってそう言ったのは、彼の正式な部下である

メイクーンの『エクエス』だ。後ろには、エクエスの部下の猫達が

獲物を狩る猛獣のような目でこちらを見ている。


「うっ、」



カルマは、それに対して怯む(ひるむ)しか選択肢が無かった。



「いやしかしだな、俺にも王者としての

立場というものがだな・・・・」


「まぁ、まぁ、」



エクエスのその言葉を合図に

彼女の部下たちが、一斉にレグノを押してその場から追いやった。



「さてと、久しぶりにあんたのことを痛めつけられるわ。」



ぱっと見普通の猫の瞳に見えるが、その瞳の奥には、

恐ろしい心が宿っているかのように見えた。



(逃げなきゃ!)



カルマは必死で足を動かして、ビルが立ち並ぶ表通りの方へと走り出した。



「っはは!わたくしがてめぇを逃がすとお思いでして?」



高笑いをしながら恐ろしい顔でこちらを捕まえようとしてくる。

いつもいつもこうやって逃げ回っても、最終的には捕まって、

ひどい思いをする。だとしても逃げ回る。わずかな希望にかけて、、

もしかしたら、もしかしたら、誰かが助けてくれるかもしれない。

逃げられるかもしれない。そう思ったのだ。



「はぁっ、はぁっ、わっ!」



カルマが必死に走り続けていると、沢山の人々が歩き交う交差点に

突っ込んでしまった。



「わっ、痛っ!」



地面に転がり込んだカルマはそのまま沢山の人々に

全身を蹴られてしまう。



「見つけた!」



少し離れた所から、エクエスの声がした。

その方向を見ると、人と人の隙間から満面の笑みで

こちらへ向かってくるエクエスの姿があった。



早く抜け出さないと、はっ!?──────



必死に手足を動かして人の波から逃れようとしていた所に、

いつの間にかエクエスがカルマの真後ろにいた。

その笑顔に隠された恐ろしい瞳の奥を見たカルマは、

一瞬にして抵抗する(すべ)がないと判断した。



また、ダメ、だった。───────



エクエスは慣れた手つきでカルマを口に咥え、人の波から抜けて、

先程まで居た路地へと戻った。

路地に戻ると、エクエスは真剣な顔つきで、こちらを見つめ、



「お前さ、舐めてんだろ。いつもいつも

レグノ様のお手を煩わせやがってよ、、、」



徐々に声を荒げながら、先程まで真剣だった表情も、

少しずつカルマを睨んだ顔つきに変わっていった。


「いい加減にしろよ!!!!」



尖った針のような爪が、カルマの全身を切り裂いていく。



「がぁぁっ!!」



エクエスに切り裂かれながら、カルマは思考を巡らせていた。

まただ、またいつもと同じ状況だ。どれだけ足掻いても足掻いても、

絶対この運命に辿り着いてしまう。

この世はやっぱり、理不尽なんだ。

誰かが幸せになるためには、その分の不幸を誰かが背負わなくちゃいけないんだ。

神様が私に沢山の不幸を被せたんだ。どんなに足掻いても

痛い思いをする運命に仕向けてしまうんだ。


そんな事を考えている内に、意識が朦朧としてきた。



私、きっともう死ぬんだろうな・・・──────


地面に広がる自身の血を全身でしっかりと感じられた。

その他の五感は全く機能しなかったのに、、、

きっと死がすぐそこまで迫ってると体が感じたのだろう。

そんな中、遠くから誰かの声がしたような気がした。



(あっ、やっぱり、ちょっと何やってんのよ!?)



目を開く余裕が無く、ぼんやりとしか見えなかったが、

どうやらその声を発したのは、人間だったようだ。


(あら!見つかってしまったのですね。

それにそろそろいい時間ですわ。早くレグノ様のところに戻らなくては!)


(あっ、ちょっと!どこ行くのよ?!逃げるな!)



その人はエクエスを追おうとしたが、踏み止まって(ふみとどまって)

こちらに歩み寄ってきた。



(大丈夫?動・病院連れ・たら・行こう?)


(何言ってるんだこの人?でも、もうダメだ・・)


カルマの意識はそこで途切れてしまった。












































長くなってすみません。次回は後編です。

カルマを助けてくれたのはいったい何者なのか。

江戸歌本編にどんな関わりが出てくるのか。お楽しみに!

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