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男女比2:7の野球部で甲子園に出場する  作者: みらいつりびと


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43/48

死闘

 草壁先輩の大飛球はセンターの大弓さんに好捕された。

 つづく9番バッターはきみ。

「残念だったね。1点欲しかったなあ」ときみは言う。

「でも潜水さんはきっとヒヤッとしたね。ワタシも彼女にプレッシャーをかけてくるよ」

 きみは右打席に入り、マウンドに立つライバルを睨む。

 潜水さんは淡々と投げてくる。

 きみはフルスイングする。ホームランを狙っているかのように。

 潜水さんは顔色を変えない。きみは全力で3回振って、三振した。

 3回裏が終わった。

 ここまで1凡打、1飛球、7三振で、潜水投手に完全に抑えられている。

 きみのピッチングもすごくて、3凡打、6三振。

 4回表、きみはマウンドに登る。

 1、2番打者から三振を奪う。

 3番の潜水さんが左打席に立つ。

「スプリットかな? ストレートかな? スプリットに的を絞っちゃおうかなあ?」

 迷わせるようなことを言う。

 僕はストレートのサインを出した。

 外角低めの速球。

 それを狙われていた。

 わかっていても簡単には打てないその球を、潜水さんは完璧にとらえた。

 流し打ち。打球はレフト後方へと飛んでいく。

 ヤバい。ネネさんにはむずかしい打球だ。長打を覚悟した。

 元生徒会書記が走る、走る、走る。

 ジャンプした。

 ゴロゴロと転がった。

 ネネさんは捕っていた。ファインプレー。

「やったのじゃ!」

「ネネ先輩、ナイスファイト!」「ファインプレー! よくやったわ、毬藻さん」「ネネさん、ありがとう~」

 仲間たちがレフトのプレーを称える。

 スタンドも「うおー」と沸いた。

 4回裏、僕は潜水さんのストレートを狙おうと考えて、打席に入った。1球ぐらいは投げてくるだろう。

 1、2球目はスクリューだった。見送った。

「あなた用の変化球なのよ。振ってよ」と潜水さんが言う。

 迷いが生じた。3球目はなにが来る?

 あくまでもストレートを狙うのか、それともスクリューを待つべきか?

