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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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#44 カオスな日

月が高く昇った夜。

畑は静まり返り、風の音すら遠くに感じるほどだった。

たぬまりは、収穫を終えた畑から離れがたく、ハンギングチェアに身を預けていた。

ツナギの裾には土がつき、麦わら帽子は胸元に抱えて、背中のたぬきしっぽがゆらゆらと揺れていた。


「……ちょっとだけ、休憩……」


そう呟いたまま、眠ってしまった。


ふと、何かの気配を感じて瞼を持ち上げる。

月明かりに照らされたカミノキのつぼみが、今、まさに花開こうとしていた。


たぬまりはハッとして、息をつめた。

目の前で、つぼみがゆっくりと開いていく。

花弁は薄く、光を透かすように広がり、淡い光が辺りを包む。


香りがふわりと漂った。

甘く、でもどこか涼やかで、心が静かにほどけていくような香りだった。


「……綺麗……」


その一言すら、声に出すのが惜しいほどの瞬間だった。

月明かりに照らされたカミノキの花は、まるで夜空に咲いた星のようだった。


たぬまりは、目を閉じた。

その香りに包まれながら、再び眠りについた。




翌朝。

鳥の声とともに目を覚ますと、畑はいつも通りの賑わいを見せていた。

けれど、たぬまりの視線は、ある一点に吸い寄せられた。


メイドさんのカオスゾーン。

いや、ここはいつでも気になるのだが、今日は違った。


茎に見合わぬ大きなつぼみをした植物が、咲いていた。

しかも、花の中心に——簡略化された顔が付いている。


「おはよう!花が咲いたよ!」


たぬまりは、麦わら帽子をかぶり直しながら、動揺を隠せずに挨拶を返した。


「……お、おはよう……?」


喋る花だ。

しかも、元気いっぱい。


隣にぽっかり空いたスペースが気になる。

確か、ここは比較的普通っぽい植物が生えていたはず。


たぬまりは、つい喋る花に話しかけてしまう。


「ここ、空いてるけど……何かあった?」

「脱走したよ!」

「そ、そっか。……脱走?」

「根っこが丈夫で走る草なんだ!満足したら戻ってくるんじゃない?」


無責任すぎる。

この花を信用していいのか、たぬまりは真剣に悩んだ。


その瞬間、画面に通知が表示された。


【マモノ図鑑に新規登録されました】


---


■登録マモノ:ハナシマス

種族:植物型マモノ

属性:風・会話

特徴:花弁の中心に簡略化された顔を持ち、言葉を話す。香りは強めで、周囲の注意を引く。

生態:魔力を帯びた土壌で育ち、開花と同時に会話能力を得る。近くの植物と情報交換を行う習性がある。

性格:陽気でおしゃべり。やや無責任だが、悪意はない。

保有スキル:

《花言葉》:周囲のプレイヤーに軽度のリラックス効果を与える。

《情報拡散》:近隣の植物マモノに情報を伝達する。

《香気誘導》:香りで注意を引き、視線を集める。

コメント:喋る花って、思ったより元気。あと、情報が雑すぎる。


---


「走る草って、どういうことなの……!?」


たぬまりは、畑を飛び出して近所を探し始めた。



最初の場所。

水辺の近くで、草がぴょんと跳ねて逃げた。


「待ってーーー!」


網を構えるが、草はするりと水面を渡ってヤツは消えた。



二箇所目。

ご近所さんの畑の隅で、草がひょこっと顔を出す。


「そこだーーー!」


走るが、草は畝を飛び越えて逃げていく。

ご近所さんが笑いながら「がんばれー!」と応援してくれる。




三箇所目。

丘の上で、草が風に乗ってふわりと跳ねる。


「こ、今度こそ……!」


たぬまりは全力で追いかけるが、草はくるりと回って、畑の方へ戻っていった。



気づけば、たぬまりの農地区画。

喋る花の隣に、草が戻ってきていた。


「……ほ、ほんとに戻ってきた……」


草は、何事もなかったかのように、元のスペースの土に潜り、普通の草みたいに生えていた。


たぬまりは、へとへとで脱力して、畑に大の字で倒れこむ。


「あー!!もう!!!早く回収に来てー!!」


空は晴れていて、風は優しく吹いていた。

喋る花は、隣で「おかえりー!」と陽気に揺れていた。

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