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いつかどこかで

 『いつかどこかで』


 永らく私と共にあったもの

 私の一部であったもの

 私の一部でありながら私のすべてと引き換えにしても惜しくはなかったもの

 ただひとつの言葉で言い表すことのできたもの

 けれどどんな言葉でも言い尽くすことのできなかったもの

 瞬間を永遠に、永遠を瞬間に感じさせたもの

 時に温かく、時に厳しく、絶えず変化して倦むことのなかったもの

 私にとっての光であり、風であり、太陽であり、月であったもの

 過去形で語ることが何よりつらいもの


 別れはいつも悲しい

 どのような別れであっても


 愛別離苦の哀しみに慣れることはない


 どれだけ齢を重ねようと

 どれだけ別離を重ねようと


 それは新たな悲しみ

 新たな傷跡と新たな痛み


 いつになっても慣れることはない


 それでも私たちは繰り返す

 この悲しみを、この痛みを繰り返す

 悲しみに心引き裂かれ、痛みに身悶えようとも、それをやめはしない


 求めては失い、失っては求め、もうどれくらい繰り返しただろう

 時に情熱をもち、時に冷熱をもって、飽くことなく


 ただ変わらないものが欲しかった

 いつまでもどこまでも変わることのないもの


 いや、その言は適当ではない


 私が求めていたのは、変わりながらも変わることのないもの

 同じ歩幅で、同じ波長で、私と共に変わってゆくもの

 待つこともなく、追いかけることもない、もうひとりの私


 そのような存在がなければ、私はあまりにも不完全だ

 いまにも砕け散りそうなほど脆く

 いまにも消え入りそうなほどに儚い私という存在

 そんな私を支え、肯定してくれるのは、やはり私でしかありはしない


 私たちは私たちを求め生きる

 私たちに出会い、私たちに別れを告げる

 繰り返し繰り返し、私たちは私たちと出会い、別れる


 いま、私は私に別れを告げる

 ひとつの別れ、ひとつの痛み、だが後悔はない


「あなたがもし、本当に私であるのなら――」


 いつかどこかでまた巡り合える

 私の帰る場所は私でしかありはしないのだから




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