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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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33/107

#32 浮上

夢見亭の午後。

たぬまりは、泡を吹いて倒れた魚取さんの隣で、星を一つ指先で転がしながら紅茶を飲んでいた。

星は帽子の中で静かに光っていて、湯気と混ざるようにふわりと揺れていた。


「……なんでこうなったんだろ」


誰にともなく呟いたその瞬間、店の扉が勢いよく開いた。


「此奴は異教徒である!」

「神を疑うなど言語道断!」

「神の前に連れて行き、裁きを受けさせる!」


わいわいと騒ぎながら、魚人NPCが何人も店内になだれ込んできた。

鱗の光沢とぬめりのある声が、夢見亭の空気を一瞬で変える。


たぬまりが立ち上がる間もなく、魚取さんは簀巻きにされていた。

布がどこから出てきたのかは分からないが、手際が異様に良い。


そして、たぬまりにも視線が向けられる。


「むっ!これは!」

「星の巫女じゃ!美人じゃ!」

「神の元に連れて行こう!」


「ちょっと待って、私はただのメイドで……」


言い終わる前に、数の暴力で簀巻きにされていた。

星の巫女という謎の肩書きを付けられて完全に巻き込まれた。




店内が静まり返る。

魚人たちが去ったあと、常連客たちがざわつき始める。

「これ、なんかのイベント発生したのかも」

「たしかに」

「掲示板に書いとくか」

「知り合いにも声かけてみるわ」

こまちは「どうしよう!たぬまりちゃん!」と慌てている。

ツバキが冷静に言った。

「ひとまず、あの魚人プレイヤーが言ってた漁村を探すぞ」


店内の空気が、少しずつ動き始める。




一方その頃。

たぬまりは簀巻きにされたまま、ハイライトの消えた目で運ばれていた。


「……ここどこやねん」


頭の中でツッコミを入れながら、魚人たちに担がれていく。今回もめちゃくちゃ巻き込まれてしまった。本当に今まで以上に巻き込まれた。

のんびり過ごして、ゲーム内で夜になったら星を採って遊ぼうと思っていたのに、どうしてこうなった。




連れてこられたのは、海辺の漁村。

潮の香りと、どこか湿った空気。

村の中央には、巨大な石碑が立っていた。

その周囲には、魚人たちが集まり、祈りを捧げている。


「星の巫女よ、神の意志を示せ」

「星を動かし、神の目を開けるのだ」


たぬまりは、簀巻きから解かれ、中央に立たされた。周囲の視線が痛い。

星を動かせと言われても、どう動かすのか分からない。


「……ええい、こう?」


ずっと持っていた手の中の星を、そっと空に向けて掲げる。

すると、星がふわりと浮かび、空に吸い込まれるように消えた。


その瞬間——


【星の位置が揃いました】

【海底神殿ルールリエが浮上します】


ワールドアナウンスが響く。


空が揺れ、海がうねり、遠くの水平線から巨大な影が浮かび上がる。

それは、海底から現れた神殿。

水をまといながら、静かに、しかし確実に地上へと姿を現す。


イベント告知がプレイヤー全体に届く。


【緊急イベント発生】

海底神殿ルールリエが始まりの街ユメノネを攻めてきます。

プレイヤーは街を防衛してください。



たぬまりは、星の巫女として神殿を呼び出したことになっていた。

紅茶を飲んでいただけなのに。星をいじっていただけなのに。


「犯人は、たぬまりでした……」


自分で呟いて、悲しくなった。

イベントじゃーー!!

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