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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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#47 ふいうち

朝のリーフェンは、木々の間から差し込む光が柔らかく、街のざわめきもどこか穏やかだった。たぬまりは地図を広げながら、胸元のリボンを軽く整える。メイド服の袖口は風に揺れ、首元のチョーカー《スターリンク》が微かに光を帯びていた。


頭には黒い魔女帽子フォレストウィッチ。深い影を落とすつばの内側には、葉の装飾が編み込まれていて、魔女の気配を遮る結界の役割を果たしている。暗所での視界補正もあるため、今日のような曇り空にはちょうどいい。


「よし、今日は冒険だ」


目指すは、リーフェンの先にある街——通称ゴーストタウン。人も住んでいるが、街全体がゴシック調で、ハロウィンのような雰囲気に包まれているという。街の周辺にはアンデッド系のマモノが出るらしく、少しだけ背筋がぞくりとした。


それでも、久しぶりの遠出に胸が高鳴る。地図を折りたたみ、たぬまりは森の道へと足を踏み出した。


道の脇には、朽ちた標識や苔むした石像が並び、雰囲気は徐々に変わっていく。空気は湿り気を帯び、地面も柔らかくなっていた。


「お化けの街かぁ……どんな人がいるんだろう」


途中、アンデッドのマモノが遠くに見えたが、こちらに気づくことなく森の奥へと消えていった。たぬまりはそっと息を吐き、足音を忍ばせながら先へ進む。


しかし、思ったよりも道のりは長かった。地図ではすぐ近くに見えたのに、なぜか同じような景色が続いている。木の形も、石の配置も、どこかで見たような気がする。


「……あれ? さっきもこの標識、見たような……」


首を傾げながら、道端の倒木に腰を下ろす。風が吹き、木々がざわめく。空は曇りがちで、光が薄くなっていた。夢見亭特製ブレンドを取り出し、少しだけ口を潤す。


「ちょっと休憩……」


その瞬間、背後で枝が折れる音がした。


「……ん?」


振り返ると、そこには何かがいた。獣のような、けれど毛皮ではなく、黒い霧のような体を持つマモノ。目だけが赤く光っていて、音もなく近づいてくる。


「うそ……なにこれ……!」


たぬまりは立ち上がろうとしたが、足がもつれて転んでしまう。マモノは一瞬で距離を詰め、鋭い爪が振り下ろされた。


「っ——!」


視界が白く弾けた。



気がつくと、夢見亭のソファに倒れていた。天井のランプが揺れ、店内の音が遠くに聞こえる。たぬまりはゆっくりと体を起こし、額に手を当てた。


「……死に戻り、した……?」


初めての感覚だった。痛みはないが、心臓がまだ早鐘のように鳴っている。首元のチョーカーが微かに熱を帯びていて、何かが働いたのだと察した。


「おかえりなさい」


声がして、たぬまりは顔を上げる。カウンターの奥から、NPCメイドさんが湯気の立つカップを持って近づいてきた。黒髪をきっちりまとめた彼女は、いつも通りの落ち着いた笑顔を浮かべている。


「ちょっと顔色が悪いですね。甘いもの、入れておきました」

「……ありがとう」


カップを受け取ると、ふわりと香るハーブとミルクの匂い。たぬまりはソファに深く沈み込み、温かさをじんわりと感じながら、さっきの出来事を思い返していた。


そのとき、マモノ図鑑が光を放ち、通知が表示された。


【マモノ図鑑に新規登録されました】


---


■登録マモノ:ノクタループ

種族:幻獣霧属

属性:闇・幻覚

特徴:黒い霧のような体を持ち、実体を持たないまま獣の姿を模す。目は赤く、音を立てずに接近する。

生態:霧の濃い森や廃墟に出現し、迷った者を狙う。幻覚を見せて道を歪ませ、疲労した相手に襲いかかる。

性格:静かで執拗。獲物を逃がさず、何度でも追いかける。

保有スキル:

《幻路》:周囲の地形を歪ませ、同じ場所を繰り返し歩かせる。

《霧化》:自身の姿を霧に変え、物理攻撃を回避する。

《夢喰い》:対象の精神を揺さぶり、疲労と混乱を与える。

コメント:道に迷ってたの、あいつのせいだったんだ……! ていうか、初見殺しすぎる。


---


「お、たぬまりちゃん戻ってたのか」


常連のカグヤが声をかけてきた。手には木材のサンプルを持っていて、何か新しい家具の構想でも練っているらしい。


「顔、真っ青じゃん。何があった?」

「ちょっと……霧の中で、変なのに襲われて……」

「うわ、それは災難。ゴーストタウンの手前って、結構罠多いって聞くしな」

「罠っていうか、道がぐるぐるしてて……気づいたら同じ場所に戻ってて……」

「それ、幻覚系だな。あそこ、マモノの気配が濃いから、感知装備ないとキツいよ」


たぬまりは、首元のチョーカーに手を添えた。《スターリンク》は感知範囲を少しだけ広げてくれるけれど、あの霧の中では足りなかったのかもしれない。


「次は、ちゃんと準備して行く」

「うん。あと、誰か連れてった方がいいかもな。あそこ、ソロで行くと普通に死ぬ」

「……うん。ほんとに死んだし」


たぬまりは、カップを傾けながら苦笑した。夢見亭の空気は温かく、店内のざわめきが少しずつ心を落ち着けてくれる。ソファのクッションが背中に優しく沈み、ようやく呼吸が整ってきた。


「ゴーストタウン、遠いな……」


目を閉じると、あの霧の中の赤い目が浮かんだ。けれど、今はもう焦らない。次はちゃんと道を見極めて、進めばいい。


「次は、負けない」


たぬまりは、そっと目を開けた。夢見亭の灯りが、ほんの少しだけ、いつもより優しく見えた。

ポケモンではゴーストタイプが好きです。

ホラー映画や心霊系のYouTubeチャンネルも見ます。

ホラーゲームとかビックリするのはすごく苦手なんですけどね。

ハロウィンとかお化けモチーフのものって好きなんですよ

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