浦瀬学院戦
ベスト8まで勝ち進んで、青十字高野球部は俄然注目の的となってきた。
SNSがきみや僕に言及している。
「青十字高の天才投手が可愛すぎてヤバい」
「10代の美人快速ピッチャーは、日本野球界のジャンヌ・ダルクとなるか?」
「しびれるスプリット。魔球レベル」
「青十字高は1番バッターもすげえ。甲子園行けるんじゃね?」
「とてつもないホームランバッターが巨乳に弱くて笑」
最後のを読んだときは泣いた。
火鳥遥花さんからせめて1本のヒットくらいは打っておくべきだった。
なにはともあれ4回戦、準々決勝進出。
対戦相手は浦瀬学院。S県の強豪の一角だ。
球場には青十字を応援する人たちが増えている。浦瀬学院の応援団も多く、座席はかなり埋まっている。
うちは先攻になった。
浦瀬学院の先発投手は左の本格派、森林林檎さん。なんと巨乳だった。
「ヤバいぜ、空尾。あたしたち、1点もやれないぞ」と草壁先輩が言う。
「そうだね。完封するよ。雨宮先輩、方舟先輩、千佳ちゃん、点を取ってね」ときみも言う。
必ず打つ。
僕は強く決意して、右打席に立った。
そして打ったが、ホームランにはならず、フェンス直撃の2塁打だった。
「やっぱり打ち損なってる。時根はでかい胸に弱い!」
ぎゃーぎゃーうるさいよ、草壁先輩。ロングヒットを打ってこの言われようって、ひどくないか。
「ドンマイ!」と方舟先輩が言う。え? どうして「ナイスバッティング」って言ってもらえないんですか?
能々さんがバントして、3塁に進塁。
次の雨宮先輩がセンターへ犠牲フライを打ち、僕はホームベースへ還った。
「微妙だけど、得点できたから、ギリ合格」ときみは言う。なんだかなあ。
きみは強豪相手でも崩れない。
快速ストレートとスプリットを相変わらず惚れ惚れするほど美しく低めに集めて、三振と凡打の山を築く。
きみはすでに分析されて、投げる球は知られているはずだ。
それでも打たれない。
速すぎて、ほとんどの打者がわかっていても対応できないのだ。
問題は僕だ。
相手ピッチャーの森林さんの胸が揺れる。
第2打席は三振してしまった。
「ぎゃはははは。予想どおりだ、時根」
ちくしょう。草壁先輩に言い返す言葉がない。
「私、時根さんを推していたのですが、やめるかもしれません」と胡蝶さんまで言う。
無の境地だ、無の境地。般若心境って、どんなだったっけ?
揺れるとか揺れないとかは絶対に考えない。
打つとか打たないとかも考えない。
ふんわりと打席に立って、身体の反射だけに任せる。
色即是空空即是色。
打てた。
第3打席は場外ホームラン。
般若心境はすごい。
きみは宣言どおり完封した。
2対0で勝利。
草壁先輩の三振記録はつづいていた。




