#9 野草ハンター
夢見亭の昼下がり。たぬまりが広げたマモノ図鑑に、みんなの視線が集まる。
「えっ、ミズノハまで行けた!?」
「コケリノ初めて見た!」
こまちや店長が驚きの声を上げる中、たぬまりはふふんと鼻を鳴らしてドヤ顔を決める。
「図鑑、育ててるから」
そんなとき、厨房からツバキが顔を出す。
「たぬまり、あんたが持ってきた野草、ちょっと試してみようと思うんだけど……見るか?」
「見る!」
たぬまりはツバキの後ろをついて厨房へ。
調理台には、たぬまりが採ってきた野草が並んでいた。
• ホウル草:ほうれん草に似た、深緑色の葉。加熱すると甘みが増す。
• シロネ根:大根に似た白い根菜。ほんのり辛味があり、煮るととろける。
• ミミカケ茸:耳のような形をした小型のきのこ。香りがよく、出汁に向く。
• アマツルの実:小粒の赤い果実。甘酸っぱく、アクセントに使える。
「これ全部自分で見分けて採ったの、すごいじゃないか」
「……まあ、食べるものに困った時に、図書室で野草の本を借りて、見ながら土手とかで採集したことあるから」
たぬまりは少しだけ目を伏せる。
けれど、ツバキはその空気を吹き飛ばすように、調理を始めた。
「よし、今日は“たぬまり採集プレート”でいくよ。見てな」
• ホウル草とミミカケ茸のクリーム煮
• シロネ根の香草ロースト
• アマツルの実のハーブサラダ
• 夢見花の蜜ゼリー(おまけ)
「完成。試食と行こうじゃないか」
みんなが厨房に集まり、皿を手に取る。
たぬまりは、ひと口食べて目を見開いた。
「うまっ」
こまちは「たぬまりちゃん、採集の天才かも!」と騒ぎ、
店長は「これ、定番メニューにしてもいいな」と頷いた。
食後、たぬまりはふらりと店を出る。
「ちょっと、散歩してくる」
はじまりの街。初心者向けの穏やかな街並み。
石畳の道を歩くと、パン屋から香ばしい匂いが漂ってくる。
「焼きたてだ……」と、たぬまりは鼻をくすぐられながら通り過ぎる。
その先には、色とりどりの花が並ぶ花屋。
夢見花に似た淡紫の花や、ふわふわした白い花が風に揺れている。
「きれい」
ふと、路地の角で小さな鳥が跳ねていた。
灰茶色の羽に、ちょんちょんとした動き。どこにでもいそうな、でもよく見るとちょっと違う。
たぬまりはしゃがみ込み、じっと観察する。
図鑑がふわりと光る。
【マモノ登録完了:街雀】
■登録マモノ:スズリル
種族:小型鳥
属性:風/街
特徴:街中に溶け込むように暮らす小型マモノ。見た目は普通の雀に近い。
生態:人の暮らしに寄り添い、パンくずや花の蜜を好む。
性格:好奇心旺盛で、時々人の後をついてくる。
保有スキル:
《街馴れ》/《ちょんちょん跳び》/《パンくず探し》
コメント:かわいい。ちょんちょんしてる。パン屋の前にいる。
たぬまりは図鑑を閉じ、さらに街を歩く。
カフェのテラス、図書館の前庭、橋の上——そして、古い井戸のそばで何かが動いた。
「……あれも、マモノ?」
しゃがんで観察すると、図鑑が再び光る。
【マモノ登録完了:井戸蛙】
■登録マモノ:ポチャガエル
種族:水棲型
属性:水/街
特徴:古井戸や排水路に住む小型のカエル型マモノ。
生態:水辺に潜み、虫や落ち葉を食べる。
性格:のんびりしていて、動きは鈍いが警戒心は強い。
保有スキル:
《水潜り》/《ぬるぬる皮膚》/《静観》
コメント:地味だけど、見つけると嬉しい。ぬるっとしてる。
さらに、街の外れの倉庫裏。
積まれた木箱の隙間から、何かがのぞいていた。
【マモノ登録完了:箱鼠】
■登録マモノ:ハコネズ
種族:小型獣
属性:無/街
特徴:倉庫や物陰に潜むネズミ型マモノ。見た目は普通の野ネズミに近い。
生態:人の生活圏に紛れ込み、紙くずや穀物を好む。
性格:臆病で素早く逃げるが、好奇心は強い。
保有スキル:
《物陰潜伏》/《紙くず収集》/《すばしっこさ》
コメント:どこにでもいるけど、ちゃんとマモノ。かわいくはない。
【マモノ図鑑:登録数10種に到達しました】
【新機能解放:マモノ感知】
たぬまりは、図鑑のページを見つめる。
ふと、ページの端に新たな項目が浮かび上がる。
「……マモノ感知? これ、使えるのかも」
そして——
路地裏の奥に、気になる影が見えた。
「……ん?なんかある?」
たぬまりは、そっと足を踏み入れる。




