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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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#84 白い巨人

白い風景の中、たぬまりは静かに息を整えていた。

先ほどの騒動で、心臓がまだ少しだけ早く打っている。

リリは服の内側でぬるりと動き、たぬまりの体温に寄り添うように落ち着いている。

風は止み、空気は乾いていた。

目の前には、白い石の塊がゆっくりと動いている。


それは、まるで遺跡の一部が意志を持って立ち上がったような存在だった。

四肢は太く、関節は石板のように重なり合い、歩くたびに地面が震える。

頭部らしき部分には目はなく、代わりに淡い光が脈打っていた。

たぬまりは、木陰からその様子をじっと見つめる。


「……ゴーレム、みたいなやつだね」


声は小さく、誰にも聞こえないように。

リリが「リリ……」と鳴いた。

触手がそっと袖から顔を出し、たぬまりの腕に巻きつく。

その動きは、警戒と安心の混ざったものだった。


たぬまりは、図鑑の記録を思い出す。

この先に進むには、あれをどうにかしないといけない。

でも、正面からぶつかるのは無理だ。

普段のたぬまりは、戦闘向きではない構成なのだ。


「……じゃあ、コンボ技、使うしかないか」


たぬまりは、腰のポーチから小さなマモノ図鑑を取り出す。

表紙を撫でると、ふよふよと浮かび上がり、淡い光を放った。

登録されているマモノたちの名前が並ぶ。

その中から、たぬまりは三体を選んだ。


まずは、モフポン。

もちもちした球状の体にうさぎ耳。

幻影が地面にぺたんと座っていたが、たぬまりの呼びかけに反応してぽよんと跳ねた。


「モフポン、ちょっとだけ借りるね」


たぬまりは助走をつけて、モフポンの《ぽよんジャンプ》を発動。

足元の弾力を利用して、空へと跳び上がり、ゴーレムに一発蹴りをかます。

ダメージはあまり入っていないと思うが強制的にノックバックさせる。

蹴りの勢いでさらに高く飛び上がり、視界が一気に広がる。


そのまま、空中でノットの名前を呼ぶ。

輪郭の揺れる妖精が、笑いながら現れる。

「いくよ、ノット。ちょっとだけ、跳ばせて」


ノットは「ふふっ」と笑い、たぬまりの足元に幻影の跳躍を展開する。

《幻影跳び》が発動。

たぬまりの姿が一瞬だけ消え、次の瞬間には近くの木の上に移動していた。


枝がしなる。

葉が揺れる。

たぬまりは、息を整えながら、周囲を見渡す。


「……ここなら、見つからないはず」


念のため、クロミルの《気配消し》も借りておく。

黒く細い猫型のマモノが、影のように現れては消える。

その爪が、たぬまりの足元に触れた瞬間、気配がふっと薄れた。


木の葉の陰に身を潜めながら、たぬまりは下を見た。

ゴーレムのようなボスマモノが、キョロキョロと周囲を見回している。

だが、たぬまりの姿は見つけられないようだ。

しばらくすると、ボスマモノは定位置らしき場所に戻り、じっと動かなくなった。


「……ふぅ」


たぬまりは、枝に腰を下ろし、図鑑を開いた。

ふよふよと浮かぶ図鑑が、ボスマモノの登録を開始する。

淡い光が広がり、詳細が表示された。


---


■登録マモノ:レムストーン

種族:構造獣

属性:地/守護


特徴:白い石材で構成された大型の四足型マモノ。関節は板状で、動くたびに地面が震える。

生態:遺跡周辺に定住し、侵入者を排除するように設計された防衛型マモノ。活動範囲は限定されている。

性格:無感情で忠実。命令に従い、侵入者を自動的に敵と認識する。

保有スキル:

