#13 遠征組のお姉様
夢見亭の朝。
たぬまりはカウンター前でくるっと一回転。
「じゃーん!」
新衣装のお披露目。
魔女帽子に、チョーカー《スターリンク》。
とんがり帽子はオシャレに折れ、葉っぱがちょこんと乗っている。猫耳がぴょこっと出ていて、チョーカーの夜空の宝石がきらりと光る。
「たぬき魔女だ!」
「かわいい!」
「似合いすぎでは?」
「たぬきちゃん」
店内がざわつく。
こまちは照れながら「帽子は私が……」と呟き、店長は笑顔で頷いた。
「たぬまりのビジュアルは当然いいけど、こまちの腕前は見事だな。」
たぬまりは帽子のつばを指で持ち上げて、ふふんと鼻を鳴らした。
そんな中、店長がふと話を切り出す。
「そういえば、今日遠征組が帰ってくるぞ」
「遠征組……?」
たぬまりには聞き覚えがなかった。
店長が説明してくれる。
「現実では、たぬまりが大学に行ってる間にシフトに入ってるお姉さんメンバーだ。ゲーム内では戦闘を好んでて、攻略の最前線まで行ってるから、夢見亭にはほとんどいない」
「ほう」
「たぬまりが寝てる間に帰ってきてたこともあるけど、遠征組は店内活動を免除されてるからな。新しく入ったこまちには挨拶して、たぬまりの寝顔を眺めて、サッと前線に戻った」
「寝顔……?」
「遠征組は、戦闘が好きなお客様とよく交流してて、遠征の様子は動画にもなってる。現実での売り上げにも貢献してるんだ。夢見亭の“戦闘部門”って感じだぞ」
「なるほど……」
「でも今、攻略が詰まっててな。始まりの街に戻ったり、いろいろ試してるところ。だから、しばらく夢見亭でのシフトに入ることになった。今までより賑やかになるよ」
そのとき——
「たーだいまー!!」
賑やかな声が店内に響く。
遠征組三人が戻ってきた。
「わあ!たぬまりちゃんが起きてる!かわいい!」
「初めまして」
「あら、こまちちゃんこんにちは」
「二人ともちゃんとお客様にご挨拶しないと」
「ツバキさんおなかすいたー!」
わいわいがやがや。
噂をすればなんとやら、だ。
ひとまず、自己紹介タイム。
「えっと、わたしはモモです。魔法弓使いで、矢は魔法で出してます。あ、現実での眼鏡は伊達じゃないです。耳はここでは本物です」
モモさんはエルフ耳に丸眼鏡。おっとりした口調で、メイド服の裾をふわりと揺らす。
「ひがちーだぞ!召喚魔法で狼を二匹呼んで、あとは拳でぶん殴る!メイドショートパンツは動きやすさ重視!よろしくね!」
ひがちーさんは褐色肌に八重歯、元気いっぱい。申告通りみんなと違ってメイド服のスカート部分がショートパンツになっており、狼のしっぽを腰にぶら下げている。
「私はサキ。剣士です。銀鎧は防御用。大剣は叩くのも斬るのも受けるのも全部使います。夢見亭ではまとめ役……のつもりです。ツバキと同期です」
サキさんは長身で大柄。店長と並ぶとほぼ同じ背丈。落ち着いた声で、背中の大剣を軽く叩いた。
「でね、今ちょっと攻略が詰まっててさー」
ひがちーが口火を切る。
「次のエリアに行くためのボスが、見つからないの。マップ上には“封印の門”って出てるんだけど、開かないんだよねー」
「条件があるのか、何か見落としてるのか……」
サキが腕を組む。
「マモノ図鑑に載ってる“門番”ってやつが関係してるかもって話もあるけど、情報が足りなくて……」
モモが眼鏡を押し上げる。
「だから、夢見亭で情報整理しながら、シフトに入ることになったの。たぬまりちゃん、図鑑の使い方とか、教えてくれる?」
「エッ、はい?」
「こまちちゃん、装備の素材ってどうやって染めてるの?」
「帽子の裏地、どうなってるの?」
「宝石の使い方、教えて!」
質問が止まらない。
たぬまりとこまちは、たじたじ。
「えっと……」
「それは……」
「ちょっと待って……」
そのとき、遠征組の前にドンとツバキが料理を取り出してくれた。
「遠征組が居ない間に作っておいたやつ、配るよー」
遠征組の分はアイテムボックスに保管していたらしい。
皿に盛られた料理が次々と並ぶ。
香草焼きの幻獣肉、月果のピクルス、星茸のグラタン——どれも香り高く、見た目も美しい。
「美味い」
「美味しいです〜〜〜!!」
「ツバキは天才!」
遠征組は夢中で食べ始め、場が落ち着いた。
その間に、秘書さんがこっそりたぬまりに話しかけてきた。
「収集していただいたマモノ情報の報酬です」
渡されたのは、小さな封筒。
中には、銀色の紙片が一枚。
《識別の紙片》
• 種別:使い捨てアイテム
• 効果:未登録のマモノに触れると、マモノ情報がその場で表示され、マモノ図鑑に自動登録される
• 使用回数:1回限り
• 備考:観察の魔女への報酬。譲渡可能。便利だが、使いどころは慎重に。
「……ありがと」
そうして話しているうちに、いつものように話がまとまっていた。
こまちには遠征組の装備更新を依頼。
たぬまりは、周辺のフィールドに連れていかれるらしい。
「本当は最前線まで連れていきたいんだけど、まだレベルが足りないもの」
「危ないし、無理はさせられない」
「でも、ちょっと行ったとこのフィールドまでなら大丈夫っしょ!」
もう決定事項らしい。解せぬ。
たぬまりは帽子のつばを押さえながら、ふかふかのソファに沈んだ。
その姿を見て、遠征組は「かわいい!」とまた騒ぎ出す。
夢見亭は、さらに賑やかになった。




