#4 ふわもち生物
たぬまりは外に出た。
街の門をくぐると、光が一気に差し込んできて、目を細める。外はまぶしい。現実の朝よりも、ちょっとだけ鮮やかで、ちょっとだけ風が気持ちいい。
「……うわ、まぶい」
ツバキ姐さんのメモにはこう書いてあった。
“観察してると鑑定スキルが生えるらしい。食べられそうなものを見極めて、店で見たことない食材を持ってこい。歓迎する。”
つまり、働けということだ。面倒だ。いや、働いていたが?
地面を見ながら適当に歩いていると、いつの間にか門を出ていて、平原に出ていた。こまっちゃんが「平原ならノンアクティブのモンスターしかいないから大丈夫だよ~」と言っていた。つまり、こちらが刺激しなければ戦闘にならないということだ。
「なら、まあ。ぶらぶらするくらいなら、ね」
平原には、初心者装備のプレイヤーたちがネズミみたいなモンスターと戦っていた。剣を振るい、魔法を放ち、経験値を稼いでいる。たぬまりは、正直げんなりした。
そういう場所を避けて、現実のような日差しを防ぐ木陰を探してノロノロ歩く。
やがて、川が見えてきて、大きな木も見つけた。
よし、ここをキャンプ地とする!
「……それに食材探しなんて面倒だし、業務にない。」
でも、今戻ったらまた追い出されるだろうな。
木陰に座り込み、しっぽを抱いてぼーっとする。風が気持ちいい。川の音が心地いい。紅茶がないのが惜しいけど、まあ、いい。
そのときだった。
視界の端に、ふわっとした何かが跳ねる。
たぬまりはそちらの方を見やる。そこにいたのは——
うさぎのような耳がついた、ふわふわもちもち、弾力のあるボールのような生き物だった。
色は淡いクリーム色。耳は長くて、先がほんのりピンク。体はまるく、もちもちしていて、跳ねるたびにぷにっと揺れる。目はつぶらで、黒曜石のようにきらきらしている。動きはのんびりしていて、跳ねるたびに「ぽよん」と音がしそうなほど柔らかい。
「か、かわいっ……」
動くのは面倒なので、たぬまりはじっと眺めるだけ。
マモノは草を食べたり、水を飲んだり、耳をぴくぴくさせたりしている。何かに驚くと、ぽよんと跳ねて木の陰に隠れる。しばらくするとまた出てくる。
このあたりの川の水が好きらしく、時々ぴちゃぴちゃと音を立てて飲んでいる。水を飲んだあとは、耳をぴくぴくさせて、草の上でごろんと転がる。日差しが強いと木陰に隠れ、風が吹くと耳をたたんでじっとしている。
暗くなってくると、川沿いの茂みの奥にある小さな巣穴に戻っていく。跳ねながら、時々振り返るような仕草を見せるのが、なんとも愛らしい。たぬまりは、ただぼーっと眺めていた。ちゃんと生きているんだと思うと興味がわいてもっと知りたくなって動いた。ひっそりついて行ったり、またしゃがみこんで眺めたり。
「へー……そういう生態なんだ」
行動パターンがある。反応がある。ゲームの世界だけど、本当に存在するみたいに生きている。
かわいいな。面白いな。なんか、ずっと見ていられる。
気づけば、ゲーム内の2日目に突入していた。
《Somnaria》では、現実と流れる時間が違う。現実で寝ている間に、だいたい3日分くらいは遊べる。たぬまりは、ずっと木陰で、ふわふわもちもちのマモノを眺めていた。
そして——
目の前に、ふわっと何かが浮かび上がった。
それは、古びた紙の本のような形をしていた。表紙には金色の文字で《マモノ図鑑》と書かれている。
【ユニークスキル《マモノ図鑑》を取得しました】
【マモノ登録完了:緩獣】
【経験値を獲得しました】
【レベルアップ! 現在のレベル:4】
「え、一気にレベル上がった!」
たぬまりは、しっぽを抱いたまま、ぽかんと図鑑を見つめる。戦っていない。動いてもいない。ただ、眺めていただけ。それなのに、経験値が入って、レベルが上がった。
「店内ニート脱出かぁ~」
図鑑は、たぬまりの周囲をふわふわと浮遊しながら、先ほどのマモノの姿をページに描き出していた。まるで、たぬまりの目線と記憶をそのまま写し取ったように。
■登録マモノ:モフポン
種族:緩獣
属性:地
特徴:もちもちした球状の体にうさぎ耳。跳ねることで移動し、衝撃を吸収する柔軟性を持つ。
生態:川沿いの水を好み、日差しを避けて木陰で休む。夜は巣穴に戻る。群れではなく単独行動が多い。
性格:のんびり屋で臆病。好奇心はあるが、刺激には敏感。
弱点:風属性の魔法に対して防御が低く、強風で転がされるとしばらく起き上がれない。高所からの落下にも弱い。
保有スキル:
《ぽよんジャンプ》:弾力を活かした跳躍。敵意はないが、接触すると軽いノックバック効果あり。
《ゆる感知》:地面の振動や気配を察知し、危険を回避する。地属性の感覚に優れている。
《もちもちバリア(微)》:体表の弾力で物理衝撃を軽減する。防御力は低いが、打撃系にはやや強い。
コメント:かわいい。ぽよん。ずっと見てられる。
こうして、たぬまりはユニークスキル《マモノ図鑑》を手に入れた。
しかも、レベルまで上がった。
たぬまりが全然周り見てくれないから街の描写ができない!ステータスも開いてくれない!
と、まあ、言い訳じみた設定を書きますがたぬまりちゃんは超絶不幸の連続で正直、疲れています。周りに興味を持ってエネルギーを消費するのがキツイ。そんな状態から徐々に回復していき、もう少し周りに興味を持つ余裕が出てくるとまた違った展開になってきます。たぬまりちゃんの未来に乞うご期待!