 どちらが来ても打つ、というような姿勢で攻略できる投手ではない。

 僕はストレートを狙うことにした。スクリューを打つのは難易度が高い。

 結果は、3球連続スクリューだった。空振り三振した。

「くふっ」と妖しい投手が笑った。

 能々さんも雨宮先輩も三振して、この回の攻撃が終わった。

 重苦しい雰囲気が漂いかけるが、「楽しいね。これこそ決勝戦だよ」ときみは言って、マウンドへ向かう。

 きみの言葉は仲間たちに勇気を与える。

「しまっていこう!」と僕もキャッチャーボックスで声を出す。

 5回表、天上共栄の4番、虫塚さんが右打席でバットを構える。身長180センチを超える筋骨隆々たる男性。

 芯でとらえられたらホームランを打たれそうだ。実際に虫塚さんはホームランバッターで、今大会4本の本塁打を打っている。これは僕に次ぐ数字だ。

 スプリットから入る。

 ブン、と風が唸るスイング。だが、空振りだ。

 次は外角にはずしたボール球。これを強引に打たれた。

 火を吹くようなライナーがセンターを襲った。血の気が引く。

 胡蝶さんが捕球し、尻餅をついた。

「ナイスキャッチ!」と方舟先輩が叫んだ。

 うちの外野陣はもはや初心者ではない。頼もしい。

 きみは5番をピッチャーゴロ、6番を三振に抑えた。

 攻守変わって、5回裏。

 方舟先輩は潜水さんの浮き上がるストレートに当てた。しかし、ボールの下を叩いて、ポップフライになってしまう。ファーストの虫塚さんに捕られてワンアウト。

「打ってやる。潜水さんからヒットを打てたら、死んでもええ」

 異様に気合いの入った表情で、志賀さんが左打席へ向かう。

「ウチにもスクリューを投げてえな」と言う。

 潜水さんはストレートを投げた。

 志賀さんはそれを狙っていたようだ。

 バットの芯でとらえた。強烈なピッチャーライナー。潜水さんは捕り損ない、ボールをグラブではじいた。球が高く上がる。

 セカンドの横光さんが猛然とダッシュして、ノーバウンドでボールを捕った。惜しかった。ツーアウト。

「くそっ」志賀さんは悔しさを剥き出しにした。

 6番の胡蝶さんは三振。

「よくあのボールに当てられますね」と彼女は言った。

 5回を終えて、両ピッチャーとも完全試合をつづけている。

 6回表もきみは相手の7、8、9番を完璧に抑えた。

 その裏、ネネさんが三振した後、草壁先輩に打順が回る。

「スクリューを投げてこいやあ!」と叫ぶ。

 さきほど打たれて悔しかったのか、潜水さんは挑発に乗る。

 先輩はスクリューに相性がいいのかもしれない。

 右翼スタンドに入る大ファウルを打った。

 潜水さんの顔が蒼ざめる。

 もうスクリューは投げなかった。

 ストレートとカーブを投げ、草壁先輩を三振させた。

 つづくきみは潜水さんのストレートを打った。強烈なサードゴロ。

 しかし、うまく捌かれて、スリーアウトチェンジ。

 7回表、きみは横光さんから三振を奪うが、僕はボールに血がついているのに気づく。

 タイムを取って、マウンドへ走る。

 小声で話す。

「右手を見せて」

 きみは僕に手の甲の側を見せる。

 中指の爪から血が流れている。昨日の傷が再発したのだ。

「降板すべきだ。残りの回は草壁先輩に任せよう」

「平気だよ」

「血のついた球を審判に見られる。咎められるよ」

 きみはボールについた血をユニフォームで拭き取り、中指を舐めて、血を吸い取る。

「投げさせて」

「……わかった」

 きみは投げつづける。

 森石さんも三振させて、ボールの血を服でぬぐい、中指を舐める。

 潜水さんがバッターボックスに立つ。

「空尾さん、なんか変だね」と言う。異変に気づかれているようだ。

 僕は沈黙して、相手にしない。 

 きみは力投する。

 スプリットを3連投し、潜水さんを三振させる。この回、三者連続三振。

 僕はきみの精神力に感服する。

 ボールに血がついている。ユニフォームで拭いて、球をマウンドに向かって転がし、なに食わぬ顔でベンチに戻る。

 7回裏、僕はスクリューを打とうと決意して、打席に入る。

 潜水さんを見つめる。

 彼女も僕を一瞥して、ボールを投げる。

 スクリューだった。当てたが、1塁側へのボテボテのファウルゴロ。

 2球目もスクリュー。僕はだんだんとこの変化球に慣れてきた。ジャストミート!

 したつもりだったが、球は高々と上がってしまった。ほぼ定位置のセンターフライ。

 つづく能々さんは三振、雨宮先輩はショートフライ。この回も走者を出すことはできなかった。

 まだ両チームともひとりのランナーも出ていない。ふたりの投手の完全試合が継続している。

 きみは右手の中指を負傷しながらも、華麗なフォームで投げる。応急の治療すらしていない。指先にバンドエイドなどを貼ると、ピッチングに影響が出る。微妙にストレートのコントロールが狂い、スプリットのキレが悪くなる。

 きみは8回の先頭打者からまたしても三振を奪う。

 だが、そこで出血がひどくなる。ポタポタとマウンドに血の雫が落ちる。

「タイム!」と主審がコールする。

「空尾選手、怪我をしているのか?」

「たいしたことはありません」

「血が出ている。どこを怪我したんだね?」

 きみは右手を掲げる。血がたらたらと流れている。

「ベンチへ行って、止血してきたまえ」

 きみはベンチへ行く。監督と話している。

 右手中指に包帯を巻いて、きみはグラウンドに出てきた。まっすぐに僕のところへ来る。

「悔しいが、完投できなかった。ごめん」ときみは言う。

「あやまらないでよ」と僕は答える。

 監督が投手の交代を主審に告げる。

「ピッチャーとファーストの交代のお知らせをします。ピッチャー空尾さんに代わって、草壁さん。ファーストは草壁さんに代わって、空尾さん」と球場に放送が流れる。

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