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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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#42 憧れのやつ

朝の畑は、どこか静かで、少しだけ寂しかった。

たぬまりは麦わら帽子をかぶり、ツナギの袖をまくりながら、畝の前にしゃがみ込んだ。

トマトの赤は濃く、バジルは香りを強め、紫キャベツはしっかりと丸みを帯びている。

月根菜の葉も力強く広がり、土の中で膨らんでいるのがわかる。


「……いよいよ、お別れかぁ」


指先でそっと葉を撫でる。

愛しのわが子たち。

ツバキさんに美味しく調理してもらうんだぞ、と心の中で語りかけながら、一つ一つ丁寧に収穫していく。


根を傷つけないように、葉を折らないように。

たぬまりの手は、いつもより慎重だった。


収穫を終えた畑を見渡すと、少しだけ空っぽになったような気がした。

でも、ツルノカミはまだそこにいた。

支柱に絡みながら、つるを横に伸ばし、あちこちに小さなつぼみをつけている。


「そろそろ、常連さんに連絡してみた方がいいのかな……」


あまりに伸びるので、ご近所さんに相談して、みんなでパーゴラを作った。

横にも広がるようになり、つぼみが出来てからは華やかな香りが少し漂うようになった。


たぬまりは、ツルノカミもすっかり気に入っていた。


ふと、メイドさんの闇鍋スペースを見やる。

茎に見合わぬ大きなつぼみが出来ていたり、小さくてトゲトゲした実を複数つける植物や、ウツボカズラのような見た目で液体をため込む植物も生えていた。


「……怖すぎる」


毎日、手入れはしているが、このカオスな空間が最終的にどうなるのかわからない。

責任を持って植えたメイドさんが回収してくれるのだろうか。

回収してほしい。切実に。


あれこれ考えていたが、収穫した作物を持ってご近所さんに挨拶をしてから夢見亭へ向かうことにした。

もちろん、みんなに守ってもらい、しっかり育った作物を少しずつ差し入れする。


たぬまりは、店長の目論見通り畑の世話にどっぷりハマり、だんだんと畑に常駐するようになっていた。

夢見亭に行くのは、久しぶりだった。


店の扉を開けると、見知った顔が笑顔で挨拶してくれる。


「たぬまりちゃん、久しぶり!」

「畑、どうだった?」


たぬまりは、ツバキを呼んでみんなに育った作物を見せた。

みんなが「偉い」「すごい」「美味しそう」と口々に言ってくれて、気分がいい。


ツバキも頷きながら言った。


「よく育てたな。さっそく料理に使わせてもらうよ」

そう言って、作物を引き取ってくれた。


たぬまりは、常連さんに話しかける。

「蔓も結構育ったけど、どうするの?」


そういえば、この常連さんの名前も何をしているのかも、何も知らない。

察した常連さんが言う。

「あ、俺。カグヤって名前です。家具を作ってるんですよ」


カグヤは、落ち着いた声でそう答えた。

蔓の状態を見せてほしいと言われて、さっそく畑へ。


「……すごくいい状態ですね。思っていたよりも良いし、パーゴラも良い感じなので、そのまま利用してみましょう」


たぬまりは、ハテナ顔。


「なにをするんだろう?」


カグヤは道具を取り出し、作業用の手袋を嵌めて、さっさと蔓を動かし編み始めた。

伸びすぎてあっちこっちに行ってしまいそうな一部は切り落とし、それも利用する。


どんどん形が丸くなり、出来たのは——卵型のハンギングチェア。


「……お洒落……!」


一度は座ってみたい、憧れのやつだ。

たぬまりがすっぽり入りそうな大きなサイズで、パーゴラから吊られてゆらゆらしている。


パーゴラに伝った蔓と葉っぱで日影が出来ており、あちこちからつぼみが出て、これから花が咲くのが楽しみ。

地面から生えた蔓が強度を補強しており、人が座っても全然平気なのだという。


「こまちちゃんに頼んで、クッションを作ってもらいましょう」


カグヤはそう言って、夢見亭へ戻っていった。


たぬまりは、何かお礼を渡そうとインベントリを漁る。

そういえば、イベント報酬でもらったものを見ていなかった。


開けてみると、ポーションの詰め合わせだった。

農作業に使えそうなものが詰まっており、中に作業速度上昇の効果が付いているものがあった。


「これ、家具作りにも使えるかも」


それをカグヤに渡すと、彼は少し驚いた顔をしてから、静かに笑った。


「ありがとう!助かります」


こまちに連絡して、ハンギングチェアを見てもらうと、「これはいい!」とスキルを使ってさっと作ってしまう。

白いふっかふかのクッションだ。


早速、敷いて座ってみると——すごく気持ちがいい。丸くなって横になることもできる。

ゆらゆら、ふわふわ。最高だった。


こまちにもお礼を言い、なにかあげようと思ったが、ちょうどよさそうなものがない。

後日渡すことにした。忘れないようにしなければ。


二人は夢見亭に戻り、たぬまりはハンギングチェアに腰かける。

ゆらゆらしながら畑を眺めて、ぽつりと呟いた。


「……ここは、いい場所だな」

細工師の弟が出た時から兄は家具職人にしようと思っていました。ご近所のHNを考えるのが楽しく、堀ーりー♂騎士はキャラが濃くなってしまいました。


たくさんのキャラの名前が出てきますが、覚えなくても大丈夫です。覚えていなくてもわかるように描写します。キャラの名前が増えてきたのはたぬまりが周りの人間に興味を持てるようになってきたという気持ちの変化のつもりで書いているだけなので……!

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