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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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87/107

#86 白

白い遺跡の門前、風は止み、空気が張り詰めていた。

レムストーンは、まるで街の守護者のように静かに立っている。

その巨体は白い石で構成され、関節の継ぎ目がわずかに脈打っていた。

たぬまりたちは、すでに陣形を整えていた。

誰も言葉を発しない。

それぞれが、自分の役割を理解していた。


妖精女王がふわりと浮かび、指先を軽く振る。

淡い光が花びらのように舞い、仲間たちの身体に降り注ぐ。

魔力の膜が肌に触れるたび、心が落ち着いていく。

「さあ、可愛い子たち。行ってらっしゃい♡」


その声を合図に、ひがちーが狼たちと共に駆け出した。

地面を蹴る音が連なり、白い砂を巻き上げる。

召喚された狼たちは、しなやかに走りながら、レムストーンの周囲を囲むように動く。

ひがちーは低く構え、魔力の糸を操っていた。


レムストーンが、ゆっくりと首を巡らせる。

無機質な光が、ひがちーたちを捉えた瞬間、足を振り上げる。

地面が震え、白い破片が飛び散る。

だが、狼たちはすでに動いていた。

一匹が囮となり、もう一匹が背後へ回り込む。

ひがちーはその隙に、魔力の刃を放った。


ツバキは鍋を抱えて前に出る。

お玉を構え、飛んできた石片を弾き返す。

鍋の中からは、湯気と共に香ばしい匂いが漂っていた。

「こっちは任せろ!」


彼女の動きは重く、しかし無駄がない。

一歩踏み出すたびに、地面がしっかりと受け止める。

鍋の縁で攻撃を受け止め、お玉で反撃する。

その姿は、まるで戦場の料理人だった。


こまちは後方で、くま精霊に小さく囁いていた。

ふわりと現れた精霊が、回復ポーションを抱えて宙を舞う。

こまちはそれを受け取り、仲間の動きを見ながらタイミングを計る。

「今……!」


ポーションが放たれ、ひがちーの肩に触れる。

傷がふわりと癒え、動きが滑らかになる。


たぬまりは、図鑑を開いて魔力を流し込んでいた。

リリが膝の上でぬるりと動き、ルルはチョーカーの上で光っている。

たぬまりの指先から、淡い光が仲間たちへと広がる。

バフの魔力が、身体の芯に染み渡るように伝わっていく。


「もう一度!」


こまちの声に応じて、たぬまりは魔力を重ねる。

光が重なり、仲間たちの動きがさらに鋭くなる。

ツバキの鍋が唸り、ひがちーの狼たちが吠える。

レムストーンの足が、わずかに揺らいだ。


そして、静かに一歩を踏み出した。

その足が地面に触れた瞬間、光が広がる。

白い砂が舞い、空気が震える。

レムストーンの身体が、淡く光りながら崩れていく。

石の塊が、音もなく地面に吸い込まれるように消えていった。


誰も声を出さなかった。

ただ、風が戻ってきた。

白い門の向こうに、街の姿が見えていた。


たぬまりは、そっと一歩踏み出す。

リリが「リリ……」と鳴き、ルルがふよふよと揺れる。

こまちがポーションの瓶をしまい、ツバキが鍋の蓋を閉じる。

ひがちーは狼たちに合図を送り、妖精女王は満足げに微笑んでいた。


白い遺跡の街は、静かに広がっていた。

建物はすべて白い石でできていて、角は柔らかく丸みを帯びている。

壁には細かな彫刻が施されていて、光が当たると模様が浮かび上がる。

道は広く、足元の石は磨かれていて、歩くたびに靴音が響く。


空は高く、雲は薄く、風は穏やかだった。

街の中心には、白い塔がそびえている。

その頂には、鐘のようなものが見えた。

音はしない。

けれど、そこにあるだけで、街の静けさが際立っていた。


「……綺麗」


たぬまりが呟くと、リリが「リリ……」と鳴いた。

ルルは、チョーカーの上で光を反射していた。


こまちが壁の彫刻に触れながら言う。

「これ、魔力の流れを記録してるみたい。古いけど、まだ生きてる」


ツバキは建物の構造を見上げていた。

「風の通りが計算されてる。暑くないし、寒くもない。すごいな」


ひがちーは塔の方を見ながら、狼たちに指示を出していた。

妖精女王は、白い石の縁に腰を下ろし、ふよふよと揺れながら空を見上げている。


たぬまりは、街の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

魔力の流れが、肌に触れる。

それは、優しくて、静かで、どこか懐かしいものだった。


「ここが、次の場所なんだね」


誰も答えなかった。

けれど、その沈黙が、肯定のように感じられた。


白い遺跡の街は、たぬまりたちを迎えていた。

風が吹き、光が揺れ、空が広がっていた。

新しい物語が、ここから始まる。

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