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メイドさんのマモノ図鑑  作者: 吉良 鈴
にばんめの大陸

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101/107

#101 わんちゃん

犬族のモルテールを歩き始めてすぐ、たぬまりは視線の嵐に包まれた。

通りの両側、窓の奥、屋根の上、果ては植え込みの陰からまで、好奇の目がこちらを覗いている。

耳がぴんと立ち、尻尾がぶんぶんと揺れている。

そして、あちこちから聞こえてくるヒソヒソ声。


「人間だ……」

「人間さん?たぬき族じゃない?」

「たぬき族って何?」

「エルフじゃない?」

「撫でてくれるかな」


たぬまりは、思わず足を止めて周囲を見渡した。

犬種も毛色もサイズも様々な獣人たちが、興味津々でこちらを見ている。

人間の顔に犬耳が付いているようなタイプではなく、そのまま犬が二足歩行して服を着ているような感じである。誰もが笑顔で、誰もが尻尾を振っている。

今にも飛びついてきそうな勢いだ。


前を歩くのは、先ほど港で目が合った犬族の少年。

たぬまりが転送クリスタルに触れているのを見て、来訪者だと察したらしく、街の案内役を自ら買って出た。

今は胸を張って歩いていて、振り返るたびにドヤ顔をしてくる。


「こっちこっち!この通りがメインストリートだよ!」


たぬまりは、少年の後をついて歩きながら、街の様子を眺めた。

白い壁に青い屋根の建物が並び、通りには花が咲いている。

風は涼しく、空気は澄んでいる。

犬族らしき獣人たちが、二足歩行で行き交い、笑い声があちこちから聞こえてくる。


着いてからそんなに経っていないが、もうはっきり分かった。

どうやら犬族の獣人は、人間が大好きらしい。

たぬまりは、犬種様々な獣人たちに好意を向けられていて、ものすごくハッピー空間にいる。

ここは、わんわんパラダイスだ。


「まずは族長に挨拶するべきだよ!」


少年がそう言って、たぬまりを連れて向かったのは、街の奥にある立派なお屋敷だった。

門は高く、庭は広く、建物は石造りで重厚感がある。


「えっ、大丈夫?アポとか要るタイプじゃない?」


たぬまりが不安そうに呟くと、少年は笑って警備の獣人に話しかけた。


「人間連れてきたから族長に挨拶!」


警備の獣人は、耳をぴくりと動かしてたぬまりを見たあと、うなずいて門を開けた。


「……いいんだ、それで」


屋敷の中は、さらに華やかだった。

廊下には絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られている。

メイド服を着た犬族の獣人たちが、忙しそうに行き来していたが、たぬまりを見ると一斉に立ち止まり、目を輝かせた。


「人間さん……!」

「本物……!」

「ようこそ、モルテールへ!」


そのまま、たぬまりは族長の部屋へと通された。

部屋の奥には、年配の犬族が座っていた。

毛並みは銀色で、目は優しく、姿勢は堂々としている。


「遠くからよく来てくれた。歓迎するよ、旅人」


たぬまりが挨拶をすると、族長はにこやかに頷き、すぐに気に入った様子だった。

話すうちに、メイドたちが次々と飲み物やお菓子を運んできて、たぬまりの周囲に集まってくる。


「お疲れでしょう、どうぞこちらを」

「お茶はお好きですか?」

「尻尾を梳かしても良いですか?」

「お膝に乗ってもいいですか?」


「いや、最後のはちょっと待って」


たぬまりは笑いながら応じ、メイドたちのもてなしを受けた。

その様子を見て、族長は満足げに頷いている。


「人間に会える日を、みんな楽しみにしていたんだよ」


屋敷を出ると、外にはさらに多くの犬族が集まっていた。

広場には人だかりならぬ“犬だかり”ができていて、たぬまりが姿を現すと歓声が上がった。


「人間さんだ!」

「撫でてくれるかな!」

「写真撮ってもいい?」


たぬまりは、まるでアイドルになった気分だった。

手を振ると、尻尾が一斉に揺れる。

笑顔を向けると、耳がぴくぴくと動いて犬族もニコニコ。

ファンサービスをするたびに、歓声が上がる。


「……なんだこれ、楽しい」


たぬまりは、広場の隅にある宿屋に案内され、今晩の宿を確保した。

宿の主人も犬族で、にこにこと笑いながら部屋の鍵を渡してくれた。


「人間さん、ゆっくりしていってくださいね」


部屋は清潔で、窓からは街の灯りが見える。

ベッドはふかふかで、毛布には花の刺繍が施されていた。


荷物を置いて、たぬまりはベッドに腰を下ろす。

今日一日で、ずいぶんと濃い体験をした気がする。

新大陸に到達し、犬族の街に入り、族長に挨拶し、アイドルのような歓迎を受けた。


「……さて、明日はどうしようか」


窓の外では、まだ尻尾を振っている犬族がちらほら見える。

他のプレイヤーも来たら驚くだろうな。

100話を超えました。続くもんですねぇ。

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― 新着の感想 ―
モフモフ桃源郷はここにあったとか掲示板に書き込めば意地でも現地入りしそう
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