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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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#80 お茶会(仮)

夢見亭の奥の部屋には、布地とリボンと魔力糸が溢れていた。 こまちが仕立てたドレスは、どれも魔女のお茶会にふさわしい華やかさを備えていて、選ぶどころか、見ているだけで目が回りそうだった。


「たぬまりちゃん、どれがいいと思う?」


こまちはメジャーを首にかけたまま、真剣な顔でドレスの山を見つめている。


「銀の魔女としての初登場なんだから、完璧じゃないと……でも、完璧が何着もあるのが問題なのよ……!」

「じゃあ、何着か着てみる……?」

「それだ!!」


こまちの目が輝いた。


「夢見亭魔女ドレスコレクション、開幕!」


ツバキが厨房から顔を出した。


「なになに?ファッションショー?やるならステージ作るか!」

「厨房のテーブルは使っちゃダメだからね!」

「じゃあ、カーペット敷いてランウェイにしよう!」


常連たちも集まってきて、夢見亭の一角が即席のステージに変わった。 たぬまりは、こまちの手によって次々とドレスに着替えさせられ、ランウェイを歩くことになった。


一着目。 夜空を閉じ込めたようなドレスだった。肩を露わにしたストラップレスのデザインは、胸元から腰にかけてぴたりと沿うように仕立てられており、繊細なビーズやスパンコールが散りばめられている。その輝きは、星々が瞬くように色とりどりに煌めき、動くたびに光を受けて表情を変えた。 スカートは床まで届く長さで、透け感のあるネイビーのシフォンが幾重にも重なっている。歩くたびに風を孕み、まるで夜の海が揺れているようだった。手には小ぶりな銀のクラッチバッグを携え、全体の印象にさりげない気品を添えている。 華やかさと静けさが同居するその姿は、まるで銀の魔女が現代に舞い降りたかのようだった。


二着目。 闇と光が戯れるような黒のドレスだった。胸元は甘く曲線を描くスウィートハートネックラインで、ボディラインに沿ったシルエットが凛とした印象を与える。肩と袖には繊細なレースが重ねられ、肌を透かしながらも、どこか儚げな魔力を感じさせた。 スカートは前が短く、後ろに向かって流れるように長くなるハイロー仕様。軽やかなチュールが幾重にも重なり、歩くたびにふわりと揺れる。まるで夜の風を纏っているかのようだった。足元には銀のポインテッドトゥヒールがきらりと光り、全体の装いに鋭いアクセントを添えている。 この一着は、ただの衣装ではない。夜の宴に現れる魔女のように、見る者の記憶に残る存在感を放っていた。


三着目。 そのドレスは、まるで空の境界をなぞるような色彩を纏っていた。肩を覆わないスリーブレスのデザインは、すっきりとしたハルターネックで首元を美しく引き立て、胸元から腰にかけては柔らかく身体に沿うライン。ウエストにはさりげない装飾が施されており、光の角度によってきらりと控えめに輝く。 最大の特徴は、布地に施されたグラデーション。上部は淡いピーチ色から始まり、裾に向かって深いティールブルーへと移り変わっていく。その色の流れは、夕暮れから夜明けへと移る空のようで、見る者の心に静かな余韻を残す。 素材は軽やかで、風を孕むような柔らかさ。歩けば裾が揺れ、まるで水面に映る空が波打つようだった。全体としては華美すぎず、けれど確かな存在感を放つ一着。静かに、そして確かに、誰かの記憶に残るようなドレスだった。


そして四着目。 そのドレスは、まるで星降る夜に舞い降りた銀の精霊のようだった。床まで届くシルバーの生地は、細かなラメが織り込まれていて、光を受けるたびにきらめきが波のように広がる。オフショルダーのデザインは肩のラインを美しく見せ、胸元から腰にかけてはコルセット仕様で編み上げられており、クラシカルな気品と現代的な洗練が同居していた。 背面には、ひときわ目を引く大きなリボンがあしらわれている。そのリボンはただの装飾ではなく、長く流れるトレーンへと繋がっていて、歩くたびに後ろ姿に物語を添える。まるで銀の魔女が残す軌跡のように、静かに、しかし確かに空間を支配していた。 このドレスを身に纏えば、たぬまりはきっと「銀の魔女」としての物語を一歩進めるだろう。華やかで、優雅で、そして少しだけ非現実的な輝きを持つその衣装は、見る者の記憶に深く残るに違いない。


