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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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89/107

#88 ビジュが良い

ログインの瞬間、たぬまりは思わず深呼吸した。

画面越しに感じる空気が、どこか澄んでいるように思えた。

風邪で寝込んでいた数日が嘘のように、身体は軽く、視界は明るい。

今日は、ただ歩くだけにしよう。

戦闘も任務もなし。

ただ、白い遺跡の街を、ゆっくりと見て回る。


門をくぐった瞬間、空気が変わった。

街の名はセレフィーネ。

その白――それは色というより、空間そのものを包み込む静けさだった。

石畳も、建物の壁も、尖塔の屋根も、すべてが白。

ただの塗装ではない。

陽光を柔らかく反射するその白は、まるで雪のように冷たく、雲のように軽やかだった。


街の中心にそびえる大聖堂は、彫刻のような繊細さを持ちながら、圧倒的な存在感を放っていた。

塔の先端は空に溶け込むように霞み、窓枠の縁には細かな文様が刻まれている。

それらすべてが白一色で統一されているにもかかわらず、陰影によって立体感が際立ち、まるで時間が止まったような静謐さが漂っていた。


たぬまりは、石畳を踏みしめながら歩いた。

靴音が、白い壁に吸い込まれていくように静かだった。

少し歩くと、露店通りに差し掛かる。

プレイヤーが自由に店を出せるエリアだ。

並ぶ店はぽつぽつと点在していて、賑わっているわけではない。

それが、ちょうどよかった。


ユメノネの露店通りを思い出す。

始まりの街だけあって、露店の数も客の数も多く、あまりの人通りに圧倒されて、たぬまりは入っていけなかった。

特に欲しいものがあるわけでもなかったし、その熱量に乗る気にもなれなかった。

でも、セレフィーネの露店通りは違う。

静かで、余白があって、歩いているだけで楽しい。


青い植物だけを扱う店。

白い服しか置いていない店。

香ばしい匂いが漂う食べ物屋。

どれも個性的で、見ているだけで面白い。


その中で、たぬまりの目を引いたのは、ひときわ異彩を放つ一軒だった。

【魔法少女店】と書かれた看板。

夜空のような濃紺の天幕が揺れている。

中に入ると、そこはまるで別世界だった。


魔法少女が持っていそうな杖をモチーフにしたアクセサリー。

天使の羽のようなの髪飾り、リボンのついたイヤーカフ、きらきらと光るブローチ。

棚には、魔法少女の世界観をそのまま閉じ込めたような雑貨が並んでいた。

どれもこれも、可愛い。


ふと、店主らしき女性と目が合った。

いや、入った瞬間から、じっと見つめられていた気がする。

目が合った途端、彼女は「はわわわわわ!!か、かわ!!!魔女ちゃん!ひっ」と叫び、目が合った事実に耐えられずに顔を隠した。


その反応に、たぬまりはくすりと笑った。

いたずら心がむくむくと湧いてくる。

そっとカウンターに近づき、頬杖をついて、店主が顔を上げるのを待つことにした。


しばらくして、気配に気づいた店主がそろりと顔を上げる。

その瞬間、彼女の顔は真っ赤になり、「ぎゃ!ビジュが良すぎる……!」と呟いて、後ろにぶっ倒れた。


「……やりすぎたかも」


たぬまりは、棚の雑貨を眺めながら、店主が戻ってくるのを待った。

星の形をしたペンダント。

月の模様が浮かぶヘアピン。

ハート型の宝石に羽の生えたステッキ。

どれも、魔法少女の世界から抜け出してきたようなデザインだった。


やがて、店主が戻ってきた。

たぬまりは、軽く頭を下げて言った。


「遊びすぎた。ごめんね」


店主は慌てて手を振りながら、「大丈夫です!」と答える。

そして、何かを思いついたように、目を輝かせて言った。


「あの、魔法少女ものアニメの衣装をゲーム内で再現したんですけど、良ければモデルになってもらえませんか……!」


たぬまりは、少しだけ考えてから、頷いた。

まぁ、それくらいならいいか。


すると、店主はとんでもない量の衣装を次々と取り出し始めた。

ピンクのフリルがついたワンピース。

星の刺繍が施されたケープ。

羽根のような装飾がついたブーツ。

どれも、細部までこだわり抜かれていた。


……そして、思っていたよりもだいぶ量が多い。


店主はヘアメイク魔法を使えるらしく、髪型や髪色まで自由自在に変えていく。

たぬまりの髪がふわりと揺れ、淡いラベンダー色に染まったかと思えば、次の瞬間にはピンク色のツインテールに変わっていた。


「これもいい……!こっちも似合う!これも最高!!」


店主は大興奮しながらスクショを撮っては着替えさせ、忙しく動き回る。

たぬまりはされるがまま。

言われたとおりにポーズをとり、知っている作品の衣装ではセリフ付きで再現する大サービス付き。

そのたびに、店主は「はぎゃああああ!!」と叫びながら床に崩れ落ちた。


「……また倒れた。面白すぎる」


たぬまりは、鏡の前でくるりと回ってみる。

スカートの裾がふわりと広がり、光を受けてきらめいた。

魔法少女の衣装は、着てみると意外と動きやすい。戦えそうだ。

そして、何より楽しいね。


店主は、床から這い上がりながら言った。


「ほんとに……ほんとにありがとうございます……!スクショ、宝物にします……!」

「そんなに喜んでくれるなら嬉しい」


たぬまりは笑いながら、元の姿に戻してもらった。

髪色も、服装も、いつものたぬまりに。

でも、心の中には、魔法少女のきらめきが少しだけ残っていた。


店を出ると、セレフィーネの空は淡く染まり始めていた。

白い街が、夕暮れの光を受けて、ほんのりと桃色に染まっている。

石畳が、柔らかく光を返し、尖塔の影が長く伸びていた。


たぬまりは、そっと息を吐いた。

今日は、ただ歩いて、遊んで、笑った。


「今度はもうちょっとお店の物見せてもらおう」


そう呟いて、たぬまりは街の奥へと歩き出した。

白い遺跡の街セレフィーネは、静かにその背中を見送っていた。

子が体調を崩して看病していたら1日投稿をスキップしていました……!前回の話がフラグになるとは……。


この間、初めて「今日ビジュいいじゃん♪」って歌詞の曲を聴いたんですけど、なんかそのフレーズが頭から離れなくなってしまいました。

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― 新着の感想 ―
フラグ管理お大事に。 ゲームだろうと漫画だろうと突然フラグが襲ってくる…。
お子さんお大事に。うちは祖母です
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