#10 追いかけっこで金ピカ
#10 追いかけっこで金ピカ
「……ん?なんかある?」
路地裏の奥、たぬまりの目が何かの影を捉えた。
黒くて細い、猫のようなシルエット。だが、目を向けた瞬間にはもう消えている。
「うぉ、待て待て」
たぬまりは駆け出す。
影はひらりと塀を越え、たぬまりが追いつく頃にはまた別の物陰へ。
出てきたと思えば、すぐに隠れる。まるで、追いかけられることを楽しんでいるようだった。
路地裏を抜け、影がマンホールの蓋を押し上げて消えた。
「えぇ?やだけど、やだけども!」
マンホールの下とか嫌すぎる。
だけど、ゲームだし、なんだか挑発されている気がするので行く。
たぬまりはためらいながらも、マンホールを開けて地下へ降りる。
地下道はひんやりしていて、湿った空気が漂っていた。
石造りの壁に、かすかな苔の匂い。影は先を進んでいるが、足音は聞こえない。
「……どこまで行くの」
少し歩くと、階段が現れ、地上へと続いていた。
たぬまりが地上に出ると、今度は屋根の上。影は瓦屋根を軽やかに跳ねていく。
「は?」
たぬまりは、近くの物置を踏み台にして屋根へ。
瓦がきしむ音を気にしながら、屋根から屋根へ渡り歩く。
影は振り返ることもなく、次々と跳ねていく。
そして、また路地裏へ。
たぬまりはもうヘトヘトだった。息は上がり、足は重い。
それでも、ムキになって追っていた。
「……逃がさねぇぞぉ……」
影が、ある店の裏口へすっと入っていく。
たぬまりは、扉が閉まる前に滑り込んだ。
中は薄暗く、階段が地下へと続いている。
たぬまりが降りていくと、そこには——
煌びやかな空間が広がっていた。
天井には星のような光が瞬き、壁には魔法の紋様が浮かび上がっている。
ふかふかのソファ、キラキラしたカウンター、そしてルーレット台が並ぶ。
奥から現れたのは、黒いローブをまとったセクシー魔女。
その肩には、さっきの影——猫のようなマモノが乗っていた。
「ようこそ。ここは“夜の遊戯室”。入れるのは、うちの子が気まぐれで招いた者だけ。他言無用よ」
魔女は微笑みながら、たぬまりにチップを一袋渡す。
「初回サービス。遊んでいきなさいな」
「にゃーん」
たぬまりは、肩に乗った猫のマモノを見つめる。
黒くて細く、輪郭がぼやけて影のようだ。目が金色に光っている。
さっきからずっと翻弄されていた相手だ。
図鑑がふわりと光る。
【マモノ登録完了:影猫】
■登録マモノ:クロミル
種族:幻獣型
属性:影/気まぐれ
特徴:黒く細い猫型マモノ。影のように現れては消える。
生態:特定の空間にのみ現れ、気に入った相手を遊戯室へ導く。
性格:気まぐれで俊敏。いたずら好き。
保有スキル:
《影跳び》/《気配消し》/《招待の爪》
コメント:逃げる。隠れる。誘う。めちゃくちゃ翻弄された。
たぬまりはもうよく分からなかったが、席に案内され、サービスドリンクを受け取ると、満足してしまった。
冷たい飲み物が沁みる。
ふかふかのソファに沈みながら、他のプレイヤーやNPCが遊ぶテーブルをぼんやりと眺めていた。すでに夢見亭にいる時のように寛いでいるが気にしない。
ルーレット台の周囲では、何人かのプレイヤーたちが笑い声を上げたり、肩を落としたりしていた。ここに辿り着いたということは猫と追いかけっこしたのだろうか?
