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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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52/107

#50 迷い猫

「ミミ、あっちに行ってみようか」


たぬまりは肩に乗った黒猫に声をかけながら、パンプキン通りを歩いていた。

通りはさらに賑わいを増していて、仮装した住人たちが笑い声を響かせている。カボチャの太鼓がリズムを刻み、空には紙製のコウモリがふわふわと舞っていた。


「お姉さん、ミミとペア仮装なの?かわいい!」

「ありがと。ミミが選んだんだよ、たぶん」


たぬまりは笑って答えながら、菓子屋の前で足を止めた。店先には、カボチャ型のクッキーや、黒猫の形をしたマシュマロが並んでいる。


「いらっしゃい!ミミちゃん、久しぶり!」


店主の双子は、そろってたぬまりに手を振った。片方は魔女帽子、もう片方は包帯ぐるぐるのミイラ仮装。


「ミミ、ここのクッキー好きだったよね。ほら、これ」


魔女帽子のほうが、黒猫型のクッキーを差し出すと、ミミは鼻先をくんくんと動かしてから、ふにゃっと鳴いた。


「……なんか、思い出した?」


たぬまりが尋ねると、ミミはしばらくクッキーを見つめたあと、店の奥をじっと見つめた。


「奥に……何かあるの?」


双子が顔を見合わせた。


「うん、昔使ってた棚があるんだけど、ミミちゃんがよく寝てた場所なんだ」

「今は物置になっちゃってるけど、見てみる?」


たぬまりは頷き、ミミを抱えて店の奥へと進んだ。

物置には、古い木製の棚があり、隅には小さな毛布が敷かれていた。ミミは棚の前でぴたりと止まり、毛布の上にそっと前足を乗せた。


「……ここ、覚えてるんだね」


たぬまりはしゃがみ込み、ミミの背を撫でた。猫は目を細め、静かに喉を鳴らした。


「この棚、ミミちゃんの“主”がよくお菓子を買ってくれてたんだよ」


双子の一人がぽつりと呟いた。


「主って……魔法使い?」

「うん。名前は……えっと……」


もう一人が首を傾げる。


「なんか、長くて、ちょっと変わった名前だった気がする。ミミちゃんが呼ぶときは、もっと短くて可愛かったけど」

たぬまりは、棚の上に置かれた古い瓶を手に取った。ラベルには、かすれた文字が残っている。


「“ルミエル”……?」


ミミがぴくりと反応した。耳が動き、瞳がたぬまりを見つめる。


「……ルミエル。それが、ミミの本当の名前?」


猫は、ふにゃっと鳴いた。けれど、どこか違うような気もした。たぬまりは瓶を棚に戻し、立ち上がった。


「まだ、全部じゃないんだね」

双子は頷いた。

「でも、きっと近いと思う。ミミちゃん、少しずつ思い出してるんだよ」

店を出ると、通りは夕暮れの色に染まり始めていた。

空には星型のランタンが灯り、音楽は少しだけ落ち着いた調子になっていた。


「ミミ、次はどこに行こうか」


猫は、たぬまりの肩からぴょんと飛び降り、通りの奥へと歩き出した。

たぬまりは笑って追いかける。


「待ってよ、案内役は私のはずなんだけど!」


通りの奥には、古い時計塔が見えていた。

その鐘は、昼間からずっと沈黙したままだった。

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