雨
『雨』
雨が降っている
まるで私の心の裡を映し出すかのように
雨が降り続いている
曇天にはわずかな希望もなく
果てしなく広がる灰色の空は
無限の絶望を示唆しているかのようだ
道は雨に打たれ
その様相を一変させている
道行く人々も一様に沈んだ面持ちで
傘を差し
列をなして静かに歩みを進めていく様は
まるで何かしら
ひとつの大きな悲しみを
みなで共有し悼んでいるかのようだ
誰にもどうすることもできない悲しみが
この世には確かに存在していて
私たちはそのようなものの前ではただただ無力で
嘆くことしかできないのだと
悼むことしかできないのだと
彼らは無言の裡にそう語っているかのようだ
道行く傘のひとつと肩がぶつかる
傘の下の顔とわずかに目線が交わる
何かを確認するかのように交わされた視線は
何も確認することなく虚空をさまよう
私たちはどちらも一言も発することなく
それぞれの道に戻り
歩みを続ける
自分が何を確認しようとしたのか
何を差し出し
何を受け取ろうとしたのか
わからないまま
私はひたすらに歩く
傘も持たないままに
雨はどこまでも私を濡らしていく
私の身体を重くしていく
このまま雨が降り続けば
私は歩みを止めることになるだろう
泥濘にうずくまる私を
雨粒が容赦なく穿ち
心の芯から冷やしていくだろう
そして私は認識するだろう
凍えることは命を失うことだと
命は熱を放つのだと
まだ私の命が熱を放っているあいだに
やっておきたいことがある
だがその方法がわからない
どうすれば私はそこへ辿り着けるだろう
逡巡のあいだにも雨は降り続き
私の身体は重たく
命は冷たくなっていく