#45 葉っぱの手紙
畑は静かだった。
メイドさんたちによって植物は無事に回収され、農業企画も一区切りを迎えた。
たぬまりが使っていた区画は、今後も夢見亭の食材供給のために管理されるという。
好きに植えて良いカオスゾーンもそのまま残り、ハンギングチェアも吊られたまま。
また座りに来よう。そう思うと、少しだけ名残惜しい。
「お役御免、かぁ……」
ツナギのポケットに手を突っ込みながら、たぬまりは空を見上げた。
星の調査は難航していて、まだよくわかっていない。
いや、おおよその予想はついている。けれど、たぬまりのような人が触ると、また未知の挙動をする。
だからこそ、まだ知らないことが残っていると言った方が正しい。
「……暇だな」
ふと思い出す。
この間、転送クリスタルにタッチしただけでスルーした場所があった。
森と一体化した街——リーフェン。
「散歩でも、してみるか」
リーフェンは、木々の間に家々が溶け込むように建てられていた。空気は澄んでいて、葉のざわめきが心地よい。
たぬまりが歩いていると、羽の生えた人が近づいてきた。
「たぬまりさんにお手紙です」
そう言って、葉っぱを渡してくる。鳥系獣人の郵便屋さん……なのだろうか。
しかし、葉っぱ。なんですか、これは。
小学生の頃、何かで教えてもらった気がする。
多羅葉の葉に傷をつけると、文字が浮かび上がる——そんな話。
サイズ的にもよく似ているし、そういう性質の葉っぱなのだろう。
たぬまりが考えている間に、郵便屋さんはさっさと飛び去ってしまった。
葉っぱの表面には「たぬまりへ」と書かれている。
裏面には、こうあった。
『この後、何かに躓きます。それは拾っておくことそして、リーフェンのカジノに行くとジェイに会えます。絶対に味方にしろ。この手紙を燃やしたら呪う』
「……どういうことなの……」
たぬまりは、葉っぱの手紙をエプロンのポケットに突っ込み、忘れようと歩き出す。
すると、何かに躓いた。
「わっ」
足元を見ると、石のようなものが転がっている。
一部が欠けていて、そこから紫の水晶のようなものが覗いていた。
「水晶の原石……?これって、手紙の……?」
まさか、と思いながら拾い上げる。
手のひらに乗せると、ひんやりとした感触があった。
散歩を続けていると、道が左右に分岐していた。
耳をすませば、近所の人の話が聞こえてくる。
左の方には、美味しいパン屋さんがあるらしい。
右には、ギャンブル、金をスった、ママには内緒だ——などという声。
「……カジノ、か」
手紙に書いてあった場所。
言うとおりにする理由はない。けれど、気になる。
たぬまりは、右へと足を向けた。
カジノは、煌びやかで、どこか寂しげだった。
音楽が流れ、スロットの音が響く中、素寒貧のジェイが座り込んでいた。
「助けてくれ……!もう何もない……!」
たぬまりは、思わず立ち止まる。
普通なら断るところだが、ポケットの中の葉っぱが頭をよぎる。
たぬまりは、ルルを呼び寄せた。
小さな光の精霊が、ふわりと浮かび、スロット台の間を漂う。
やがて、ひとつの台の前で止まり、じっと光を灯した。
「……ここね」
たぬまりは、その台に座り、スロットを回す。
数回目で、ジャックポット。儲けた金で、ジェイを助ける。
その代わり——
「今日は、私についてこい。荷物持ちだ!」
ジェイは、しぶしぶ頷いた。
そのあと、たぬまりはジェイを連れて買い物へ向かった。
リーフェンの市場は、木漏れ日の中に露店が並び、香辛料や果物、魔道具まで揃っていた。
「これと、これと……あ、あれも」
たぬまりは、次々と品物を選び、ジェイに渡していく。
ジェイの腕には袋が積み重なり、顔が半分隠れるほどになった。
「ちょっと多くない……?」
「荷物持ちって言ったでしょ」
ジェイはため息をつきながら、よろよろと歩いていた。
帰り道。
石畳の坂道を下っていたとき、ジェイが足を滑らせた。
「うわっ!」
荷物が一斉に地面に落ち、果物や瓶が転がる。
たぬまりは慌てて拾おうとしゃがみ込んだ。
その瞬間——
通りすがりの荷車が、急に曲がってきて、たぬまりにぶつかった。
「っ……!」
衝撃が走り、ポケットの中の水晶が硬い地面に叩きつけられる。
——光が弾けた。
気づけば、リーフェンの入口。
たぬまりは、呆然と立っていた。
羽の生えた郵便屋さんが、また近づいてくる。
「たぬまりさんに手紙です」
葉っぱを渡され、裏面を見る。
『ここからループスタート。必ず抜け出す方法はある。未来の私より』
「……は?」
たぬまりは、唖然と手紙を見つめた。