《震脚》:地面を踏み鳴らし、周囲に衝撃波を発生させる。範囲内の対象に転倒効果。

《石盾展開》:体表の石板を展開し、物理攻撃を遮断する。防御力が高く、持続時間も長い。

《定点監視》:一定範囲内の動体を感知し、記録・追跡する。感知範囲は広いが、遮蔽物には弱い。

コメント:硬そう。重そう。でも、動きは意外と速い。


---


たぬまりは、図鑑の表示を眺めながら、枝に背を預けた。

「……倒さなきゃ通れないなら、手助けしてもらわないとダメだなぁ」


リリが「リリ……」と鳴いた。

触手が、たぬまりの肩にそっと巻きつく。

その動きは、まるで「帰ろう」と言っているようだった。


たぬまりは、銀の鍵を取り出す。

図鑑の背表紙に差し込むと、光が広がり、空間がゆらめいた。

風が巻き起こり、葉が舞う。


「じゃあ、また来るね」


そう言って、たぬまりは夢見亭へと帰還した。

白い風景は、鍵の光に包まれて、ゆっくりと遠ざかっていった。



たぬまりが夢見亭に戻ったのは、午後の光が店内を柔らかく染める頃だった。

銀の鍵の転移は、いつも少しだけ体力を奪う。

椅子に腰を下ろすと、リリが「リリ……」と鳴いて、たぬまりの腕に触手を巻きつけた。

その動きは、まるで「おつかれさま」と言っているようだった。


「ただいま」


誰にともなく呟くと、こまちがカウンターの奥から顔を出した。


「おかえり。……なんか、疲れてるみたいだね?」

「ちょっとね。外でゴーレムみたいなのに遭遇して、逃げてきた」

「えっ、戦ったの?」

「ううん。逃げコンボで逃げてきた。」

「逃げコンボ……?」


こまちは目を丸くして、紅茶のカップを差し出す。


「それは……お疲れさまだね。リリちゃん、ちゃんと守ってくれた?」

「うん。ナンパ男の手も叩き落としてくれたし、ボスの前でもちゃんと反応してくれた。頼もしいよ」


こまちはわなわな震えている。他の常連客もガタガタと立ち上がる。


「な、ナンパ!?」

「許すまじ!」

「……たぬまりちゃんが、ナンパ男に触られそうになった……?許さない許さない許さない……」


こまちの目のハイライトが消えてぶつぶつと言いだしたのを見て、リリは「リリ……」と鳴いて、たぬまりの膝の上でぬるりと動いた。

虹色の膜が、店内の光を受けてきらめく。


ツバキが厨房から顔を出す。

「ゴーレムって、あの白いやつか? 遺跡の手前にいるって噂の」

「そう。レム=ストーンって名前だった。図鑑に登録されたよ」

「通るには倒さなきゃいけない感じ?」

「たぶんね。でも、今の構成じゃ無理。だから、帰ってきた」


ツバキは頷いて、手を拭いてからこちらにやってくる。


「じゃあ、準備するか。アタシもこまちも遺跡の街には行ってないから同行したい」


たぬまりは、紅茶を一口飲んで、図鑑を開いた。

レムストーンのページが表示される。


白い石の構造、震脚、石盾展開、定点監視。

防御型で、感知範囲が広い。でも、遮蔽物には弱い。


「……うまく誘導できれば、倒せるかな?」


落ち着いたこまちがたぬまりの隣に座りながら、図鑑を覗き込む。いつもより距離が近い。


「モフポンのジャンプ、もうちょっと強化できないかな。跳ねる力を使って、衝撃を与えるとか」

「マモノ図鑑の力を強化?それ面白いかも」

「上手いことやればできそうじゃない?」

「たしかに。あとは本職の戦闘職も欲しいな……」


ツバキが紅茶をぐっと呷って言う。

「遠征組が帰ってくるぞ。手伝ってもらうか?」

「それなら……ちゃんと戦い方教えてもらいたいかも」


こまちが微笑む。

「じゃあ、みんなで考えよう。次の街に行くために、準備を整えて、作戦を練って」


たぬまりは、図鑑を閉じて、カップを置いた。

「うん。次は、ちゃんと準備して、リリにも負担をかけないように」


リリは「リリ……」と鳴いて、たぬまりの胸元にぴたっと張り付いた。

その動きは、まるで「任せて」と言っているようだった。

ちょっとルルのことを考えていたのでリリとルルを混同している箇所がありました。失礼しました!

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― 新着の感想 ―
こまちxたぬまり……ハッ!薄い本と厚い本が完成する! リリxたぬまりxこまちも良さそう!
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