#14 滝の裏はお約束
ミズノハ周辺。
たぬまりは、遠征組に連れられて滝の前に立っていた。
水音が絶え間なく響く。
高い崖から流れ落ちる水は、陽光を受けて虹のような光を散らし、周囲の岩肌には苔が柔らかく広がっている。
水辺には霧が立ち込め、空気はひんやりと澄んでいた。
水面には小さな魚が跳ね、岸辺には水鳥が羽を休めている。
「……滝行かな?」
たぬまりがぽつりと呟く。
「滝行したら寒くなってデバフつくよー!」
ひがちーが即答する。
しないよ。
遠征組は、たぬまりを好きに行動させる方針らしく、後ろからのんびりついてくるのでたぬまりは滝の周辺を歩きながら、水辺の草を摘み始める。
• ミズノハミント:清涼感のある香り。お茶や冷製料理に使える。
• シダリ根:水辺に生える細長い根菜。煮るととろみが出る。
• ヒカリ苔:夜間に淡く光る苔。乾燥させて調味料に混ぜると風味が増す。
「食材、けっこうあるな」
そして、定番の滝の裏チェック。
たぬまりは水しぶきを避けながら、滝の裏へと回り込む。
「やっぱり、ゲームだと滝の裏に行けるようになってるんだよね……」
遠征組はにこにこしている。
どうやら、何かを知っているらしいが教えてはくれないようだ。
滝の裏には、細い道が続いていた。
水音が遠ざかり、岩の隙間を抜けると、奥に6畳ほどの空間が広がっていた。
その空間のど真ん中——
宝箱が置いてあった。
「あった!」
たぬまりは、わくわくしながら宝箱に近づく。
木製の箱には金属の装飾が施され、蓋には古びた紋章が刻まれている。
「開けるよ」
蓋を持ち上げると、中には一本のビン。
ラベルには、手書きでこう記されていた。
《ケモケモ変身ポーション》
「……なんだこれ」
遠征組が笑いながら説明してくれる。
「この宝箱、最初に開けた人がレアアイテムを持っていったんだって。ここ以外でも手に入るものだったけど、当時は貴重だったらしいよ」
「そのあとに開けた人は空っぽでガッカリして……それで、次の人の気持ちが少しでも晴れるようにって、手持ちのアイテムを入れたのが始まり」
「今では“アイテム交換の宝箱”って呼ばれてる。空の宝箱がある場所では、こうしてプレイヤー同士でアイテムを交換してるんだよ」
「……そういう楽しみ方、素敵じゃないか」
たぬまりは、ふと思いつく。
「じゃあ、これ入れてみよう」
《識別の紙片》を宝箱にそっと入れる。
誰かが使ったら、勝手にマモノ図鑑に登録されるかも。
観察の魔女ってバレるけど……まあいい。
たぬまり自身も、観察の魔女という称号が何なのか、よく分かっていないし。
なんだか面白そうだ。
「じゃ、もう見るものもないし、戻る?」
遠征組がそう言いかけたとき——
「ちょっと待ってて」
たぬまりは、洞窟の奥へと目を向ける。
なんだか、ずっとこの小さな空間の奥に、何かがあるような気がしていた。
一見、ただの壁。
遠征組も「気になって少し掘ったことあるけど、何もなかったよ」と言う。
「うーん……?」
じゃあ、なんだろう。
たぬまりは、どこかを見ているわけではないが自然と中央の宝箱をぼーっと見つめる。
……。
「なんだか、照れてる気がする」
その瞬間、図鑑がふわりと光る。
【マモノ登録完了:照れ箱】
■登録マモノ:ミミックル
種族:擬態型
属性:隠蔽/収集
特徴:宝箱に擬態するマモノ。人間は食べない。
性格:恥ずかしがり屋。見つかると後ずさりする。
保有スキル:
《擬態》/《アイテム保管》/《照れ逃げ》
コメント:かわいい。照れる。交換文化の守り手。
ミミックルは、恥ずかしそうに後ずさりした。
その瞬間——
洞窟の壁に、マモノがぴたりとハマった。
なんでもない壁ので洞窟らしく凸凹していたので宝箱がぴったりハマるとは思わなかった。
そして、たぬまりたちの足元に、ぽっかりと落とし穴が開く。
『えっ』
なすすべもなく、落ちていく。
落ちた先は——
美しい地底湖だった。
水面は青く澄み、天井からは光の粒が降り注いでいる。
湖の底には光る鉱石が散らばり、岸辺には白い花が咲いていた。
水音は静かで、空気はひんやりと甘い。
「なにここー!?」
「きれいだ……」
「あらまぁ」
遠征組が驚きの声を上げる。
たぬまりも、口をポカーンと開けていた。
そのとき——
湖の中央から、水を割って、巨大な竜が顔を出した。
「おや、小さな生き物か。迷子かな?」
「えっ、えっ……」
「連れて行ってあげよう。ちゃんと掴まっていなさい」
よく分からないまま、たぬまりたちは竜の背に乗り、しがみつく。
なんと竜は、湖の中へと潜り始めたのだった——
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【マモノ登録完了:???《伏竜》】
■登録マモノ:伏竜
種族:竜型
属性:水/???
特徴:地底湖に棲む大型マモノ。
性格:穏やかで好奇心旺盛。
保有スキル:
《水中移動》/《案内》/《???》
コメント:一部情報が読み取れません。観察の魔女の称号により、継続的な接触で情報が解禁される可能性があります。
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