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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
はじまりの大陸

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#27 学ラブ!

「たのもーう!」


夢見亭の扉が勢いよく開き、ひとりの男性が声高に入ってきた。

店内の空気が一瞬だけ揺れる。

検証班と野次馬の客たちは、店の片隅で昨日からずっと星を見続けている。

そのため、星の持ち主であるたぬまりは、珍しく店内でゴロゴロすることを許されていた。


ソファに沈みながら、たぬまりは入ってきた男を見て目を細める。

見覚えがある。

そして、男もこちらに気づいたようで、まっすぐ向かってくる。


柔らかそうな茶色のくせ毛。

片方の耳にはトランプのカードをそのままぶら下げたようなピアス。

もう片方はダイスのデザイン。

柄シャツにスリムなパンツ。全体的にチャラい。


前回はよく見ていなかったが、スロット台を譲った隣の席の人だ。

その後ろには、背の高い眼鏡の男性が付き添っている。

真ん中分けの黒髪に、真っ黒な服。無駄のないシルエット。


男はたぬまりの前で立ち止まり、満面の笑みを浮かべる。


「昨日はありがとう!!おかげでガッポガッポ!」


両手でお金のマークを作りながら、ニコニコと笑う。

すかさず、後ろの眼鏡の男が軽く頭を叩いた。


「申し訳ない。コイツはお調子者でマナーがカスなんです」


口調は丁寧だが、言葉は容赦ない。


「マナーがカス……?」

たぬまりは、小さく復唱した。


そこへ店長が現れる。


「姉の店のキャストじゃないか。久しぶりだな」

チャラ男と眼鏡は、軽く頭を下げて挨拶を返す。

店長は紹介しようとたぬまりの方を向く。


「ジェイです!ジャックポットのJから取りました!」

「カラスです。黒が好きです。」


店長は彼らについて説明する。

店長の姉——ヨル学園長は、魔法学院をコンセプトにした女性向けディナーショーの店を経営している。

夕方から開くその店では、キャストが学生服姿で一緒に飲み食いしながらお喋りして、

一日一回、店内ステージでミュージカルを披露するという。

「名前は『学園ノワールクラブ』。略して学ラブだ」


……ミュージカルとホストクラブが合体しちゃったのかな?

業が深い。



「で、なに。今日は何しに来たんだ?店の宣伝か?」

と、店長。

するとジェイが、懐からチケットを取り出す。

「違いますよ~!お礼に来たんです!はいこれ、学ラブ特別席招待チケット!タダで飲み食いできて、ショーも見られるから来てよ!」

タダだよ!タダ!と笑ってたぬまりにチケットを差し出すジェイをカラスが補足する。

「夢見亭なら弟の店だし、学ラブ内での配信もオッケー。だ、そうで。」


店長は眉をひそめる。

「やっぱり宣伝じゃねーか……まぁ、いいや。姉さんのやり口は勉強になるだろうし」

こういう場所に連れて行って面白くなりそうな配信者は……

「モモだな」


店長が呼び出すと、モモがすぐに現れた。




「こんばんはぁ。緊急でカメラを回しております。モモです!」

モモは軽やかに挨拶し、カメラに向かって笑顔を向ける。


「今日は店長のお姉さんのお店に遊びに行くことになったのですよぉ。女性向けのお店ということで、期待しております!ね、たぬまりちゃん」

「なんかチケットもらってタダだから行きます」

「もぉ~~!」



そんなやりとりで配信が始まり、モモは視聴者に向けて話しながら、たぬまりと並んでユメノネの街を歩く。

普段はあまり来ないようなエリア。

街灯が柔らかく灯り、石畳が夜の空気を吸い込んでいる。


マップに指定された地点まで来ると、地下へと続く階段が現れた。


「地下にあるんだ……」


階段を下りると、重厚な扉の前に受付があった。

チケットを見せると、受付の奥から一頭の蝶が舞い上がる。


その蝶は、夜をぎゅっと詰め込んだような存在だった。

羽根は深い藍色に染まり、縁には星屑のような光が散っている。

動きは滑らかで、空気を震わせるように飛ぶ。

光は淡く、幻想的で、自然界には存在しない美しさだった。


蝶が、囁くように語りかける。

「ようこそいらっしゃいました。私は学園長のヨル。今宵は楽しんでいってください。さっそく席へご案内しますね」



よ、ヨルの蝶=夜の蝶!?

最近どこかで話題にあがったような……いやいや、まさか。


モモは、ソファに腰を下ろすと、カメラに向かってにっこり笑った。

「はい、そんなわけで到着です。店長のお姉さんがやっているという、女性向けのディナーショーのお店、学園ノワールクラブに来ております!」


たぬまりは、隣で帽子を抱えながら静かに座っている。


「いやぁ、地下にあるって聞いてたけど、ほんとに地下でした。そして、受付でチケット見せたら蝶が飛んできて……蝶ですよ!?しかも喋るんです。幻想的すぎて、もう、これは夢か現か幻かって感じですねぇ」


モモは、手をひらひらさせながら続ける。


「そしてこの空間。見てください、この照明!このソファ!このドリンクの種類!もう、夢見亭とはまた違った意味で夢のような場所ですね。これは……女子会に使える。いや、使いたい。使わせてください~~~。」


たぬまりは、ドリンクメニューを眺めながら「ふむ……フルーツ系が多いんだね」とぽつり。


「ね、たぬまりちゃんもテンション上がってきたでしょ?」

「……お得だから」

「もぉ~~!その冷静さ、逆に助かります!」



モモは、カメラに向かってウィンクしながら、手元のドリンクを持ち上げた。

「というわけで、今夜はこの学園ノワールクラブ、略して学ラブからお届けします。ショーの時間まで、ゆったりと過ごしていきますので、どうぞお付き合いくださいませ~」


辺りが暗くなり、ステージにスポットライトが灯る。

夜の幕が、静かに上がろうとしていた。

ディナーショーって憧れます

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