号外
魔族の襲撃で滅んだ国は歴史上数多くある
『どれほど魔法が強力になり、剣の腕を磨いたとしても魔族からの襲撃があったらその国は滅びる』
そう言われ続けていた
とある1つの帝国を除いて
ローグ大陸内にあるルーデン帝国は過去3度魔族による襲撃を受けている
過去3度の襲撃を退けられた理由は明確になっていない
他の国の者たちは口々に理由を言い連ねた
『優秀な騎士や魔法師がいる
聡明な占星術師が預言していた
神に護られている
強固な結界が張ってある
ルーデン帝国が魔族の巣窟なのではないか』
「号外だよ!号外!こんかいの見出しはこれだ!
〘ルーデン帝国が襲撃を退けられた理由について!〙
白髪の綺麗なお嬢さん一冊あげるよ!」
ルーデン帝国の一番皇宮に近い街にある中央広場で男性が声を張り上げていた
フードを深く被った女性が立ち止まってしばらく号外を見つめた
号外を見つめたまま動かなくなった女性の顔を覗き込もうと体を屈めた瞬間深く被っていたフードをさらに深く被って走って逃げてしまった
女性が逃げた方に顔を向けたらもうすでに女性の姿は無くまるで元からいなかったかのように感じた
「なんだ?あの嬢ちゃん」
中央広場からそこそこ離れた森の泉がある場所に建てられている小さな家に入って号外を閉まってフードを脱いでいたら目の前に赤褐色の髪を肩まで伸ばしている男性が現れた
「お前はいい加減人間と喋った方が良いんじゃねぇの」
「喋れないの分かってるくせに」
冷たく言い放って靴を脱ぎ泉に足をつけて読みかけになっていた本を読みはじめた
本の文字が読みにくくなり文字から目を離してマラカイトのような美しい瞳で星と月を眺めた
本を閉じて仰向けになって星と月が浮かぶ空を呆然と眺めていたらふと月に手を伸ばしたくなった
「そろそろ飯食え……ってお前何してんだ?」
「別に……あの星々を近くで見たらどれだけ綺麗な光を見せてくれるのかなって思ってただけ」
靴を手に持って裸足で家に戻っていった
「ごちそうさま美味しかった」
今日の食事のこだわりや味の感想を話したりしながらお互いに自分のやりたいことをやっていた
少し日が昇り始めたころに家の扉がノックされた
2人がしばらく黙っていたら扉をノックした男が名乗った
「アルレンでございます。陛下からの用向きで参りました」
用件を伝えてもなお扉が空く気配が無かったためアルレンと名乗った男は「では失礼」と軽く言って扉を勢いよく開け放った
サミダレが家の中を見ると読みかけであろう本や魔獣の目撃情報をまとめてある地図などが散乱しているだけで人の気配がないがらんとした状態だった
頭を抑えたアルレンは椅子に腰かけた
「あなた方が出てこられるまで私はここに居座らせていただきます。私耐えることには慣れていますのでご心配なく」
その言葉を聞いてアルレンの対面の椅子にいつの間にか2人が座っていた
「おや思っていたよりもずっと早くて驚きました」
頑なに机の木輪を見つめている女性
机上に置いてある地図を無心で見る男性
そんな2人を見つめて早く用件を伝えようと思った
「率直に申し上げますと皇宮に帰ってきてほしいとのことです」
「断る俺らはあんなとこ帰らねぇ」
金色の瞳に敵意を含んだ視線でこちらを睨んだ彼の言葉を無視して下を向いたままの彼女に話した
「あなた様にとってあそこは苦しい場所なのは陛下も私も存じております。ですがいつまでもあなた様の席を空にはできないのです」
私が彼女にできることは頼むことしかない
「どうかお願いいたします。セレス様」
しばらくの沈黙の後彼女は隣にいた男性の裾を引いた
男性はわざとらしく大きなため息をついて彼女の代弁をした
「行っても何も出来ないから迷惑をかける」
「話さなくても問題ございません」
「顔が見られないようにベールを常につけることを断らないなら行くらしい」
「問題ございません。では後日迎えを手配いたします」
家を出る時に下を向いたままの彼女に一番伝えて欲しいと頼まれた大事なことを伝えた
「陛下もあなた様に会うのをとても楽しみにしております」
森から気配が離れてからセレスが顔をあげた
「魔力抑制の魔道具作らないといけないね」
「断れば良かっただろ」
そう言われバツが悪そうにゴニョゴニョと言い訳をしているセレスを見て難儀なもんだとため息をついた
「そういやお前寝てないから流石に──」
机でうつ伏せになって寝ているセレスを魔道具作成の片手間に魔法で浮かばせてベットまで運んだ
「ギャレーは無理に皇宮ついてこなくていいんだよ?」
まどろみながら嘘のない問いに優しく微笑み
「安心して眠ってくれ」
そう答えながら布団をかけた
その夜ギャレーは眠ったセレスの胸元に真っ白な題名も書かれていない本を乗せた
少ししてその本が光って真っ白だった本が真っ赤に染まった
「汝ハ蛮行ノ後 一人世界ヲ記憶スル」
本に書かれていた内容を読み上げて本をそのまま燃やした