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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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91/107

#90 レスキュー!

セレフィーネの街は、今日も静かだった。

白い石造りの建物が並ぶ通りは、観光地らしい整った美しさを保ちながらも、どこか人の気配が薄く、時間の流れが緩やかに感じられる。

たぬまりは、石畳を踏みしめながら、ゆっくりと歩いていた。

風は穏やかで、空は高く、遠くの尖塔が陽光を受けて淡く輝いている。


街の喧騒はなく、聞こえるのは足音と、時折すれ違うプレイヤーの挨拶だけ。

そんな中、ふと耳に届いたのは、歌だった。

遠くから、かすかに流れてくる旋律。

澄んだ声が、風に乗って漂ってくる。


たぬまりは、足を止めた。

歌の方向を探るように、耳を澄ませる。

旋律は、どこか悲しげで、けれど美しい。

誘われるように、たぬまりはその音の方へ歩き出した。


通りを抜け、階段を上がると、視界が開けた。

そこには、白い神殿があった。

開放的な造りで、柱が天へ向かって伸び、屋根はなく、空がそのまま天井になっている。

床は磨かれた白石で、陽光を受けて淡く光っていた。

柱の間には布が垂れ下がり、風に揺れている。

その布も白で、まるで雲の切れ端のようだった。


神殿の中心には祭壇があり、周囲には誰もいない。

歌声は、ここから響いているように感じられた。

けれど、耳を澄ませると、どうも違う。

音の反響が不思議なだけで、発信源は神殿の外のようだった。


たぬまりは、神殿の裏手へと回り込んだ。

白い石の壁を抜けると、そこには森が広がっていた。

木々はすべて白く、幹も枝も、葉までもが淡い銀白色に染まっている。

光を受けて、葉がきらきらと輝き、風が吹くたびにささやくような音を立てる。

地面には白い苔が広がり、足音を吸い込んでしまうほど柔らかい。


白い森。

その言葉が、自然と浮かんだ。

神秘的で、静かで、どこか現実離れしている。

たぬまりは、木々の間を抜けながら、歌声を追った。


やがて、森の奥に湖が現れた。

水面は鏡のように静かで、周囲の白い木々と空を映していた。

湖の縁には白い石が並び、まるで誰かが意図的に整えたような美しさがあった。


その湖の中央、浅瀬に浮かぶ岩の上に、ひとりの人物がいた。

長い髪が水に垂れ、尾ひれが揺れている。

人魚の姿。

けれど、近づいてみると、プレイヤーのようだった。


歌声は、その人魚から発せられていた。

旋律は美しく、けれど言葉に耳を傾けると、内容がはっきりと聞こえてきた。


「たすけて……」「出られない……」「ヘルプミー……」「ふえぇ……」


たぬまりは、思わず眉をひそめた。

悲しい歌だと思っていたが、これはSOSだった。


「……めっちゃ困ってるじゃん」


湖の縁まで歩き、声をかける。


「ねえ、だいじょうぶ?」


人魚のプレイヤーは、驚いたように顔を上げた。

瞳は潤んでいて、頬は少し赤い。


「……見つけてくれた……!」


「うん、歌が聞こえたから。ここ、どうしたの?」


「移動魔法使ったら……湖から出られなくなっちゃって……使い捨てのやつだったから完全に詰んでてぇ……」


たぬまりは、湖を見渡した。

確かに、周囲は森に囲まれていて、飛行も制限されているようだった。

水の中から陸に上がるには、尾ひれのままでは難しそうだ。


「魔女の箒、乗れる?」

「えっ、乗れるの?」

「試してみよっか」


たぬまりは、図鑑を開いて魔女の箒を呼び出した。

黒い柄に銀の装飾が施された箒が、ふわりと浮かび上がる。

人魚のプレイヤーは、恐る恐る近づき、尾ひれを巻きながら乗り込んだ。


「……乗れた!自分、いけます!!!」

「じゃあ、海でいい?近くにあるはず」


箒が浮かび上がり、湖の上を滑るように進む。

風が髪を揺らし、白い森が後ろへ流れていく。

人魚のプレイヤーは、たぬまりの背にしがみつきながら、ぽつりと呟いた。


「ありがとう……ほんとに動けなくてぇ……助かった!歌ってて良かった〜!!」


「歌、きれいだったよ。悲しかったけど、ちゃんと届いた」


「うれしい……あ、なんか歌のスキルも生えたわ……」


森を抜けると、視界が開けた。

白い崖の向こうに、青い海が広がっている。

波が穏やかに打ち寄せ、空と海の境界が曖昧になっていた。


箒は、崖の縁に降り立った。

人魚のプレイヤーは、尾ひれを揺らしながら、海へと滑り降りる。


「ここなら、戻れる?」

「うん、ここなら大丈夫。ありがとう、ほんとに」


たぬまりは、箒に腰を下ろしたまま、手を振った。


「歌ってたらまた会えるかも」

「じゃ、そのときは、もっと楽しい歌にするね!」


人魚のプレイヤーは、海へと潜っていった。

水面が揺れ、やがて静かになった。


たぬまりは、空を見上げた。

セレフィーネの空は、今日も高く、白い街と青い海を包み込んでいた。

風が頬を撫で、遠くで鐘の音が鳴ったような気がした。


「さて、戻ろうかな」


箒がふわりと浮かび上がり、たぬまりは白い森を背に、街へと向かって飛び立った。

静かな観光地の空に、ひとすじの軌跡が描かれていく。

高校生か中学生くらいの頃、始めたばかりのメイプルストーリーでどこまでマップを進めるのか試した結果帰れなくなり、最初のマップにワープしたくても所持金が足りず(よく覚えていませんがお金がかかるシステムだった気がする)、上級者に助けてもらったことがあります。


あのときの恩は忘れていません

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