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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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99/107

#99 世界の果てまで

今日のたぬまりは、完全に自由だった。

夢見亭のシフトはなし。課題も提出済み。誰にも呼ばれていないし、何かをしなければならない理由もない。

だから、何かをしたくなる。

そういう日だった。


セレフィーネの街は、朝の光を浴びて白く輝いていた。

石畳の道は磨かれたように滑らかで、建物の壁も空の色を映して淡く染まっている。

たぬまりは、街の北端にある門を抜け、白い森へと向かった。


森の木々は、葉も幹も白く、まるで雪に覆われたような静けさをまとっていた。

風が吹くと、枝が細かく揺れて、葉の代わりに霧のような粉が舞い上がる。

足元には霜のような苔が広がり、踏むたびにふわりと白い粒が跳ねる。


「……いいね、こういうの」


たぬまりは、魔女の箒を呼び出した。

ふわりと浮かび、森の上空へと滑るように進む。


目的は、ただの気まぐれ。

マップの端から端まで、示された道を無視してどこまで行けるか試してみたい。

敵が強かろうが、道が険しかろうが、関係ない。

行けるところまで行ってみる。それだけだが楽しいのだ。


誰も行かないようなところに宝箱なんかあれば、なおよし。


森を抜けると、白い山が見えてきた。

頂上は雲に隠れ、斜面には雪が積もっている。

箒は高度を上げ、山肌をなぞるように進む。

途中、氷の牙を持つ狼型マモノが吠えていたが、たぬまりは無視して通り過ぎた。


「ふふ、見逃してくれてありがと」


山を越えると、寒そうな地域が広がっていた。

地面は凍りつき、木々は氷柱をまとっている。

空気は薄く、吐く息が白くなる。

遠くに、煙のようなものが見えた。


近づいてみると、それは寒村だった。

小さな家々が並び、屋根には雪が積もっている。

煙突からは細い煙が立ち上り、誰かが暮らしている気配がある。

けれど、村人の姿は見えない。

たぬまりは箒の上から手を振ってみたが、反応はなかった。


「……静かすぎるな」


村を抜けると、平地が広がっていた。

雪は薄くなり、地面には凍った草がちらほら見える。

風が強く、箒が少し揺れる。

遠くに、海が見えてきた。


冷たそうな海だった。

波は静かで、色は深い青。

岸辺には氷の塊が浮かび、時折ぶつかって音を立てている。

海の向こうに、小さな島が見えた。


「……行ってみるか」


たぬまりは箒の向きを変え、海を渡る。

風が強くなり、耳が痛くなるほど冷たい。

それでも、箒は安定して進んでいく。


島に近づいた瞬間、画面にアナウンスが表示された。


【初到達地点:孤島ヴァルメル


「ヴァルメル……?」


たぬまりは、島の岸に降り立った。

足元は石畳で、雪が薄く積もっている。島全体が、要塞のような構造になっていた。


高い壁が巡らされ、塔がいくつも立っている。

けれど、その壁は所々崩れていて、塔も半分が倒れていた。

門は開いているが、誰もいない。


「……なんだここ」


たぬまりは、箒をしまい、ゆっくりと歩き出す。

足音が石に響き、空気が冷たく張り詰めている。

生き物の気配は、まったくない。


壁の隙間から覗くと、広場のような場所があった。

中央には、壊れた噴水があり、水は凍っている。

周囲には、兵舎のような建物が並んでいたが、扉は外れ、窓は割れていた。


「……廃墟か」


たぬまりは、塔のひとつに近づく。

階段は崩れていたが、飛び石のように残っている部分を使って、なんとか上まで登る。

塔の上から見渡すと、島の全体像が見えた。


円形の構造で、中心に広場、周囲に建物、外周に壁と塔。

まるで、戦いのために作られたような設計だった。


「誰もいないのか」


風が吹き、たぬまりの髪が揺れる。

空は灰色で、雪がちらちらと舞っていた。


塔の中には、古びた書棚があった。

本はほとんど朽ちていたが、一冊だけ、表紙が残っているものがあった。


たぬまりは、それをそっと開いた。

中には、地図のようなものと、いくつかの記号が描かれていた。

言語は読めなかったが、島の構造と一致しているようだった。


「……何か、あったんだな」


たぬまりは、塔を降り、広場に戻る。風が止み、雪が静かに積もっていく。


箒を呼び出し、空へと舞い上がる。

振り返ると、島は静かに海に浮かんでいた。


「さて、次はどっちに行くか」


たぬまりはマップを開いて指でなぞる。まだ行ってない場所が、いくつもある。

目的地はない。ルートも決めていない。ただ、行けるところまで行ってみるのだ。


箒が風を切る。たぬまりは、方向だけ決めて加速した。


ログアウトする気は、まだない。

マップの隅々まで探索するのが趣味です。ランダムポップしたアイテムも見えるところは全部拾います。

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― 新着の感想 ―
たぬまり「私、なんかやっちゃいました?」な案件になりそうな予感が
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