#25 きらきら星
夜の遊戯室を出ると、空気がひんやりしていた。
見上げれば、夜だった。深く、静かで、どこか特別な気配が漂っている。
「そういえば、夜の探索ってしたことなかったかも」
たぬまりは、ふと呟いた。
アッシーくんこと魔女の箒も、ほとんど乗っていない。
ちょっと浮くくらいしか使ったことがなかった。
「星空の散歩でもしようか。……どこまで昇れるんだろう」
思い立ったが吉日。
たぬまりは箒を呼び出し、ふわりと乗り込む。
「アッシーくん……いや、やっぱ長いから箒でいいや」
箒は静かに浮かび上がり、夜の空へとぐんぐん昇っていく。
街の灯りが遠ざかり、空気が澄んでいく。
ルルもチョーカーの中で、星のきらめきに喜んでいる気配を見せていた。
そして——
視界一面、星の海。
星々は、まるで呼吸するように瞬いていた。
青、白、金、紫……色とりどりの光が、静かに脈打つ。
遠くには、星座のように並ぶ光の群れ。
近くには、手を伸ばせば届きそうなほど、鮮やかな輝き。
風はなく、音もない。
ただ、星の光だけが、たぬまりの頬を照らしていた。
「……手を伸ばしたら、星に手が届いてしまいそう」
そんなありがちで詩的なことを頭に思い浮かべたたぬまりは、
おもむろに星に手を伸ばして、掴む仕草をした。
手の中に、何か硬いものが入った。
「……え?」
慌ててシステムチャット欄を開く。
履歴を見ると、そこには一行。
【星を採取しました】
「いやいやいや」
手の中には、小さな宝石のような物体。
見た目は、視界の遠くに見える星そのまま。
宝石とは違って、きらきらと発光している。
「これ、星……?」
他の星にも手を伸ばす。採取できた。
ガサっと採れないかと手を振る。いくつかまとめて採取できた。
採ったところの星は一時的に暗くなるが、少しするとまた光りだす。
星のリポップ、早い。
「これ、楽しいかも」
たぬまりは良いことを思いついた。
巾着をふわっと振って採れないだろうか。
やってみたが、採れない。
「手じゃないとダメなのかな?」
普通に手で取った星を巾着に入れてみようとすると、星は貫通していった。
1個、落としてしまった。
「……あっ」
試しに帽子を脱いで入れてみると、貫通せずに入ってくれた。
「法則が分からない……」
色々試してみたが、インベントリには入らず、普通の物は貫通する。
魔力のこもった物は貫通しない……?
「普通に飛んでても星に頭ぶつけたりしないし……採取する前は触る意思がないと当たり判定がないとか?たぶん」
試している間に、6個の星を落とした。
その瞬間、アナウンスが表示された。
【称号:流星を獲得しました】
【称号:観察の魔女 → 流星の魔女 に変化しました】
【ワールドアナウンス:流星注意報】
「……なんかやっちまった」
ワールドアナウンスの詳細を見ると、
「星が落ちてくるので頭上に注意!」「拾ってみよう!」などと書かれている。
結構、愉快な感じだな。突発イベントみたいな扱い?
「まあいいや」
たぬまりは、帽子でガサッと星を採って持って帰ることにした。
みんなに見せてあげよう。
ガサッとやって帽子に入らなかった星が、また落ちてしまったけど——
「気にしないよ」
夜空の中、箒に乗った魔女が、星を集めながら静かに笑っていた。
その背後では、流星がひとつ、またひとつと尾を引いて落ちていく。
星空の散歩を終えたたぬまりは、箒に乗ってゆるやかに降下した。
夜の空気は澄んでいて、街の灯りがぽつぽつと浮かんでいる。
帽子の中には、さっき採った星がいくつか入っていて、きらきらと微かに光っていた。
「……インベントリに入らないから、ずっと抱えてるの、地味に辛い」
箒をしまい、夢見亭の扉を押す。
店内は夜の静けさに包まれていた。
遠征組は不在で、メイドたちもそれぞれの時間を過ごしている。
こまちは、いつものソファでまったりと編み物配信をしていた。
膝に毛糸玉を乗せ、静かな音楽を流しながら、ゆるやかに針を動かしている。
画面には「#こまちの夜編み」タグが表示されていて、コメント欄には「癒される」「この音楽好き」「こまちさんの手元きれい」などの声が並んでいた。
たぬまりは、帽子ごと星をテーブルに置いた。
光がふわりと広がり、周囲の空気が一瞬だけきらめいた。
「ただいま。こまち、お土産」
こまちは、編み針の手を止めて顔を上げた。
「おかえ……り?????」
視界に入った星に、こまちは目を見開いた。
編みかけの毛糸が手から滑り落ちる。
「これ、もしかして……さっきアナウンスがあった星!?」
ワールドアナウンスの原因は、たぬまりだった。
静かだった夢見亭が、ざわつき始める。
「星!?」
「星だ!」
「なんだこれ!」
「テーブルに置けるけど、どこにも収納できないぞ!?」
「たぬまりちゃんなにした!?」
「もしかして、星落とした!?」
メイドたちやお客さんが、次々と集まってくる。
星は小さな宝石のようなサイズで、きらきらと発光している。
テーブルの上で、まるで呼吸するように光を放っていた。
「これ、触れるの?」
「持てるの?」
「落としたらどうなるの?」
議論は止まらない。
夜の夢見亭に、突如として爆弾が落ちたような騒ぎだった。
そんな中、たぬまりは堂々とこまちに言った。
「星、採りづらかったから……虫取り網、じゃなくて星採り網がほしい。あと、星採集カゴ。
普通のじゃ採れないし、入らないから、なんか条件があると思う」
こまちは頭を抱えた。
「……網?カゴ?条件?待って、情報量が多い……」
そのとき、カウンターの隅で静かに飲んでいた客が、すっと立ち上がった。
夢見亭に入り浸っていた、通称“検証班”のひとりだ。
「こんなこともあろうかと、待機してました」
目を輝かせながら、星に近づく。
手元のメニューを開き、ログを確認し、魔力反応を測定し始める。
「星の物理判定、特殊ですね。魔力の通過率が不安定。これは……面白い」
「うわ、始まった」
「検証班が動いたぞ」
「これは長くなるやつ」
【コメント】
夢見亭、今夜も騒がしい
たぬまりちゃん、また何かやった
星採り網www
何に使えるか分からないのにいっぱい取ろうとしててワロタ
検証班、頼むぞ!
こまちは編み針をそっとテーブルに置いた。
「……たぬまりちゃん、ほんとに何してきたの?」
「星、採ってきた」
「うん……うん……わかった。とりあえず、落ち着こうか」
「落ち着いてるよ」
たぬまりは、帽子の中の星をそっと撫でた。
ルルは静かに光っている。
星はまだ法則がよく分からないけど面白い。
たぬまりは、ソファに腰を下ろし、星を眺める。
夢見亭の夜は、今日もきらきらしていた。
昔のスクリーンサーバーでカーソルが虫取り網になって、シャボン玉(記憶が曖昧で違うかも)をひたすら捕まえるのありませんでしたか?検索しても出てこなくて探しているのですが、子供の頃に夢中で遊んだ記憶があり、ふと思い出しました




