決勝前日
準決勝2試合は7月26日に行われた。
勝ち抜いたのは、青十字と潜水円華投手を擁する天上共栄だった。
決勝戦は休養日1日をはさんで、明後日28日に行われる。
あと1度勝てば、夏の甲子園大会に出場できる。
夢のような目標まであと1勝だ。
全国高校野球選手権S県大会の決勝に進出したのは、青十字高校にとっては大事件であるらしい。
26日の勝利の直後、夏休みにもかかわらず、全校生徒に連絡が周り、決勝戦では球場へ応援に行こうという呼びかけが行われた。
27日、グラウンドで軽い調整的な練習をしていたら、校長先生と喜多生徒会長が連れ立ってやってきた。
「おーい、みんな、集まってくれ」と高浜先生が大きな声を出した。
ホームベース付近に集まる。
校長と会長が僕たちの前に立った。
「野球部のみなさん、ここまでよくがんばってくれました」と校長が言う。
「明日はぜひ勝って、私たちを甲子園に連れていってください。学校からのささやかな応援として、運転手付きのマイクロバスを借りました。明日午前8時に校門前から出発するよう手配しています。みなさんを県営球場へ送りますので、利用してください」
試合開始時刻は午前10時だ。余裕を持って到着できる。
「ありがとうございます」と部員たちは声を揃える。
「遅刻厳禁だぞ」と監督は言う。
「野球部のみなさん、ご健闘お見事です」と喜多会長が言う。
「ネネくんを取られたときは、正直言って少し恨みましたが、いまは誇らしい気持ちでいっぱいです。みなさん、明日は暑さに負けず、敵にも負けないようがんばってください」
「会長、見に来てほしいのじゃ」
「もちろん応援に行くとも。ネネくん、しっかりとプレイしてくれ」
ネネさんはうなずいた。
「優勝して甲子園に行こう。ワタシたちが生きていた証をこの世界に刻むんだ」ときみは僕に言った。
大袈裟な言葉だと思ったが、きみの真剣な顔を見ると、茶化すことはできなかった。
「うん。がんばろう」
「この命を明日燃焼し尽くしたるわ」と志賀さんは言った。
「燃焼し尽くしたら、甲子園はどうするの?」ときみは混ぜっ返した。
「不死鳥のようによみがえるんや」
「すごっ、千佳ちゃん、キャラが変わるほど燃えてるよ」
「わかるぜ、志賀。あたしは明日、思いきり生きる」と草壁先輩が言う。
「私たちは物語そのものになるのじゃ」とネネさんが言う。
「おまえら熱いなあ。負けてへこむなよ」雨宮先輩は皮肉な笑みを浮かべている。
「不吉なことを言わないで! わたくしたちは勝つのよ! 以後、敗北の文字は使用禁止よ!」と方舟先輩が檄を飛ばす。
「あのあの、わたし、野球部に入って良かったと心から思っています。明日も勝ちましょう」と能々さんが言う。
「禁止用語は使えませんね。優勝して、夏休みを甲子園で過ごしましょう」胡蝶さんは僕を見ながら微笑んでいる。
「監督、なにかひと言お願いします」とキャプテンのきみが言った。
「そういうのは苦手なんだよな」と高浜先生は言う。
「まあ怪我しない程度にがんばれ。前に約束したが、甲子園出場が決まったら、禁煙する。部室では二度と吸わねえ」
「きみぃ、部室で煙草を吸っとったのかね! 校内は全面禁煙だぞ。厳重注意だ!」と校長が怒鳴った。
みんなが笑った。
僕はきみとこの人たちと一緒に甲子園へ行きたいと、初めて切実に思った。




