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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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56/107

#54 夜行

夢見亭の裏庭は、夕暮れの光に包まれていた。

たぬまりは、腰を下ろしてポーチの中身をひとつずつ確認していた。空の小瓶が三つ、ユリウスから渡されたメモ、マモノ図鑑、そして非常食のクッキー。夜行性のマモノを相手にするなら、まずは静かに動ける準備が必要だった。


「グリムスパイン……骨が外に出てるって、どんな見た目なんだろ」


図鑑にはまだ空白のページが残っている。調査対象のマモノは未登録。つまり、現地で初めて出会うことになる。


「よし、準備完了。行ってきます」


こまちが店の奥から顔を出し、精霊たちが布の隙間からぴょこっと覗いた。


「気をつけてねー」


「うん、なるべく静かに行ってくる」


たぬまりは、図鑑を胸元にしまい、ポーチを肩にかけて立ち上がった。

空はすでに茜色から群青へと変わり始めていた。森へ向かうには、ちょうどいい時間だった。


 


森に入ったのは、日が沈みきった頃だった。

木々の間を冷たい風が抜け、葉のざわめきが耳に残る。たぬまりは、足音を殺しながら慎重に進んでいた。空には雲がかかり、月明かりは頼りない。けれど、目が慣れてくると、木々の輪郭がぼんやりと浮かび上がってくる。


「この辺りのはず……」


メモに記された座標を頼りに、たぬまりは森の奥へと向かう。

途中、枝を踏まないように足元を選びながら、息を潜めて進んだ。夜の森は、昼間とはまるで違う。音が吸い込まれるように静かで、風の気配すら鋭く感じる。


ふと、遠くの茂みががさりと揺れた。

たぬまりはすぐに木の陰に身を隠し、息を止める。


「……来た」


現れたのは、背の低い四足のマモノだった。

体は灰色の皮膚に覆われ、背中からは骨のような棘が突き出している。目は小さく、光を反射して青白く光っていた。動きは鈍いが、地面を嗅ぎながら、ゆっくりと移動している。


「グリムスパイン……間違いない」


たぬまりは、図鑑をそっと開いた。ページはまだ空白だ。

この瞬間を記録するために、彼女は静かに観察を始めた。


マモノは、倒木の下に鼻先を突っ込み、何かを探しているようだった。

その動きは、まるで地面の匂いを辿っているかのようで、時折立ち止まっては耳を動かしている。


「音に敏感……でも、視覚は弱そう」


たぬまりは、さらに静かに距離を詰めた。

マモノの背中に目を凝らすと、棘の根元に黒い粒のようなものが付着しているのが見えた。風が吹くと、それはふわりと舞い上がる。


「……これかも」


たぬまりは、そっとポーチから小瓶を取り出した。

風の流れに合わせて瓶の口を開き、黒い粒が舞い込むのを待つ。マモノは、たぬまりの気配に気づいたのか、ゆっくりと顔を上げた。青白い目が、じっとこちらを見ている。


「……ごめん、ちょっとだけ素材もらっただけだから」


たぬまりは、そっと後ずさりしながら距離を取った。

マモノは、しばらくたぬまりを見つめていたが、やがてまた地面を嗅ぎ始めた。敵意はない。むしろ、興味を失ったようだった。


その瞬間、たぬまりの図鑑が微かに震えた。

ページが一枚、自動的に開き、空白だった欄に情報が浮かび上がる。画面には、淡い音とともにアナウンスが表示された。


【マモノ登録完了】

新規マモノが図鑑に追加されました。


 


■登録マモノ:グリムスパイン

種族:骨獣型

属性:闇/風

特徴:背部に露出した骨棘を持ち、体表に黒粉状の粒子が付着している

生態:夜間に活動し、地面の振動や音に反応して移動する。群れず、単独行動が多い

性格:警戒心が強く、静かな環境を好む。敵意は薄いが、刺激には敏感

保有スキル:

《サウンドトラップ》:音を感知し、反射的に棘を展開して威嚇する

《ダストシェル》:体表の粒子を拡散し、視界と感覚を撹乱する

《ノクターナルステップ》:夜間に限り、足音を消して移動できる

コメント:見た目はちょっと怖いけど、静かにしてれば意外と平和。素材は風に乗るから、瓶の扱いは慎重に


 


たぬまりは、瓶をポーチにしまい、静かにその場を離れた。

森の出口が見える頃、図鑑のページに“調査完了”の印が浮かび上がった。


「一匹目、完了。あと二匹……」


夜の空気は冷たかったが、たぬまりの足取りは軽かった。

ユリウスの温室で見た黒い粉。その正体に、少しだけ近づけた気がした。


森を抜けると、空には星が瞬いていた。

たぬまりは、図鑑をそっと閉じて、夢見亭への帰路についた。次のマモノに向けて、また準備を整えなければならない。けれど、今は少しだけ、達成感に浸ってもいいだろう。

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