#71 Q&A
Q. ドッカンドッカンぶつかってるあれ、何?
誰かが言った。 誰かが答えた。
A. たぬまり
爆走する影が、ボスマモノの周囲を縦横無尽に駆け回っていた。 ただ走っているわけではない。スキル発動の予兆が見えれば、タイミングを見計らって突撃し、キャンセルさせる。大振りの攻撃が来れば、足元にぶつかって転ばせる。
「ぶつかってるように見えるけど、あれ、完璧なタイミングで当ててるよな」
「戦闘職でもいけたんじゃないのか?」
「センスあるな」
夢見亭のメンバーは、驚きと感心を隠さずに言葉を交わす。 たぬまりは、空を駆けながら、ボスの動きを見ていた。スキルの予兆、足の動き、咆哮のタイミング。すべてを読み取って、最適な角度で突撃する。
「よし、今!」
突撃。衝撃。爆風。 ボスがよろめき、スキルがキャンセルされる。仲間たちが一斉に攻撃を重ねる。
ツバキが前衛で斬り込む。 炎の中を駆け抜け、ボスの脚に一閃を浴びせる。サキがその隙を突いて横から回り込み、槍で関節を狙う。モモの魔法が空を裂き、雷の柱がボスの背に落ちる。ひがちーの狼が吠え、牙を剥いて突撃する。こまちの精霊がポーションを構え、支援に備える。
たぬまりは、空中からその様子を見ていた。 仲間たちの動きは、まるで舞台の群舞のように美しい。けれど、ボスの動きも鈍ってはいない。咆哮とともに、地面が揺れ、溶岩が噴き出す。
「たぬまり攻撃しすぎだ!」
「ヘイト取っちゃってるから回避に専念して!」
「……ヘイトってなんぞ?」
たぬまりは、ぽかんとしていた。 普段戦わないので、そういった知識がない。ゲーム用語も、戦闘理論も、あまり詳しくない。
「今日は盾ないから落ちたらスマン」
サキが、ボスからヘイトを集めるスキルを使った。 すると、ボスの攻撃がサキに向かう。たぬまりは、空中からその様子を見ていた。
「……サキ、ちょっと危ないかも」
たぬまりは、マモノ図鑑を開いた。 ページが光り、風が巻き起こる。
「《蔓の抱擁》!」
蔓がサキの身体を優しく包み込み、防御効果が発動する。 白い光がふわりと広がり、サキの動きが安定する。
「よし、次!」
たぬまりは、図鑑をもう一度開いた。 今度はクラジェルを呼び出す。
「《群体連携》!」
クラジェルが空中に浮かび、仲間たちの周囲に電気の膜を張る。 仲間が多ければ多いほど効果が上がるスキルらしい。今回のようなレイド戦にピッタリでガンガン攻撃力が上がる。
風が巻き、雷が走る。 全員の攻撃力が上がり、ボスマモノのゲージがガンガン減っていく。
ボスが吠える。 地面が割れ、炎が噴き出す。尾が振り回され、ツバキが吹き飛ばされそうになる。サキが踏ん張り、モモが防御魔法を展開する。ひがちーの狼が盾となり、こまちの精霊がポーションを投げる。
たぬまりは、空から旋回しながら支援を続ける。 図鑑を開いては、仲間の動きに合わせてスキルを発動する。防御、回復、強化。爆走は控えめに、今は支える側に回る。
「ナイス連携!」
ツバキが叫び、サキが槍を突き立てる。 モモの魔法が炸裂し、ひがちーの狼が吠える。こまちの精霊が光を放ち、たぬまりは空から次の支援を準備する。
ボスが咆哮し、最後の火球を放つ。 けれど、夢見亭の陣形は崩れない。サキが受け止め、ツバキが斬り返し、モモが雷を落とす。ひがちーの狼が吠え、飛び掛かる。
たぬまりは、図鑑を閉じて深く息を吐いた。 仲間たちの動きは、もう完璧に噛み合っている。自分が支えたというより、みんながそれぞれの役割を全うしているだけ。
ボスマモノは、それはもうタコ殴りにされている。可哀そうなレベルでやられている。
そして—— 抵抗することもできなくなったボスの身体が光に包まれ、静かに崩れ落ちた。
【サバイバルイベントはクリアされました】
【評価:Aランク】
【参加者全員にAランククリア報酬が贈られます】
【ランキング上位者にはクリア報酬とは別途で報酬が贈られます】
【イベントエリアは3日目の夜まで解放されます。引き続きお楽しみください】
画面に、アナウンスが表示された。 ボスマモノ戦に参加した全員、興奮の冷めやらぬ様子で楽しそうにボス戦の感想を語っている。
「キャンプファイヤやって解散だー!」
「準備だー!食料集めろー!」
夢見亭のメンバーが、焚き火の周りで騒いでいる。 くま精霊が踊り、薪を集め、火を起こし、食材を並べる。誰かが魚を焼き、誰かがスープを煮ている。笑い声が絶えず、空気は柔らかく、温かい。
たぬまりは、少し離れた場所からその様子を見ていた。 空は夕焼けに染まり、波の音が静かに響いている。
「……あぁ、良い空気だな」
そう呟いた声は、風に乗って、焚き火の灯りに溶けていった。




