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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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35/107

#34 星の巫女

神殿の上層、たぬまりは水のソファに身を預けていた。

海藻茶の香りはほんのり甘く、口に含むと潮の風味が広がる。

目の前には水魔法で整えられた鏡のような水面。そこに映るのは、白い尾を揺らす人魚姿の自分。

ティアラの下で髪がふわりと漂い、耳元のヒレにはパールの飾りが揺れていた。


「……静かでいいな」


周囲では教団の女性たちが、たぬまりの世話を焼いていた。

彼女たちは人魚の姿をしているが、話してみると意外と気さくで、生活感のある話も多い。


たぬまりは、海藻茶を啜りながら、ふと口を開いた。


「ねえ、みんなって普段どんな暮らししてるの?」


その問いに、女性たちは嬉しそうに答え始めた。


「神殿の掃除と、星の管理が主な仕事です」

「海底にいた頃は、もっと寒かったんですよ」

「この姿、実はポーションで変えてるだけなんです」


たぬまりは、頷きながらも内心では「よし」と思っていた。

図鑑登録の条件を満たすには、生活情報の収集が必要。

この会話も、すべて計算のうちだった。


案の定、画面が光る。


【マモノ図鑑に新規登録されました】


図鑑を開くと、住人たちが登録されていた。住人NPCだから無理かと思っていたが、可能らしい。


---


■登録マモノ:人魚

種族:海棲人魚族

属性:水・光

特徴:白い尾とレースの衣装をまとった人魚型。優雅な動きと柔らかな声が特徴。

生態:海底神殿にて星の管理と儀式補助を行う。水魔法に長ける。

性格:穏やかで従順。信仰心が強く、巫女に忠誠を誓う。

保有スキル:

《水面の鏡》:水を操り、視覚情報を映し出す。

《潮の抱擁》:対象を水の膜で包み、癒しの効果を与える。

《星の導き》:星の動きを感知し、儀式の補助を行う。

コメント:狙い通り登録された。やっぱり話を聞くのは大事。


■登録マモノ:魚人

種族:深海魚人族

属性:水・闇

特徴:鱗に覆われた筋肉質な魚人型。鋭い爪と硬い皮膚を持つ。

生態:神殿の警備と儀式の護衛を担当。夜行性で集団行動を好む。

性格:忠誠心が高く、外敵には容赦しない。

保有スキル:

《深海の咆哮》:周囲に威圧を与える咆哮を放つ。

《泡刃》:水泡を刃状に変化させて攻撃する。

《影潜り》:水中で姿を消し、奇襲を行う。

コメント:こっちは怖い。でも礼儀はちゃんとしてる。


---


たぬまりは図鑑を閉じ、満足げに海藻茶をもう一口啜った。

星を指先で転がしながら、外の様子を眺める。

神殿の周囲には、見覚えのあるマモノたちが現れていた——


海面を割って現れたのは、見覚えのあるマモノたち。

クラゲ型、カニ型、イルカ型——妖精女王のナイトプールで見かけた連中だ。

あのときは浮き輪やサングラスでふざけていたが、今は戦闘態勢。

装飾を外し、鋭い目つきで神殿に向かって進んでいる。


【マモノ図鑑に新規登録されました】


■登録マモノ:クラジェル

種族:浮遊軟体族

属性:水・雷

特徴:半透明の体を持つクラゲ型。触手に電気を帯びている。

生態:群れで行動し、空中を漂いながら敵を包囲する。

性格:無表情だが好戦的。

保有スキル:

《雷触》:触れた対象に麻痺を与える。

《浮遊結界》:周囲に電気の膜を張る。

《群体連携》:近くの仲間と連携して攻撃力を上げる。

コメント:ナイトプールのときの方が可愛かった。


■登録マモノ:カニグラント

種族:甲殻戦士族

属性:水・地

特徴:巨大なハサミを持つカニ型。甲殻は非常に硬い。

生態:地上でも活動可能。防衛線を突破するために編成される。

性格:頑固で直進的。

保有スキル:

《甲殻防壁》:自身の防御力を大幅に上げる。

《ハサミ砕き》:対象の防具を破壊する。

《地響き》:地面を揺らして周囲を転倒させる。

コメント:ナイトプールのときは踊ってたのに。今はガチ。


■登録マモノ:イルカレイド

種族:高速突撃族

属性:水・風

特徴:流線型の体を持つイルカ型。高速移動が可能。

生態:偵察と突撃を担当。水中・空中両方で活動できる。

性格:陽気だが容赦ない。

保有スキル:

《突風泳》:高速で移動しながら攻撃する。

《音波斬》:鳴き声で衝撃波を発生させる。

《群れの鼓動》:仲間の速度を上げる。

コメント:ナイトプールのときは浮き輪つけてたのに。今は速すぎ。




「なるほどな……」


たぬまりは、星を指先で転がしながら呟いた。

その目は、どこか遠くを見ているようで、何かを企んでいるようでもあった。


「ねえ、あのさ」


たぬまりは、そっと女性たちに顔を寄せる。

声は小さく、でも確かに響いた。


「ちょっと、秘密の話があるんだけど——」




ユメノネ防衛線。

サキは前線で指示を飛ばしていた。


「マモノを1匹も通すな!」

「クラジェルは雷に弱い!魔導士、集中して!」

「カニグラントは正面突破型!回り込んで!」


モモは弓を構え、ひがちーは盾を掲げて前線を支えていた。

それぞれが自分の装備を最大限に活かし、戦場を駆けていた。




一方、ツバキは神殿の裏手から潜入していた。

魚人の巡回を避け、静かに進む。

だが、メンバーの一人が足元の貝殻を踏み、音を立ててしまう。


「……しまった」


魚人が振り返る。

戦闘が始まる。


ツバキは素早く前に出て、短剣で魚人の腕を弾いた。

水魔法を避けながら、仲間と連携して撃退する。


「急ぐぞ。広間へ」


そして、広間にたどり着いた瞬間——

視界に飛び込んできたのは、両手を天に掲げる人魚姿のたぬまりだった。


白い尾が揺れ、ティアラが光を反射して輝いている。

周囲の女性たちは地に膝をつき、たぬまりに向かって頭を垂れていた。

彼女の周囲を星々が浮かび、ゆっくりと回転している。

白い尾は優雅に揺れ、ティアラの下で髪が光を受けてきらめいていた。


ツバキは思わず足を止めた。

その光景は、まるで神話の一幕だった。


「……たぬまり?」


声をかけるが、彼女は振り返らない。

両手を天に掲げたまま、空を見上げている。


「ふふ……ふふふ……」


くすくすと笑いが漏れた。

それは、いつものたぬまりの笑いとは違っていた。

どこか、壊れかけたような、でも楽しげな響き。


「もう、どうにでもなーれ」


その言葉と同時に、たぬまりは腕を振り下ろした。


「くらえーーーっ!!」


星々が、彼女の動きに従って一斉に流れ始める。

空を裂くような光の軌道が、神殿の外へと飛び出していった。

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