#31 犯人はたぬまり
ログインした瞬間、たぬまりの目の前にマモノ図鑑がぬっと現れた。
【マモノ登録完了:≪タコン≫】
画面いっぱいに広がる、謎の生物のイラスト。
ぬめりと鱗の混ざった質感、異様に大きな目、そして触手のような髪。
「……え、誰?」
図鑑には、登録完了のアナウンスが表示されていた。
だが、たぬまりは今日マモノなんて見ていない。
記憶を辿っても、戦った覚えもない。
「もしや、交換に出した識別の紙片?いやいや、これどこで使ったの!?」
ツッコミながら、図鑑の詳細を確認する。
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■登録マモノ:タコン
種族:深海異形種
属性:水・幻
特徴:鱗と粘膜に覆われた巨大な魚人型。目が異様に大きく、常に濡れている。
生態:漁村周辺の海底神殿に生息。信仰を集めることで実体化する。
性格:信仰に敏感で、崇拝されると喜ぶ。疑念には過剰反応する。
保有スキル:
《幻泡の帳》:対象の視界に泡の幻影を発生させ、周囲の認識を一時的に遮断する。
《深信の呪》:信者の信仰心を感知し、疑念が生じた瞬間に精神干渉を行う。
《潮の囁き》:水の気配を通じて遠隔で囁きを送り、対象の思考に影響を与える。
コメント:いや、これ絶対ヤバいやつじゃん。なんで登録されたの?私見てないよ?
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「……スルーしよ」
図鑑を閉じて、今日もソファでスヤスヤするかと腰を下ろそうとしたそのとき——
秘書さんが、すっと現れた。
「図鑑、20種類行きましたよね?」
「えっ……あ、そういえば……」
すっかり忘れていた。
向こうからやってくることもあるんだなぁと思いつつ、図鑑を見せると、秘書さんは満足げに頷き、アイテムを渡してくれた。
使い切りの魔法札《瞬間転送・小》。
緊急時に一度だけ、指定地点に即座に移動できる便利アイテムだった。
「ありがと……」
今度こそソファで気持ちよく丸くなろうと、座ってすぐ——
夢見亭の扉が開いた。
入ってきたのは……魚だった。
何を言っているか分からないと思うが、顔が魚だったのだ。
目は左右に離れ、口は常に半開き。
辛うじて人間っぽい髪の毛が生えているのが、逆に人間離れしている感を醸し出していた。
たぬまりは、落ち着かない気持ちになった。
魚顔の客は、店内を見回しながら言った。
「あの~、このお店に識別の紙片を出した魔女さんはいませんか?」
目をそらしたい気持ちでいっぱいだったが、どうやらたぬまりの客らしい。
周りの人間も「早く行け」という空気でたぬまりの方を見ているし、
たまたまホールに居たツバキが「それはたぬまりだ」と答えてしまった。
「……はい、こちらへどうぞ」
仕方なく対応する。
占領していたソファを空けて座らせ、紅茶も注いでやり、話を聞く姿勢を作った。
魚顔の名前は魚取さんというらしい。
魚人という種族のプレイヤーで、今は漁村を拠点にしているという。
その漁村はNPC教団の拠点であり、魚取さんも教団に所属している。
しかし、そこで崇める神がおかしい。
たまたま手に入った識別の紙片で確認してみたかったのだと語る。
最初は当然、神を疑うなんて自分がおかしいと悩んだ。
だが、これで自分の中の疑いが晴れるならと思って使った。
良ければ図鑑情報を見せてほしいということだった。
たぬまりは話が長いなと思ったが、図鑑を見せない理由もないので見せた。
魚取さんは、図鑑をじっと見つめた。
そして——
白目を剥いて、口から泡を吹いて、後ろにぶっ倒れた。
「神よ……」
とうわ言を呟いている。
こっっっっわ!!
正直、怖すぎてたぬまりは反応できなかった。
隣には泡吹いて倒れている魚人。
目の前には、たぬまりの入れた紅茶。
店内の空気が、静かに、しかし確実にたぬまりに向けられていた。
「たぬまりやってないから」
とりあえず、否定しておいた。
でも、誰も信じてくれそうになかった。
クトゥルフ神話にちょっと触れてきます。知らなくても読めるように、怖く無いように書くのでご安心




