#98 秋の収穫祭
朝から厨房にはツバキの姿があった。
ゲーム内の夢見亭は、いつもと少し違う空気に包まれていた。
ホールでは、私たちメイドとお客さんが待機していて、ツバキに呼ばれれば料理の仕上げを手伝ったり、完成した皿を運んだりしている。
厨房からは、ずっと香ばしい匂いが漂っていて、ホールの空気は期待と空腹で満ちていた。
テーブルの配置もいつもとは違っていた。
中央には、職人のスキルで保温効果が付与された特製の大テーブルが鎮座している。
温かい料理は冷めず、冷たいものはそのままの温度を保つという、まさに収穫祭のための舞台装置。
そのテーブルに、次々と料理が並べられていく。
「もう、ずっといい匂いしてるのに……」
誰かがぼそりと呟く。
私も同じ気持ちだった。
目の前に並ぶ料理は、どれもこれも美味しそうで、見ているだけでお腹が鳴りそうになる。
そして、ついにツバキが最後の皿を運んできた。
店長が立ち上がり、声を張る。
「皆さん、お待たせしました! 本日、夢見亭秋の収穫祭――スペシャルビュッフェ、開幕です!」
拍手が起こり、ホールが一気に華やぐ。
私たちは一斉にテーブルへと視線を向けた。
そこには、まるで秋の魔法がかかったような世界が広がっていた。
ハロウィンをテーマにしたスイーツたちが、テーブルの一角を彩っている。
ジャック・オ・ランタンの笑顔が並び、黒猫やコウモリの飾りがチョコレートケーキやクッキーを囲んでいる。
蜘蛛の巣模様のケーキは、濃厚なチョコレートとベリーの酸味が絶妙に絡み合いそうだ。
かぼちゃ型のクッキーは、サクサクとした食感が想像できるし、紫芋のモンブランは、見た目も味も秋そのもの。
グラスに盛られたパフェには、魔女の帽子を模したトッピングが乗っていて、遊び心も満点だった。
中央には、山のように積まれた蟹の脚が堂々と鎮座している。
その周囲には、香草で巻かれた肉のロール、きのこを添えたグリル、衣をまとったジューシーなカツレツが美しく並べられていた。
陶器の器には、煮込み料理やスープが湯気を立てていて、サラダにはカラフルな野菜がぎっしりと詰まっている。
どれもが、見た目にも香りにも食欲を刺激してくる。
赤いトレイには、カリッと揚がったチキン、黄金色のフライドポテト、角切りチーズ、そして数種のディップソース。
オレンジ色の器には、焼きたてのグラタンが湯気を立て、白い皿にはしっとりとしたパウンドケーキが並んでいる。
木のボードには、スライスされたパンとディップ、別のボードにはポテトと野菜の炒め物。
小鉢には、紫キャベツとブルーベリーのサラダ、にんじんのラペ、きのこ入りの温野菜。
デザートコーナーは、まるで果物とスイーツの宝石箱だった。
木の台に乗ったフルーツタルトには、ぶどうやベリーがぎっしりと詰まり、緑茶のケーキには苺とブルーベリーが彩りを添えている。
小さなグラスには、層になったプリンやムースが並び、ナッツを散らした焼き菓子が赤い器にぎっしり。
チョコレートでコーティングされた串菓子、マカロン、チョコソースがかかったクレープ。
どれもが秋の実りを感じさせる色合いで、見ているだけで心が満たされるようだった。
テーブルのあちこちには、ミニかぼちゃや木の実が飾られていて、まるで森の中の祝祭のような温かみがあった。
料理の間を縫うように、秋の葉が散らされ、ハーブの香りがふわりと漂ってくる。
「どれもこれも、美味しすぎる……」
目の前に広がる料理の数々は、ただの食事ではなく、秋という季節そのものだった。
ツバキは腕を組みながら満足げにテーブルを見渡している。
その表情には、料理人としての誇りと、みんなに喜んでもらいたいという気持ちが滲んでいた。
「さぁ、食べよう!」
店長の一声で、収穫祭は本格的に始まった。
私たちは、皿を手に取り、テーブルへと向かう。
どれを選ぶか迷うほどの料理の数々。
一口ごとに、秋の味覚が広がっていく。
夢見亭の秋は、こうして始まった。
香りと彩りと、笑顔に包まれた一日。
それは、記憶に残る収穫の宴だった。
中身がオレンジのさつまいもはハロウィンスウィートって品種です。お芋を炊飯器で蒸していつも食べるんですが、あまり甘くないさつまいもに当たりまして、バターを乗せてはちみつをかけて長男に提供したところ、大好評でした。