他にもまだまだあるが絞ってこれらは着てみた。


「これにする」


たぬまりが選んだのは、銀の精霊のようなドレスだった。 こまちは、満足げに頷きながら、残りのドレスを丁寧に畳み始めた。


「じゃあ、残りは……」

「着るぞ!せっかくだからな!」


何故かノリノリのツバキが叫んだ。


「魔女集会ごっこ、開幕だ!」


さらにノリノリの常連たちが次々とドレスを手に取り、メイドさんたちも巻き込まれて、夢見亭は一気に仮のお茶会会場へと変貌した。


「我が名は、料理の魔女ツバキ!さあ召し上がれ!」


そう言いながらお茶菓子を提供するので笑ってしまう。


「風の魔女です」

「草の魔女です。大草原不可避」

「うっふ~ん♡お色気の魔女よん♡」

「ちくわ大明神」

「猫の魔女ですにゃん」

「ま、迷子の魔女です……」

「迷子って魔女なの?」

「今は性別が迷子」


「待って、ツッコミが追い付かない」


たぬまりは、銀のドレスの裾を揺らしながら席に着く。


「……なんか、すごいことになってきたね」

「銀の魔女たぬまり様、こちらへどうぞ!」


こまちが紅茶を注ぎながら、微笑む。


「本番の前に、ちょっとだけ魔女になってみるのも悪くないでしょ?」


夢見亭の午後は、笑い声と拍手に包まれていた。 魔女のお茶会本番はまだ先だけれど、たぬまりはこの仮のお茶会で、少しだけ魔女らしさを身につけた気がした。……たぶん。


お茶会は、盛り上がった。

ツバキが即興で始めた「魔女集会ごっこ」は、いつの間にか常連たちの創作合戦になり、魔女の名乗りと魔法の演技が飛び交う騒がしい宴へと変わっていた。


「我が魔法を見よ!春花秋月!」

「おお、花弁が舞って美しい……それ宴会芸だろ」

「銀の魔女様、我が研究成果をぜひご覧ください!」

「え、なんで魔女集会で発表会が始まってるの……?」


たぬまりは、銀のドレスの裾を整えながら、笑いをこらえていた。 こまちは紅茶を注ぎながら、満足げに頷いている。


「みんな、たぬまりちゃんのドレス姿見たら、テンション上がっちゃったのよ。」

「……なんか、ちょっと照れるね」

「でも、似合ってる。ほんとに、銀の魔女って感じ」


たぬまりは、そっとドレスのトレーンに指を添えた。 光を受けて、銀のラメが波のように広がる。背中の大きなリボンが、静かに揺れていた。


「このドレス、着てよかった」

「うん。これで、魔女のお茶会もばっちりだね」


宴がひと段落すると、常連たちはそれぞれの席に戻り、夢見亭にはいつもの穏やかな空気が戻ってきた。 ツバキは厨房に引っ込み、こまちはドレスの片付けを始める。メイドさんたちは、着替えながら「楽しかった〜」と笑っていた。


たぬまりは、カウンターの隅に座って、紅茶を一口飲んだ。 チョーカー《スターリンク》が、衣の間で静かに光っている。図鑑は、テーブルの上でページを閉じたまま、静かに佇んでいた。


「……本番はこんなにカオスじゃないよね?」


誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。

魔女のお茶会。

変化の魔女チェイ・ジーとの再会。銀の魔女としての初めての登場。期待と不安が、胸の奥で静かに混ざり合っている。


けれど、今日のこの時間が、たぬまりに少しだけ勇気をくれた。 仲間たちの茶目っ気。こまちの手仕事。ツバキの手料理。


そして、自分自身が選んだドレス。


「……うん、楽しみだ」


たぬまりは、そっと立ち上がった。 銀のドレスの裾が、静かに揺れる。夢見亭の扉の向こうには、まだ見ぬ魔女たちの世界が広がっている。


そして、たぬまりはその一歩を、静かに踏み出す準備を始めた。

宴会魔法、花鳥風月すきです。このすばはアニメから知りましたが、このすばTRPG、面白いのでオススメです。紅魔族なので毎回名乗ってます。

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