いや、あの魔女の雰囲気からして別ルートもありそうだしなぁ。
たぬまりのようにヘトヘトになっている人が居ないから、たぬまりがレアケースだったということもあるのかも。
チップが弾ける音、カードを配る手元の魔法の光、サイコロが転がる音が、心地よいリズムで空間を満たしている。
NPCのディーラーたちは仮面をつけていて、どこか人間離れした雰囲気を漂わせていた。
壁際には、景品棚があり、魔法の箒や宝石の首飾り、幻獣の卵などがガラスケースに収められていた。
天井には星座のような模様がゆっくりと回転していて、まるで夜空の下にいるような錯覚を覚える。
ソファの隣には、香り高いハーブティーが並ぶドリンクバーがあり、魔法の湯気がふわふわと立ち上っていた。
猫のマモノは、ルーレット台の上をぴょんぴょんと跳ねて、時折プレイヤーの肩に乗っては、耳元で何か囁いているようだった。
そのとき——
ルーレットの動きが、少し妙だった。
たぬまりが「ここに入りたそうだな」と思ったポケットに、金ピカのボールが吸い込まれていく。
そのボールは、どこか意思を持っているように見えた。
「ふむ、やってみよか」
たぬまりはルーレットに参加することにした。
チップを賭けて、ボールを転がす。
「当たり!」
「また当たり!?」
「え、連続!?」
周囲がざわつく。
NPCが「運気が爆発してる……」と呟き、プレイヤーが「この人、何者!?」と目を丸くする。
「当たり!」
「また当たり!」
「え、また!?」
歓声が上がるたびに、チップが山のように積み上がっていく。
たぬまりは、金ピカのボールを見つめた。
「ん?欲しい?」
ボールが、金ピカのチップに向かってぴょんと跳ねたように見えた。
たぬまりがチップを1枚差し出すと、図鑑がふわりと光り、風がたぬまりの髪を揺らした気がした。屋内だから風なんて吹いていないのにね。
【マモノ登録完了:遊球】
■登録マモノ:キンボル
種族:球精
属性:運/金属
特徴:金属の中でも“金”に強く惹かれる性質を持つ球体型マモノ。気に入った金製品に宿り、時折その形を変えて現れる。
生態:自然界には存在せず、金属加工品や装飾品の中に潜む。宿主となる金の物品が気に入らない場合は、振動や跳ねるなどして抗議する。
性格:気まぐれで執着心が強い。気に入った相手や物には懐き、離れようとしない。
保有スキル:
《運気誘導》:周囲の運をわずかに引き寄せる。
《跳ねる意思》:意思表示として跳ねる・振動する。
《宿りの選定》:金属製品の中から宿主を選び、定着する。
コメント:金が好き。跳ねる。主張が強い。懐くと離れない。
スタッフがたぬまりに声をかける。
「景品と交換してみては?」
たぬまりは景品コーナーへ向かう。
並んだ品の中で、最もチップが必要な景品——それは、魔女の箒だった。
魔女の店の魔女の箒。欲しいに決まってる。
「これ、交換で」
即決で魔女の箒を交換。
余ったチップで、高級食材と高級シルク布、小粒の宝石が詰まった巾着も手に入れた。小粒の宝石は加工用なのかもしれないが色んな種類の宝石が入っていてキラキラで綺麗だった。
「食材はツバキに。布はこまちに……」
そして、もうひとつ。
ガラスケースの奥に、金ピカのチップのレプリカが並んでいた。
小さな台座に乗せられ、記念品として飾られている。
「今日の思い出に、いいかも」
たぬまりはそれも交換した。
手のひらに乗るほどのサイズで、表面には“夜の遊戯室”の紋章が刻まれていた。
ふかふかのソファに座り、キラキラした空間で、冷たい飲み物を飲みながら、たぬまりはぼんやりと天井を見上げた。
星座がゆっくりと回る。
猫のマモノが、また肩に乗ってきて、くすくすと笑ったような気がした。
「……いいとこだった。また来よう」
魔女と、肩に乗った影の猫に軽く会釈して、たぬまりは“夜の遊戯室”を後にした。
ゲーム内のカジノとかめっちゃ好きなんですよね。
本編そっちのけで毎日遊んでしまう
キンボルの情報を修正しました




