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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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37/107

#36 ポーション

浮上神殿ルールリエが夢見亭の支店になってからというもの、店長の忙しさは倍増していた。

星の展示室の管理、紅茶ラウンジの運営、人魚スタッフのシフト調整、魚人警備班の訓練……。

やることは山ほどある。しかも、全部たぬまりが勝手に始めたことだった。


「おい、たぬまり。お前が増やしたんだから、キビキビ働け」

「えっ……私、巫女なんだけど……?」

「巫女でもスタッフだ。動け」


そんなわけで、たぬまりは神殿支店とユメノネ本店を行き来しながら、接客・案内・星の磨き作業までこなす日々を送っていた。


「こんなはずでは……」


水のソファに座る暇もなく、たぬまりは毎日、元気ポーションを常飲していた。

ゲーム内で販売されているエナジードリンクのようなもので、飲むと一時的に行動速度と集中力が上がる。

味はほぼミント。人工的な甘さが後を引き、美味しくはないが、効く。



その日も、たぬまりは神殿の倉庫で作業を終え、カバンをごそごそと探っていた。

中には、元気ポーションとケモケモ変身ポーションが並んで入っている。

瓶の形も色も似ていて、ラベルは小さくて見づらい。

「これこれ……元気ポーション……げへへ」


確認せずに、たぬまりは瓶の栓を開けて一気に飲み干した。


「……ん?」


視界が低くなり、耳がピンと立った。

手が肉球になり、背中にはふわふわと揺れる太いしっぽ。


「……っ!?」


え、待って。これ、ケモケモ変身ポーションじゃん!!


毛並みは白とグレーの混ざったふわふわで、目はまんまる。

耳は猫、しっぽはたぬき。

見た目は完全に、かわいいケモノ。


「にゃー……」


声を出してみるが、猫語しか出ない。

誰にも伝わらない。

しかも、ポーションの効果時間は約六時間。

解除ポーションは倉庫の奥にあるが、今の姿では扉を開けられない。


……ちょっと辺りを歩いてみますか。


神殿の回廊を歩いていると、人魚スタッフたちがたぬまりを見つけた。


「わあ、かわいい猫ちゃん!」

「しっぽがもふもふしてる〜」

「巫女様が飼い始めたのかしら?」


たぬまりは「違うよ!私だよ!」と伝えようとするが、出るのは「にゃー」だけ。

仕方なく、撫でられるままにされていた。


水のソファに乗せられ、海藻茶を差し出され、星の展示室でくるくる回される。

人魚たちは完全に「癒しのマスコット」として扱っていた。


午後になり、たぬまりはユメノネ本店の夢見亭へと向かった。

魚人警備班の背中に乗って移動するという、なんとも言えない光景だった。


夢見亭に着くと、こまちが「あら、かわいい猫ちゃん!」と抱き上げてくれた。

ツバキは「たぬまりが飼い始めたのか?」と首をかしげていた。


「にゃー……」


たぬまりは、ソファの上に丸くなった。

ふわふわのしっぽを抱え込み、目を閉じる。


……仕方ないので、昼寝でもするか。

仕方ないからね。




夢見亭の午後は、静かだった。

紅茶の香りが漂い、常連客たちが穏やかに談笑している。

その中で、たぬまり(猫)は、すやすやと眠っていた。


誰も気づいていない。

この猫が、星を操り、神殿を浮上させ、タコンを消滅させた張本人であることを。




六時間後。

ポーションの効果が切れ、たぬまりは元の姿に戻った。


ふわふわのしっぽは消え、耳も元通り。

ソファの上には、いつものたぬまりが、すやすやと眠っていた。


こまちが紅茶を運んできて、ふと目を留める。

「えっ!?猫ちゃんが……たぬまりちゃんだったの!?」


ツバキがカウンターの奥から顔を出す。

「やっぱりか……」


店長は、グラスを磨きながらぼそりと呟いた。


「まぁ、今日は寝かせといてやれ」


たぬまりは、ソファの上で丸くなって、静かに寝息を立てていた。

最初は元気ドリンクって書こうとしてました。

書いて、モンハンやんけって思ったんでやめました

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