第一章エピソード2『干し芋の魔法』
─────あれ?ここは、、、、
気付くと紅葉は、いつもの仕事場にいた。
道の端に布を敷き、大道芸の道具を置いて、その上に椛も立つ形だ。
「おっかしいな?さっきまで寝てたはずなんだけどな」
置いてある商売道具を眺めながらそう言うと、
「何言ってんだい紅葉、さっきまで私たちに素晴らしい大道芸を見せてくれていたじゃないか!」
頭上から男の声がした。よく聞くとその他にも拍手の音が聞こえてくる。
その瞬間に紅葉は察した
─────あぁ、これいつものやつだ。
三年前、つまり大道芸の見物人がいなくなってきたころから、
毎晩紅葉はこの夢を見る。
予想を確認するため顔を上げると、予想通り周りには、
たくさんの見物人が紅葉を囲んで賞賛の拍手を送っていた。
「今日も最高だ!いつもありがとう!」
「明日も楽しみにしてるからね!」
たくさんの老若男女がそんな言葉を紅葉に浴びせてきた。
実際紅葉自身は、この夢に対して昔のことを思い出させてくれる嬉しさを感じていたが、
それと同時に落ち込みの感情も感じていた。
─────あの時はずっと私の大道芸を褒めてもらえることが、喜んでもらえることが嬉しくて
続けてたけど、、、続ける理由が無くなった今、もうやる必要なんてないよね。
花鳥家だってあの時からずっと貧しい暮らしを送ってきた。
あの時はギリギリ財政が保てるぐらいだったけど、最近は食卓に並ぶおかずが減ってきているし、
家の中のものだって少しずつ少なくなっていって、父上と母上が仕事に行く回数も増えて
家族が全員揃う時も最近は半年に一度になった。
「もう頑張る必要なんてないよね」
「それじゃ、いつも通り体中の意識を抜こう」
紅葉は一気に体中に力を入れて立つのをやめ、その場に倒れこんだ
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「はぁぁぁぁぁ」
そんなあくびと共に紅葉は目を覚ました。
季節はすっかり冬で、窓から見える松の木に積もった雪が銀色に輝いて、
いつもより、より一層松の木の魅力を増してくれる。
「起きたくない、、」
紅葉が起きたくなかったのは夢の中で、大道芸をもうやらないことを決意したのもあるが、
それ以前に冬の寒さに耐えられなかったからだ。
少し起き上がろうとしてみると、
「うわさっむ!」
その瞬間に体中を冷気が覆い、椛の体に寒気が襲ってくる。
「うぅ、でもちょっと外を散歩したりご飯を買いに行かないと、、」
仕方なく体を起き上がらせて、寒さに耐えながら出かける支度をした
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「よし、食材も買ったし家に帰ってご飯作ろーっと!」
そう言って人気のない道を一人歩いていると、道端に謎の女性が倒れていた。
「あ、あのー、大丈夫ですか?」
紅葉が呼び掛けても返事をしない。人通りが少ないので、助けてくれる人もいないのだろう
膝をたたんで様子をうかがうと、
どうやら、意識が無いようだった
「あ、あれ!?もしかしてあの世に行っちゃった?」
紅葉があたふたしていると、
「い、生きてます。」
蚊の鳴くような声でついに喋った
「あ、もしかしてお腹空いてます?」
「図星」
「行くところないんですか?」
「図星」
「えっと、干し芋なら持ってるんですけど、どうですか?」
「・・・いいの?」
「はい」
そう言うとその女性は、その場で一気に干し芋をほおばり始めた。
干し芋をすべて食べ終えると、
「行くところがないんだったら、家に来ます?」
「いいの?」
「はい!」
「じゃあ、お願い」
「わかりました。それじゃ、付いてきてください」
紅葉は謎の女性を連れて自分の家への帰路を進んだ




