第1話 死からの始まり
鈴木太平、47歳
エンジニアとして働き、家庭では3つ年上の妻と13歳の娘
妻は料理も掃除もからっきしで、娘は思春期に片足を突っ込んだばかり
家事はほとんど自分がやっている
妻も仕事から帰ってきてた疲れたしんどいと言われたら
なんでも率先して家事をこなしてしまう、でも不満はない
家庭は円満だった。毎日明るく笑う2人のためなら、少しくらいの疲れはどうでもいい
いつも仕事は忙しかった
トラブル対応は突発的で、休日出勤もザラだ
それでもなんとかやってこれたのは、自分の性分に合っていたからだろう
物づくり──物を作るのは好きだ
機械製造・設計に組立
家でも工具を握ってはDIY、棚の修理なんて朝飯前
筆をとって絵を描く
陶芸にも手を出した
どこかで“自分の手で形にすること”が、心の奥に染みついていた
けれどある日、ふと足が止まった
会社帰り、コンビニの前で、学生たちが楽しげに話しているのを見た
若さが眩しかった
夢や可能性に満ちた歩み
彼らにはまだ“これから”がある
「……俺は、このままでよかったのか?」
気づけば、疲労は抜けず、白髪が増え、休日はただ横になるだけ
やりたかったことは、できたのか?
やるべきことばかりに追われ、気づけば人生も折り返しを過ぎていた
「……ま、贅沢言ったらバチが当たるか」
苦笑して、視線を上げる
その瞬間だった
キイイイイイイ──ッ!!
耳に飛び込む、甲高いブレーキ音
振り返る暇もなかった
目の前に、信じられないほど大きな鉄の塊が迫ってくる
ドンッ
世界が一瞬、真っ白になった
そのまま、意識は暗闇に沈んでいった──